表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の孫は、職探しに苦労している。  作者: 平木明日香
第1章 25歳、無職。
11/17

第7話 仕事選びという難題



夕飯を食べ終わったあと、俺は自分の部屋に戻ってベッドの上に寝転がっていた。


婆ちゃんの家はそこまで大きな家じゃないけど、昔から使われていた客間を俺の部屋として使わせてもらっている。壁は少し古い木材の色をしていて、窓からは新興住宅区の通りが見える。夜になると外は静かで、遠くの街灯の光がぼんやりと道を照らしているだけだ。


こうして一人になると、自然と昼間のことを思い出す。


職業ギルド。


求人票。


応募候補。


「……さて」


俺はベッドの上で腕を組みながら天井を見た。


改めて考えてみる。


今日ピックアップした仕事。


物流会社の管理補助。


魔導機械工房の作業補助。


建設会社の現場作業員。


小さな商会の営業補助。


全部で五件くらいあったはずだ。


応募書類は明日まとめて書くとして、問題はその中でどこを本命にするかだ。


就職活動なんて今までまともにやったことがないから、こういうことを考えるのもなんだか新鮮というか、妙に現実味がある。まあ、本来なら二十五歳にもなって「初めて考えてます」みたいな顔をしている時点でだいぶ遅いんだけど。


それでも、一応俺の中には優先順位みたいなものがある。


まず――


休日。


これはかなり重要だ。


できれば土日休みがいい。


世の中には週休一日とか、シフト制で休みがバラバラな仕事もあるけど、正直あんま好きじゃないんだよな…。あんまり贅沢は言えないけど、休みが不定期だと友達とも予定が組みにくくなるし、生活のリズムも崩れそうだし、なにより気持ち的に落ち着かない気がする。週休1日なんて論外だ。


その点、企業系の仕事は比較的休みが安定しているところが多い。土日休み、もしくは週休二日。これだけでもだいぶありがたい。


次に大事なのは――


会社の規模。


これも意外と重要だ。


できれば、ある程度の規模があるところがいい。


別に大企業じゃなくていい。ベルンハイムにそんな会社があるわけでもないし。でも、あまりにも小さいところはちょっと怖い。


というのも、小さすぎる会社って、なんというか……。


ワンマン経営っぽいイメージがある。


社長が絶対みたいな。


俺が高校を卒業してすぐ働いた会社が、まさにそれだった。


あれはザルツブルグにいた頃の話だ。


父親の事業が傾き始めて、家の空気がだいぶ重くなっていた頃で、俺も「とりあえず働くか」みたいな感じで小さな運送会社に入った。社員は十人ちょっとしかいない会社で、社長も現場に出てくるタイプの人だった。


最初のうちは特に問題なかった。


ただ、ある日。


荷物の積み込み作業で、ちょっとしたミスをした。


箱の配置を間違えたんだ。


それだけ。


それだけだったんだけど――。


「お前なにやってんだ!」


って怒鳴られて。


次の瞬間。


頭をどつかれた。


いや、マジで。


本当に物理的に。


手のひらで、ゴンって。


あれは本当にびっくりした。


だって、学校の先生ですらそんなことしなかったのに、社会に出たらいきなり頭を叩かれるんだからな。あまりの出来事に一瞬なにが起きたのかわからなくて、そのあと妙に冷静になってしまったのを覚えている。


まあ、その会社は結局すぐ辞めた。


というか、あの一件で「あ、ここ無理だな」と思った。


だから俺の中では、小さすぎる会社はちょっと警戒してしまう。


もちろん全部がそうとは限らないんだけど、どうしてもイメージがね。


「……とはいえ」


俺は軽く寝返りを打つ。


問題はここからだ。


ベルンハイムは地方都市だ。


人口は四万五千人くらい。


つまり、企業の規模にも限界がある。


ザルツブルグみたいに巨大企業の本社があるわけでもないし、大きな研究機関があるわけでもない。街の経済は基本的に物流、農産物市場、軽工業、小さな商会なんかで回っている。


だから「それなりの会社」と言っても、どうしても幅が限られる。


求人票に載っていた会社も、だいたいは従業員数が二十人とか三十人とか、そのくらいの規模だった。


まあ、地方都市なら普通だ。


贅沢を言っても仕方ない。


「それに……」


もう一つ、俺の中で考えていることがある。


できれば。


今まで経験していない仕事の方がいい。


体力仕事は嫌いじゃない。


むしろ体を動かすのは得意な方だと思う。


でも、職人系の仕事って、なんとなくイメージがある。


やたら厳しい。


怒鳴られる。


弟子扱い。


そういうやつだ。


もちろん全部がそうとは思わないけど、鍛冶工房とか建築工房とか、ああいうところは職人気質が強い人が多そうだし、修行みたいな感じになりそうな気がする。


俺、あんまり向いてない気がするんだよなぁ。


たぶん。


根性論とか。


上下関係とか。


そういうの。


「……となると」


俺はぼんやり天井を見つめながら、頭の中で候補を並べる。


物流会社。


魔導機械工房。


建設会社。


商会。


この中で一番イメージがつくのは――


物流関係か。


荷物の管理とか配送調整とかなら、前にバイトで似たようなことをやっていたし、仕事の流れもなんとなく想像できる。体力も使うけど、ずっと現場で働くわけじゃないし、事務的な作業もあるらしい。


会社の規模もそこそこだった。


確か従業員が四十人くらい。


ベルンハイムの企業としては、わりと大きい方だ。


休日も週休二日。


条件としては悪くない。


……悪くないんだけど。


「……いやでも」


俺は思わず眉をしかめた。


物流って。


結局のところ。


単純作業が多いんだよな。


荷物の確認。


仕分け。


伝票整理。


配送スケジュール。


それを毎日繰り返す仕事。


いや、もちろん社会にとって大事な仕事だっていうのはわかる。物流が止まったら経済も止まるっていう話は、学校でも習った。


でも。


なんというか。


毎日同じことの繰り返しって、俺にできるんだろうか。


三ヶ月でバイト辞めた人間が言うのもなんだけど。


「……うーん」


天井を見つめながら、俺は唸った。


仕事は必要だ。


働かなきゃいけない。


それはもうわかっている。


でも。


できれば――


少しくらいは。


「面白そうだな」と思える仕事がいい。


そんなことを考えている時点で、まだ甘いのかもしれないけど。


俺はしばらく天井を見つめたまま、ぼんやり考え続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