03 吸血鬼娘
吸血鬼娘です。
彼女は吸血鬼だ。彼女たちは固形物を消化できないらしい。そして一番の好物は共通して血液だ。それも人間の血液がいいらしい。
ただ輸血用の血液を飲用で消費していては足りなくなるので購入には制限が掛かる。だから他人から貰うしかない。配偶者とか。
だから、家では彼女が料理をする。
僕が作った赤いエプロンをした彼女の後姿は小さい。液体だけで身体を維持するために自然と身体のサイズが小さくなる、というのが彼女の言い分。肉が薄く、色素の薄い彼女は抱きしめたら折れてしまいそうなくらい儚い。でも牛乳は飲めるので骨は丈夫らしい。
「もう少し待ってろよ」
中華鍋が欲しいとねだるので買い与えたけど、豪快に振るには筋肉が足りないらしく、小刻みに鍋を揺する。そのリズムに合わせて細い腰が左右に動く。
人に頼らねば生きていけなかったころの名残か、彼女たち吸血鬼は基本的に美形だ。もちろん彼女も。自身の弱さを隠す様にプライドも高い。だから彼女は孤独だった。孤高で、気高く、美しい。そんな彼女は皆の憧れだった。でも、僕は知ってしまったのだ。
「できたぞ」
できあがった料理を皿によそい、僕の前に置いた。僕は炊飯ジャーからご飯を茶碗に盛りつける。
「少し減らせ。カロリー取りすぎだ」
彼女は栄養士の資格を持っている。固形物を摂取出来ない彼女には大変だったろうなと思う。自分は食べられないのに何でと、前に聞いたことがある。
「お前のためだよ」
と、当然のように言われ、こっちが恥ずかしくなった記憶がある。
彼女の料理は香りがいい。食欲をそそる香りをしながらも、食べ過ぎないように作る量は控えめで、栄養バランスが考えられた料理だ。でも、彼女は固形物を食べられないので、味見は液体に限る。だから、偶に、とても希にではあるが、失敗もする。
バターで衣を揚げるように焼いたカソレットにドロッとしたソースが衣を台無しにしてべっちょべちょ。香ばしい臭いなのに食感は真逆。微妙な顔をした僕をみて、彼女は無言でお皿を引こうとする。
「離せ」
泣きそう。僕が皿の縁を指で強めに摘めば、それだけで彼女は皿を引けないのだ。
「美味しいよ。大丈夫」
「大丈夫じゃない」
彼女の拗ね顔は可愛い。
「味は美味しいよ。ご飯と一緒に食べれば大丈夫だから」
でも僕は彼女が笑っていたほうが好きだから、笑っていてほしい。
美味しかったよ、の一言で凄く嬉しそうになる彼女が、とても好きなのだ。