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会議


その後、報告を終えた藍川は部屋に戻る、すると碧が慌てた様子で藍川に詰め寄って来た。


「藍川さん! これ見ましたか!」


 そういって碧は自分の個人機器の画面を藍川の顔に押し付けんばかりの勢いで見せてくる、その距離感に辟易しつつ画面を見るとそこには「他言無用」との注意書きと共に黒柳からの通達文が示されていた。


 それを見た藍川も自分の個人機器を確認する、そこには碧と全く同じ内容の通達が入っていた。

どうやら捕獲に直接かかわる参加者のみに通達を行っているようである。


 そこまでして情報の機密性を保つという事はますます対象者の重要性が伺えると藍川は心中の期待感を募らせていった。


 そしてあくる日、藍川と碧は二人で室内に並んで座っていた。


 この部屋は施設内でも大きい部類に入る会議室であり大学の階段教室に匹敵するような広さを持つ、ここは通常全国の代表者が集う大規模な会議ぐらいでしか使われない。


 その広い室内にたった二人しかいないというこの状況は狭い場所で落ち着くような気質の藍川にとっては全く落ち着かない環境であった。

 おそらくこの会議の参加者はごく少数でしかないのになぜわざわざこの部屋を使う必要があるのかという疑問も出て来るがこれもまた機密性の保持なのではないかと藍川は考えていた。


 先ほど全国の代表者が集う会議と言ったが、今日ではそのような大規模集会はよほどの物でない限りは会議室内の通信機器を使用したビデオ会議で行われるのが一般的である。


そしてこの会議室にはその設備が整っており、名目上は全国同時開催の一大会議のようなものを行っている、という偽装の上で会議を行うつもりなのだろう。


「今回の潜行者は何人いるんでしょう?」

「さあな」


 予定よりも少し早く会議室に到着している藍川と碧は中央の一番前に並んで座り、そんな事を話していた、その後も時間は経過していき開始時間数分前なったというのに未だに二人以外の存在は入ってこない。

 先日送られてきた通達には藍川と碧以外誰がこの作戦に参加しているのかについての事などは書かれていなかった。


 もしかしたら意図的に名前を入れていなかったのではなく本当に自分だけで行うなうのではないか、藍川がその可能性も視野に入れ始めた時前触れなく会議室のドアがノックされた。


 その音を聞いた藍川、碧の両者ともに扉の方へと視線を向ける。

 部屋に入って来たのは男女の二人組。


 男の方は白衣を着てはいるものの髪を赤茶色に染め耳にはピアスを付けている、その恰好からは威厳や誠実さといった物を真っ向から否定していくかのよう。

 女の方はストレートの黒髪に黒縁眼鏡に白衣という如何にも絵に描いたような研究者のような出で立ちをしており目の前の二人組はお互いにちょうど正反対とでもいえるよう雰囲気を放っていた。


