一発ネタ04 蛇人の娘と少年Aのその後
知り合いに物凄く期待されたので書いた。
「付き合うことになったんだ」
一番仲のいい友人との会話は、彼のそんなセリフから始まった。
まさか、と俺の脳裏に嫌な予感がじわりじわりと這い寄ってくる。
先日、彼からは恋愛相談を受けていた。お相手は同じクラスのファティマ……蛇人の女だ。いや、しかしあの蛇の行動は獲物を狙っている様に見えてしまう。真意は怖くて聞き出せていないが、不安だ。
「誰とよ?」
数秒の思考後、躊躇いつつ聞き返す俺。頼む、あの名前を言わないでくれ。
「ファティマさん」
奴だったー。
一体彼と奴の間に何があったのだろう。やはり告白か。そのワードが気になるが今は置いておこう。
「そ、そうか。よかったな」
俺は狼狽を極力表情に出さないように祝福を述べた。
教室を見渡すと、ファティマが鶏卵を食べて、いや飲み込んでいるところだった。おやつ、なのか?
「ってことは今日からは昼ご飯は彼女と?」
流石に同じ人を食べる事はしないだろうと俺は思いなおし、改めて友人を祝福することにした。最初の話題は昼食でいいだろう。
「いや、彼女、食べるのが速いだろ?」
丸呑みだもんな。
「だから彼女から先に食べてしまう自分より他の人と一緒にって」
俺と彼は大体、昼食は共に食べていた。彼女も俺に遠慮したのだろうか。遠慮のない体躯だが、心はやはり人と同じ、か。
「そうか、じゃあこれからもよろしくな」
彼は首を縦に振り、俺が差し出した手を握り返す。
少し安心したところで、俺の浅ましい好奇心が蛇でもないのに鎌首をもたげはじめる。人の色恋にはどうしてこう興味を持ちたがるのだろう。その理由は不明だが、ファティマさんは確か友人にとって初めての恋人(だよな? 恋人でいいんだよな? )のはずだ。
そんな恋人とどこまで進んだのか、途端に気になり出した。友人同士の軽口の範囲内だし、ここは気軽に聞いてみるとするか。
「ところで、ファティマさんとはどこまで行ったんだ?」
ああ、教室内だった。聞く場所を間違えたかも知れないな、と思いながら友人の反応を待つ。
「ああ、キスしたよ」
待つ、というほどの間もなく、彼は簡潔に答えた。展開が速い。そしてここは教室だ。昼休みでも放課後でもない10分の短い放課だ。同級生が一杯いるぞ。
聞く俺もどうかしてるが、彼はきっと幸せなのだろう。そこにつけ込んでしまったのは少々反省せねばなるまい。
「ちょっと冷たかったよ」
要求してないのに感想まで言ってきた。そして彼の後方、ファティマが自分の席からこちらに首を向けガン見してきている。まったく瞬きせずに樹の虚のような目でじいと見てくるので非常に怖い。あ、舌出し入れした。獲物を見る目なのか、それとも怒っているのか。表情が見えない。
そしてやはり冷たいのか。鱗だからか爬虫類だからか。どっちだ。
「あ、でも先にディープキスはやらないでって言われたよ」
そんな所まで聞く気は無かったんだ。幸せそうに語る彼を放置しては噛まれるかも知れない。そう思って俺は止めようとする。
「お、おい」
「毒があるから口の中は駄目なんだってさ」
言い切った。止めようとするのが遅かったようだ。ていうか毒があるのかよあいつ。
ガラガラガラガラガラガラ
なにやら激しい乾いた音がする。俺のすぐ後から。咄嗟に振り向くとそこには激しくシェイクする蛇の尻尾らしき、いやつまりファティマの尻尾だ。
背筋に恐ろしいモノを感じて素早く前に向き直ると、ファティマが友人の背後にいた。そして蛇の目で俺を見る。睨んでいるのか?
「恥ずかしいから秘密にしてねっていったじゃないですか」
「ごめんごめん、つい自慢したくなって」
俺の恐怖をよそに2人は自分たちの空間を作り始める。今のは自慢だったのか。分かりにくい。俺の背後ではファティマの尾先がカラカラと乾いた音を立てている。嬉しいのか尻尾を緩く振っているようだ。
周囲を見渡すと2人の惚気にクラスメイト達は引いている。間近ならば恐怖だが、少し離れればただの激しい惚気なのだろうか。
そして俺はもう二度と2人の進展を気にしないことにした。
恐らく彼女を書くことはもうあるまい……




