光の住人
※こちらは25年度電撃大賞一次審査落選作となっております。
投稿時からの段落調整以外の手直しは一切行っておりません。
目に映るのは決して眩むほどではない明るさを放つ粒子
その中を駆けていくとそれに合わせて粒子が瞬いていく。
崩れて形を失った粒子は駆ける体の動きに合わせ、風に乗って飛ばされる花びらのように舞う光景を生み出す。
「なんて速さだ……!」
粒子が次々と崩れ光の粒が流れ込む光景の中、聞こえて来るのは焦燥と焦りの声、その声の源は前方の特に輝いている辺りから。
「……あそこか」
その声の源を探し当てたとほぼ同時に輝きの中へ飛び込んで行くのは周囲の中でもひときわ輝く光の塊。
だがそれは塊と言っても頭部があり四肢がある、人の形をした塊。
湧き出るように流れる光の中にその人型が飛び込むと水面から水しぶきが上がる様に粒子が舞い、更に輝きが激しくなってく。
激しく瞬く光の渦の中、外部から飛び込んだ人型は輝きの中に存在しているもう一つの人型の姿を認識する。
「クソッ!」
外から入って来た人型を見るが否や、中にいた存在はその場から逃げるべく高速で移動し始める。
だがその速度は飛び込んで来た人型と比べればはるかに見劣りするようなものであった、それは逃げ切れるような状況にはない事を高々と証明している。
「……ここまでだ」
そう呟いた人型はその光る粒子によって構成された腕と言える部分を掲げ、空間を掴む。
するとその腕の動きに答えるかのように周囲の粒子が集まり始め、腕を中心として新たな形が形成されていく。
集まる粒子は右腕部分に凝縮されていきやがて明確な形としてその空間に形成された、その形状は白蛇の如く滑らかな一本の縄。
それは光を放ち人型の体の一部の様に右腕部分と融合し伸びている。
形成されたその光縄を振り上げた人型は鞭の如く振るう、空間を裂くが如く振るわれた光縄は意思を与えられたかのような動きで逃げる人型を追跡し始める。
逃げる人型が駆けるたびにその動く勢いで周囲の粒子が大量に巻き上げられ煌めきを生み出す中、そのひときわ輝く白光が一直線に走っていく様はまるで星屑の中を進む流星のよう。
終わりだ、その言葉を呟くと一直線に向かって行った光縄はまるで組み紐がほどけるかのように複数の細い光糸へと分裂しそれぞれが人型の背中を追いかける。
そしてその複数の光糸が逃走者に接触するとほぼ同時に絡みつく。
「ぅあぁぁ! クソクソクソッ!」
捕縛された逃走者は罵詈雑言を浴びせて来るが何と言っているのか聞こえたのは最初の方だけで後は言葉にすらなっていない、逃げる為にもがくが体に巻き付く光糸が外れる事はない。
「無駄だ」
多数の糸を従える人型がその腕を引きよせるとその先端についている逃走者は引き寄せられるようにして戻っていく。
そして引き寄せられていく途中で光糸は瞬時に光縄へと束ねられ、再び元の一本へと戻り逃走者の体を乱雑に縛り上げていた光糸は見事な形式の縛りへと変化していた。
「クッソ……畜生……」
捕獲された人型は逃げるのが不可能なのは十分に理解しているのか、そういい残すと抵抗するのを止め静かになる。
「――こちら藍川、逃走犯を捕獲。これより帰還する」
逃走者を捕獲した人型は脳内でそう告げる、するとその一連の光景を見ていた存在「観測者」からの返答が脳内へと返される。
「――この短時間で捕まえるなんて、流石です」
開口一番通信先から聞こえて来るのは賞賛の声、だがその程度で一喜一憂するような彼ではない。
「この程度造作もない、さっさと次の対象を捕獲しに行きたいぐらいだ」
「――凄いですね」
脳内に響く声からは何度言われたかわからないその言葉。
だが藍川は当然の事をしているだけなのだ、この道を選んだのもその理由の一つ。
藍川はこの世界を変えたいと思っていた。
今の世界は悪い方向へと流れ続けている、それを変えるために自分の人生を賭けると誓った。
彼、藍川隆二は「正義」の為に生きる、その覚悟を持っている。