「おっす、藍川」

「……こんにちは」


 部屋に入って来た男がすでに着席している藍川と碧の姿を見つけ手を上げながら軽い挨拶をする、そしてその後に続いて女の方も軽く会釈しつつ挨拶を行った。


「やっぱ、藍川も選ばれてたか、つっても当然か?」

「まあな」

青島あおしまさん、朱里あかりさん、宜しくお願いします」

「おう、よろな」

「……よろしく」


 この二人の事は藍川も良く知っている、むしろ藍川が話す機会のある人間と言ったら観測者の碧、部長の黒柳を除いたらこの二人ぐらいしかいないようなものだ。


 部屋に入って来たこの二人は《潜行犯罪捜査機関第一支部》における捕獲ランキング三位の青島雅人あおしままさととその観測者、紺野朱里こんのあかりである。


 不良っぽい印象の青島と真面目そうな印象の朱里は実際に性格も行動も全くの対照的なコンビだがその連携は三位の名に恥じない確かなものがある。


「んじゃま、とりあえず座るか」


 そういうと青島は藍川と碧の後ろの席に座る。


「ほら、朱里も来いよ」


 着席した青島は隣の席を軽くたたきながら青島が座るまで無言で立ったままだった朱里を呼ぶ。


「……失礼します」


 青島に呼ばれた朱里はその席へと向かっていく、その最中も歩く足音すらほとんど感じさせないという極めて無駄のない動きで青島の隣へと腰かける。


「朱里さん、お久しぶりです」

「……久しぶり、碧さん」


 朱里が席に着くと碧は後ろを振り向いて話始める、朱里の物静かな態度からは話しかけるのが躊躇われるような所もあるが碧はほとんど気にすることなく話している。


 朱里の方も碧とは結構仲良くにしているように藍川も感じる、横目で見ると先ほど部屋に入って来た時の表情と比べ、明らかに頬が綻んでいるように見える。


 観測者という仕事は自分の担当している潜行者以外の人間と関わることがほとんどない仕事である為、余程積極的に話すようなことがなければ友人のような関係にはなりにくい。


 それでもいつの間にか仲良くなっているのはやはり碧のコミュニケーション能力が一般と比べてかなり高い結果なのではないかと藍川は思っていた。

 もちろんその陰には彼女の努力があるという事も含めて。


「集まったか、詳しい話を始めるぞ」


 そしてなんの前触れもなく黒柳が現れる、少し眼を逸らして後ろの方を見ていただけなのに部屋に入ってくる気配すら感じなかった、相変わらずこの人は言動と同時に動きまでも不可思議だ。


「ってあれ? 今回二人だけなんすか?」


 そんな中、青島が開口一番質問を繰り出す。


「ああ、勿論潜行空間のラグを防止するために同時に三人までしか潜行はしないの知ってますけど……」

「……今から説明すると言っただろう」


 青島の質問に対し、黒柳が黙っていろという空気を全身から出しながらそう言うが青島は一向に意に介した様子はない。


「……雅人、とりあえず黙って話を聞く」


 すると隣の朱里が青島に静寂を促す。


「へいへい……」


 青島がそれを聞くと特に逆らわずに素直に黙る、自由放漫とでもいえる青島だが朱里の言う事には割と従うことも多い、やはり観測者は他人の心理をどうにかするのが上手いのだろうか。


「……では、これより『ガイスト』所属者の捕獲作戦についての概要を説明する、質問は最後に行うそれまでは黙って聞くように」


 そこまで話し終えると藍川の後ろで噴き出すような音が聞こえる、恐らく青島だ。

 確かに質問はするなと言われる前に質問すると言う先制攻撃を繰り出すという青島の行為は面白いものだった。


 前を見ると黒柳が先ほど以上の圧力を持って静かにしろというオーラを全身から放出している、ちらっと横を見ると碧は目線を下に向けて全力で目をそらしているのが見えた。


「ぐっ……ふ……!」

「静かに……」


 今度は鈍い音が聞こえその後で悶えるような低い声と、朱里の小声がほぼ同時に聞こえた。

 そこから察するに朱里が青島を黙らせるために実力行使を用いたのだろう、朱里もその雰囲気とは裏腹に意外と手が出やすいタイプであるというのを知った時は驚いた。


 その後は最後まで青島は大人しくなることとなった、その代わり碧の方が背後で繰り広げられていた光景を想像して全力で笑いをこらえているような状態になっていたが。


 とそんなことも最初の頃はあったが話が進むにつれてその場にいる全員がその意識をそちらに向けていき、捕獲作戦の会議は一時間弱ほどで終了した。


『捕獲は二日後に行われる、最初に前衛隊が対象に接近しあえて目的の方向へと逃走させる、その後藍川、青島の二名によって捕獲を実行する、二名の投入の理由は前衛隊による負荷を考慮しての事』


 黒柳の説明を要約すると、このようなものとなった。


 潜行では大人数で同時に潜行を行うと潜行空間の粒子の動きが複雑になりすぎて速度が遅くなるインターネットにおける「ラグ」のようなものが発生することが確認されている。


 一般人が移動する程度ならば特に気にする必要もないが戦闘行為をするとなるとそのラグは致命的なものへ繋がる可能性も否定できないため近距離での同時潜行は三人までと決められているのだ。


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