第1話:異世界召喚、僕だけまさかの「お呼びじゃない」!?
「あーーーー! もう帰りてぇえええええ!!!」
叫んだ。喉がちぎれるほど思いっきり。
だって見てくれよ。目の前の木はピンク、芝生は紫。毒々しい水色のキノコまで生えちゃってる。
なんじゃそれ初めて見たわ。
聞いて驚け。僕は多分、あれだ。
異世界に来てしまったのではないか。それも現在進行形で!!!
スマホ? ない。 あったらすぐに某マップ開いてる。
写真も撮れない、SNSにアップもできない。寝る間を惜しんで育てた僕のゲームキャラたちともお別れだ。
はい、もうお分かりですね。
この状況、詰んでる。完全なる手詰まりだ。
「僕は異世界ものを見る側が好きなの! プレイヤー側じゃねぇ!! 観測者にさせろおおおおお!!!!」
再び絶叫。さっきよりも全力で。
そこで、ふと我に返った。
……あ。
横をちらりと見ると、案の定、美青年の天音凪が目を見開いてこちらを見ている。
うわ。恥ずかしすぎて、今すぐあの水色キノコに顔を埋めたい。
……落ち着け。まずは整理しよう。
おっす! 僕、近見修!!
バイトと就活に明け暮れる、どこにでもいる大学生……のはずだった。
自信を持ってそう言える。
なのに、どうしてこうなった。
大学の帰り道、少し前を天音が歩いていた。
親しくはないけれど顔見知りではある。そんな天音。
挨拶はしない、したくない。勿論自分から話しかけたりはしない。
バレたら気を遣って話さなければならない、それが面倒。
だから離れて歩く。その選択肢を選んだのだ。
それから話しかけないよう距離を計る防衛戦は続いた。
なのに、だ。
信号待ちという「イベント」のせいで、天音との距離が強制的にゼロになる。
僕の努力は全て無駄になりました。ちゃんちゃんこ鍋。
なんて考えていると、天音の体が車道へと突き出た。
猛スピードで走る車に向かって。
「っ……!?」
勝手に身体が動いた。
考えるよりも、生存本能よりも早く。
僕は天音を追うように、死の道へと飛び出した。
「天音っ!!」
視界に広がったのはトラックでも乗用車でもなく、眩い光。
またしても考える間もなく、浮遊感に苛まれて…。
――……冒頭に戻るのだった。
「なんで?!あのままいくと轢かれるじゃん!ケガもないし、あの光は何!!!」
「わからない」
「てかお前何道路に飛び出とんじゃ!危ないやろ…っ。もう事後ですが…」
「そうだね」
となぜか楽しそうにお腹を抱えて笑う天音。
仮にも轢かれた後なのに、場違いにもほどがある。
そんな場違いな態度を取る彼だけど、顔も整っていて、光を受けて輝くレモン色の髪型は大学内で有名だった。
噂では家が裕福って聞いたこともある。
そんな天賦の才を全部乗せしたような奴、さぞかし人目に晒される環境にいたんだろうな。
知らんけど。
「何で笑うわけ。てか自殺願望でもあったの」
「ないよ。ただなぜだか急に引っ張られるようにして道路に出てた」
ほうほう。つまり、自分の意志で道路に飛び出たわけではないと。
「…えっと、一応状況をまとめよう。突然謎の力に引っ張られちゃった天音、それを追いかけた僕。その先に見たのはぶつかる車でもなく、眩い光。謎の浮遊感を体験して目を覚ますと、現実では見たことがないありえない光景!極めつけの様に、周りの背景は木がピンク!芝生は紫!!なんかそこらに生えてるキノコは青色でキュート!!!」
「キノコがキュート?むしろビビットカラー過ぎて絶対毒あるでしょ」
天音知識ノート1:天音と僕は「キュート」の価値観が違う。
「えぇ…、口出すところそこなの?もっとさ…色々あるじゃん?」
「このおかしな状況にツッコミ入れるなんて、疲れるだけかと」
「正論」
確かにこの状況にツッコミを入れるだけで体力を使う。摩訶不思議の世界だもんな。
「こんな見知らぬ場所に来たんだし、僕らってまさか死んで転生した?夢でもない限り……ゆ、め………。そうか、これは夢か!!!!!!!」
なぁんだ、夢ならそんなに重く考える必要もないな。
「よし寝よう」
僕は紫色の芝生に寝転がった。
芝生の感触はフワフワしている。なんか綿あめみたいな手触りで悪くはない。
天音は首を傾げた後、目を細めてニコリと上品に笑う。見る人によればその美しさに卒倒する笑みであるが、どこか先知れぬ何かを宿している。しかしそこがまた彼の美しさを際立たせている。イケメンは罪。
「…っていててててってててて!!!」
「目が覚めないから、これは現実だね♪」
こ、こいつ。笑顔のまま、僕の頬を思いっきり引っ張りやがった!!!!
