バースディ・ケェキはしんでる
或る、由緒正しそうなお舘がひっそりと風を口ずさんでおりました。
青い、海によく似た森が、そのお舘の向こうには聳えて。
お舘は、気味悪いとも素敵だとも、囁かれるので御座いますが、
その理由は、
大きく広く、古いそのお舘の、いちばん大きく立派な窓には、何時もカーテンがひかれているのでしたから。
しかも真新しく無く、ほつれ、窓には埃と泥が乾いております。
そんな窓に比べ、他の窓のほうが綺麗に保たれている。
なぜ、そこだけ?
そうですね、先ず、その窓の室のことも話しますけれど、
双つ頭の子のこと、おはなし致しますわ。
お舘のこと、由緒正しそうと比喩したの、覚えていらっしゃいます?
ええ、つまりは真実に正しいのですが...
否、王様たちのように、拘りの有る血では無く____どちらと云えば、呪いの血。
古から、頭に立つ主は青の森に隠れて居ました。
その呪いのかけられた血、悪魔がどうの穢れの怒りがどうの、とは違う。
天使に祝われた故の呪われて。
双つ頭の天使に。
彼の窓の室、呆けた扉にはシャム猫が画かれて居るのが目印ですの。
本日は、亦ケェキを届けに参りましたわ。
そう____粗末な蝋燭を立ててね____火を少しだけ____クリィムに蝋燭を突き刺してね________
囀りの叩敲をして、囀りの音が返って来たら、入っても良いのよ。それが合図。
天使との呪いの暗号。
双つ頭の子ら________ほら、これが天使の子________
蝋燭の熔ける香も、すみれの砂糖漬けも、シルクのクリィムも、貴方がたを歓迎している。
銀のフォークで好いかしら。
ああ亦散らかして、吁、錆びたスプーンが可愛そう。これも天使に差し上げましょうね。
双つ頭の子は囀りましたの。
「何処からきたか彼方からきたのか、駒鳥は殺した、あなたが、食べる前にはてをあらおう...」
未だ一つの肩と腹、脚も訴えるように蠢きましたの。
くらげに似た洋灯が右へ左へゆれました。
沙羅の木の額縁は静かに呼吸しました。
ひたすら、バースディ・ケェキの香が唯、
すみまで、バースディ・ケェキの歌が唯、
天使をよびました。
双つ頭の子は、ぐらぐら危なく立ち上がると、子猫のやうに寄って来る。
無駄な装飾の白いフリルやレェス、リボンがふわふわ漂い、
甘つっこい歌をコルセットピアスのはざまが呻く。
双つ頭の子は囀りましたの。
「花に濡れよう、雨を摘もう、海を浴びて森を游ぐ、きっと愉しい」
「遊ぼう、淋しい、痛いわ、遊ぼう、祈りを祷りを、きっと甘い」
未だ一つの肩と腹、脚も歓ぶように蠢きましたの。
貴方の腕に絡みついて、胸にすがりついて、爪に噛みついて。
修飾品の多い、くじら骨の入る透け破けた衣を浮かせて。
貴方は確信致しました。核心に触れました。
吁、この夢の児に下せば________天使の骨格が________見えるのだ。
唯、関係なく。
崩れ飾られたバースディ・ケェキは、しんでる。
歌を遺して、しんでいる...。