電気豚の餌
「電気豚、ねぇ」
S氏は小さく溜め息を吐いた。薄暗い部屋の中でディスプレイの明かりだけが彼の疲れ切った顔を照らしている。
画面の中の掲示板では電気豚の噂が一人歩きを始めていた。
「まさに燎原の火の如しだな」
荒唐無稽な噂だ。
小説投稿サイトの評価ポイントを、文字通り“食べる”豚の存在。
しかし、一片の真実味も含んでいる。不自然に上下する点数の行方は、以前から作家陣の興味の対象となっていた。
「火消しをするべきかな」
サイトを管理する会社で責任ある地位に就いているS氏にとって、この類いの蜚語はあまり心地よいものではない。
カウンターとなる噂を流そうとキーボードに手を伸ばしかけ、止めた。
「まぁ、嘘には嘘の良いところがあるか」
特に、その嘘によって誰も傷つかない場合には。
「それにしても・・・」
S氏は画面上を飛び回るアバターを見つめた。
「本当は、カブトムシなんだがなぁ」
視線の先で、電気甲虫が評価ポイントを旨そうに啜っていた。