戦闘開始(2)
「青島、一旦攻撃は中止だ」
隣で衝撃波を繰り出し続ける青島にもそう告げ、攻撃を止めた藍川だがそれを見た相手は再び語り始める。
「賢明だね、確かにこの僕の『庭』においてはいくら君たちであってもろくな攻撃は出来ない」
芝居がかった言葉で挑発するがすでに藍川は敵の防御力の正体には気が付いている。
「青島、制圧を打開する」
「あいよ」
そう告げると藍川はその場で構えるような姿勢を取る、これは形成を行わずに直接粒子を操作する「制圧」と呼ばれる行為だ。
潜行空間の粒子には大きく分けて三種類の状態があり「潜行者」の意思に応じて常に変化しし続ける『自由粒子』潜行者や外部プログラムの指令を受け形状を保っている際の『凝固粒子』そして全く変化しない『固定粒子』の状態に分かれる。
通常は『固定粒子』は存在せず『自由粒子』が百パーセントを占める、そこに「潜行者」の指令が加わることによって縄や槍、光線のような形状を保つ『凝固粒子』となる。
『凝固粒子』はその形を保っている指令がなくなることで再び『自由粒子』へと戻る。
通常はそのサイクルを繰り返している状態なのだが唯一『固定粒子』だけは特性が異なっている、いうなれば『固定粒子』は形を取らないという指令を受けた状態の粒子。
周囲の粒子に対してあらかじめ自分の指令にのみ反応して形状変化する様にする指令を掛けておく事によって自分とそれ以外の指令の伝達速度に差をつける。
いくら速度で勝っていたとしてもその指令を伝えるルートが自分たちは一本、敵は九十九本という状況下では勝てるわけがない。
相手に対して攻撃が通らないのはこの周辺に『固定粒子』状態の物が大部分を占めているから、よって藍川は一旦その粒子そのものに対して指令の解除を行い『固定粒子』で保たれている状態を無くしていく事を最優先に行った。
「流石だね、もう気が付いた? しかもかなりの速度で書き換えていってる、やるね!」
そう言いつつも先ほどと異なり攻撃を仕掛けてくる、それは先ほどまでの余裕がなくなって来た証拠だ。
敵が放ってきたのは光る球体、敵の手中に形成されたその物体は空間中を跳ねまわるかのような複雑な動きをしながら二人の方へと飛来する。
「藍川、俺が迎撃する」
「ああ、頼んだ」
青島はそう告げると藍川の前に立ちふさがるかのように移動し再び光槍を手中に形成する、そしてその光槍で向ってくる球体を打ち返し始めた。
不規則な軌道で迫ってくる球体の数はおおよそ十数個、どれほどの手練れであったとしても物理的な動きだけではそれらを打ち返すのは容易ではない。
だが潜行空間ならば別だ、槍を手にした青島はその握り締めた手を高速で三百六十度回転させた、するとその槍の残像は実像となり盾の如く光球をはじき返す。
手首が可動域を越えて無尽蔵に回転し続けているその動きは現実で考えれば絶対に不可能な挙動であるがそのような非現実的な動きさえも潜行空間においては可視化される。
青島が正面から降り注ぐ光球を防ぐが、敵の放つ光球は青島の背後からも接近してくる。
青島の盾は前方からの攻撃を面で防ぐことができるものの前方と後方から同時に攻撃されては弾くことは不可能である。
そのまま背後に球体がぶつかると思われたその瞬間。
「おらぁ!」
青島の背部から回転し円形となっている光槍が体を「すり抜ける」。
回転する光槍は青島の体を構成している部分を透過し背後にある球体を弾き飛ばす。
潜行空間では意思によってあらゆる駆動が可能となる、そこでは腕も足もあくまでも概念に過ぎない、高度な技術を持つ者の現実では不可能な速度の応酬は現実ではありえない駆動として潜行空間に形成される。
その青島の攻防を見ていた藍川は良い腕だ、と素直に感心していた。
この施設では自分が一番期待されている、それは周りからも散々言われてきたことであるし自分の身に付けた腕には自信がある。
だがそれとは裏腹に日々捕獲する犯罪者は増え続け、それに対して犯罪件数は一向に減る兆しを見せなかった、だが自分以外にもこれほどの腕を持つ者はいるのだ。
青島と自分がいるこの状況ならば目の前の存在を捕獲しその尻尾を掴むことが出来る、今の藍川はかつていないほどの興奮と熱気に包まれていた。
「……行くぞ」
書き換えがどの程度終了したのかは外側から見ないと分からない、だが藍川は現時点での勝利を確信し、短く呟いたその言葉と共に跳躍する。
光球を打ち返していた青島の横をすり抜け、光球が今も跳ね回る中へと飛び込んで行く。




