04 吸血鬼娘2
彼らの愛はこれで良いのです。
「なあ、今日、前のから一ヶ月だよな」
そわそわしている。まっすぐ僕を見ず、手には洗浄済みのメスを僕に差し出しながら。そうか、もう一ヶ月経ったのか。
吸血鬼は自由に血を飲むことはできない。輸血パックを買うには制限が掛かり、無理矢理襲う事は犯罪だ。人間から貰うにも配偶者や恋人、知り合いなどの善意によってのみ、吸血を許されている。動物の血を安く買うことも出来るが、彼女が言うには味は変わりないのに美味しく感じないらしい。
血であればなんでもいい吸血蝙蝠とは違うのだ。
僕は手を差し出す。その手に、彼女は持っていたメスを乗せた。ビニールに個別包装されたメスは、刃部分だけの使い捨てだ。柄はレンタルで滅菌済みの物がやはり個別包装になっている。
注射器を使ってもいいのだが、吸血鬼達の強い要望でメスも許可が下りた。牙を使わない分、衛生的で止血もしやすい。でも、僕は彼女の牙になら、穴を開けられてもいいと思っている。
「そんなものを見つめていないで、な? な? 早く、な?」
毎月、この時だけは、どうしても彼女を哀れに思ってしまう。それほどまでに、新鮮な人の血液というのは甘美、のようだ。
「分かったよ」
僕が答えると、彼女は床にぺたんと膝をつき、そのまま座り込んで僕を見上げる。半開きにした口からは息切れをしたように短く呼吸を繰り返し、顔全体を紅潮させて、だらしなく舌を出し、目には期待を載せて僕を見つめる。
僕は慌てず、テーブルにメスの刃パックを置き、柄のビニールを破いて取り出す。メスの刃を手に取り、刃の柄との接続部を露出するように開けた。ビニールごと刃を摘んで、柄に差し込んで、留め具を押して出来上がり。
「あぁ……」
彼女が声を漏らす。常よりトーンを上げ、上擦った、思わず出てしまったような声だ。
その期待に応えるように、左手薬指の付け根と第2関節の間より少しだけ指先側、肉の厚い部分をメスで切った。
「痛ぅ」
この痛みだけは慣れない。一瞬だけ、血が球のようになり、すぐに溢れた。床にこぼれないうちに左手を彼女に差し出した。
彼女は僕の手を両手で掴み、舌を伸ばして切り口を舐め始めた。
「あっ、ん……」
目を閉じて、大事に舐め、時には舌の上に溜めて飲み込み、唾液と混ぜて口の中を転がしたり。身体を震わせたり、大きく息を吐いたり、時には僕の指をくわえたりする。全身全霊で僕の血を味わっているのだ。
僕は医師の診断により一月に一回、一度に70mlまで与えて良いと言われている。けど、計っているわけでもないのに正確な量が分かるわけがない。きちんと計って与えるようには言われているけど、時間が経てば経つほど血は固まり、彼女にこれほどの感動を与えることは出来ない。だから、感覚で五分。もしかしたら出し過ぎてるかも知れない。
だけれど、僕と彼女はこれでいいのだ。
吸血ってエロいと思います。