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封印した記憶を探して  作者: さくら優


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8/12

8.二匹目

「おや、巽君と弓弦君、こんにちは」


雑木林を出て空き地に戻ると、そこには田渕の姿があった。


「こんにちは⋯。田渕さん、その犬は?」


田渕は柴犬を連れていた。昔のタロを思い起こさせる。


「最近また飼い始めたんだよ。名前はケンと言うんだ」

「そうなんですね。かわいい」


弓弦は撫でてもいいか田渕に聞き、ケンの首元を撫でる。


「ここ、なんか模様がありますね」

「そうなんだ。反対側にもあるよ」

「ほんとだ。なんかオシャレでかっこいい。いいな~お前」


わしