05 天狗娘
小柄な娘が多いのは偶然です。
ええ、偶然デスとも。
天狗娘です。
天狗、という種族は物凄く誤解されやすい人々だ。僕も、彼女たちに誤解を抱いていた。
別に赤ら顔ではないし、鼻が邪魔になるぐらい高い訳では無い。顔については、確かにお酒好きで良く赤くなるけれど。ただ空を飛べるのはデフォルトでした。
そして何より、山や森の中にいるわけじゃない。
僕は親から受け継いだ道場の惨状を眺めて思う。狭くなったな、と。狭い理由は見れば分かる。広かった道場は半分仕切られ、片側には数々のトレーニング設備が並び、ちょっとしたジムのようになっている。というか、ジムだ。一応、板張りの床を傷つけないようマットは敷いてある。
僕の家系は代々武道家だったらしく、この道場もかなり古い。入門者がいなくて道場を潰そうと思っていた時に、彼女はやってきた。その彼女はジムとなった道場で日々トレーニングを欠かさない。
「あなたもやりますか?」
彼女の問いかけに、僕は手を横に振って拒否する。汗が眩しい。
天狗という種族は、種族全体が修行マニアのような性格をしている。求道者といえば聞こえはいいが、実のところ趣味人だ。
「そんなこと言わずに」
彼女はラットマシンというトレーニング器具のハンドルをゆっくりと上げ、錘を降ろした。ハンドルを離し、そのまま僕に駆け寄る。床はダンベルやペットボトルが散乱しているというのに彼女は軽やかで、躓く様子もない。
空を飛べる種族だからという訳ではないが、彼女はとても小柄だ。体重も軽い。だというのに、よくもまああんな重いウェイトをこなす。人間とは違い、筋肉の構造が違うのだろうか。腹筋なんか割れている訳でも無いのに、押せば硬い。
彼女は僕に飛びつき、「ね、いっしょにやりましょうよ。鍛えましょうよ」と頬をすり寄せてくる。汗がべとついて冷やっこい。
確かに彼女は良く鍛えられている。が、それでも種族の特性か、柔らかさを維持している。特に胸や下半身などは特に。だから、生理現象は仕方ないとは思いませんか。
彼女の柔らかい太股が、硬くなる僕自身に触れた。
「あっ」
下を見て、ゆっくりと僕を見上げて悪そうな笑顔を僕に向ける。
「むふふ、あなたも好きですねぇ」
ころころと良く回り、耳に残る発音で含み笑いをする彼女。背中の翼をバッサバッサと音を立てて動かすのは期待をしている時の癖、というのは彼女との暮らしで学んだ。
「私はいいですよ。あなた、好きですから」