「『現実だね♪』じゃなああああい!なんでさっきからそんなに気楽に構えてんの???!もしかしてバカなの?????」
「君よりかはバカじゃない自信はあるかな?」
今度は少し挑発するような笑顔だ。もうこいつの笑顔には騙されないぞ。
天音知識ノート2:天音の笑顔は数種類存在する。大抵何かやばい時に発動。多分。
「ここにいらしたのですね!!!」
突如、声が降ってきたと思ったら。
「ひでふ?!」
――今、僕から聞いたことのない声が出た。
それもそのはず。
僕の顔面を蹴って勢いよく天音に飛びつく誰か。
髪色は白色で、ツインテールがふさふさと揺れている。
てか上から降ってきたのに、どうしてパンツが見えなかったんだろうとか、別に本能的に目が追って確認したとかそういう点は置いておいて。
「えっと、知り合い?」
例のツインテの子はずっと天音に抱き着いたまま。むしろ自らぎゅうぎゅう締め付けるような感じ。
天音は笑顔を浮かべているが、それは背筋が凍るような怖い感じがする。
恐らく天音はこのままニコニコとやり過ごすのだろう。そう思えたから、仕方なく僕から口を開いた。
だって絶対この天音の笑顔は悪いやつだから。
……コミュ力珍しく高いよ、偉くね僕。
「まさか。初めましてだよ」
表情は冷たいまま、声だけは優しい雰囲気を出す天音。あいつ器用だな。
「僕はミオと申します!勇者様!!!」
声は意外と中性的だな…じゃなくてゆうしゃ、ゆーしゃ?勇者!!!!!!!!
「僕の予想やっぱり当たってたじゃん!異世界もの!!転生かはしらんけど!!やーい!勇者様!!!」
「近見、やめて」
「なんでだよ、勇者ってすごいじゃん、伝説じゃん! このっ、勇者め!」
バシバシとミオを避ける様に天音を叩くと、叩かれている本人は目を細めて僕を見てくる。
ふふん、天音の顔にはもう騙されないぞ!
「君ねぇ…」
「ふむ。勇者様と一緒に関係ない人を連れてきたみたいですね、お帰り下さい」
「「…は?」」
初めて天音とハモッたな、嬉しくはないけど。
ツインテの子が何かを呟くと、本日二度目のまばゆい光に包まれる。そしてすぐに訪れる浮遊感。
これってもしかして―――…!!!!
* * *
「……はぁっ!」
勢いよく飛び起きると、一面真っ白の空間に花と果物。
花は通常色、リンゴも通常色。僕の見慣れたものだ。
まあ、向こうの家や花、リンゴは現物を見たことがないんだけど。あったのって木やキノコだけだし。
でも僕はこの空間を知っている。知っているぞ。
ドラマでしか見たことないけど。ここはそう。おそらく病院の入院部屋!!
「あ~、帰れたんだ!マジ意味わかんなかった。寝よ」
あんなに帰りたいと思っていたのに、いざ帰ってみたら眠気の圧倒的勝利。
こんなこというのもだけど、やっぱり自分の世界が一番だ。
あっ、天音。
……あいつはどうなった??
まあでも、僕が生きているってことはアイツも生きているだろうし。
きっと異世界で元気にやってるだろ。だから大丈夫。寝よう。
そう思って、目を閉じた。
……はずだった。
「……っ」
気付いたら涙が出ていた。
ツインテの子は『勇者様と一緒に関係ない人を連れてきた』といった。
そんできっと、元の世界に帰れたのは僕だけ。
あいつはこれから“勇者”になって、全く知らない場所で、知り合いも情もない世界を救うのだろう。
天音とはそんなに親しくはない。異世界に行って初めて挨拶以外の会話をしたくらいの仲だけど。
それでもあの時、天音の腕をつかんで一緒に戻っていれば、あいつは本来の世界でまだ生きていたのかな。
僕は見知らぬ世界で天音を残してしまった、あいつに勇者という重荷を一人で負わせてしまった。
グルグルとそんな考えが浮かんでもう駄目だった。涙は止まりそうにない。
「あ~、くそ。天音の奴許さん……」
こんな後味悪い感情残していくなんて本当に許さん。
「呼んだ???」
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!」
悲鳴が出た。こんな声出せるなんて自分でもびっくりだわ。
でも驚くだろ、いるはずのない天音が目の前に現れたから!
「人類史上初酷い悲鳴! もう二度と聞きたくはないランキング1位」
「 言いすぎだろ! てか、え? 本物ですか? もしかして怨念とか幽霊……」
「本物だけど」
嘘つけ。
そう思って足を見るけど、ほんとだ。
透けてないし地に足が付いている。
「……なんで?」
「なんでって、迎えに来たよ」
「おう?天国に?」
「異世界に」
「は????」
ナニイッテンノ、コイツ。
「いやいやいや、だってこっちの世界に戻れたじゃん。あっちに戻る必要ないし!」
「戻る必要あるよ」
「え? なんで」
「僕、こっちの世界で死んじゃったみたいだから。こっちでは生きられないみたい」
「パチパチパチパチ…」
これは拍手ではない。
僕は今、まばたきを高速でしている。
そして無意識にまばたきの擬音を口に出していたのである。
まばたきの擬音って何。
「やっぱ幽霊じゃん……? 」
「失礼な。とにかく戻るよ」
「えぇ……。まあいいけど」
「いいんだ……殴って気絶させる勢いで来たのに」
おい。
「なんでまた泣くの」
確かに頬を伝う大粒の涙。
天音が登場したときに引っ込んでいたそれが、再び零れたのに気がついた。
「何でって、そりゃ色々。天音が死んじゃったのもそうだし、改めて現実に居てもお先真っ暗だなぁって! 未だに就職先見つからないしさぁ」
「だから異世界に?」
「情けないだろ、はやく連れてけ」
そういって天音の手を掴む。いや掴んだつもりだったんだけど、手はすり抜けて宙をさまよった。
「ぎゃああああ!やっぱりおまっ……幽霊じゃん!!」
「泣いたり驚いたり忙しいね、近見は。でも気分が変わる前に連れてくよ」
チラリとみた天音はとびっきりの笑顔だった。
多分、これは裏表ないやつ。
天音が小さく何かを呟くと、本日三度目のまばゆい光に包まれる。
そしてすぐに訪れる浮遊感。
あー、これこれ。今まさに異世界へと向かっておりますわ。




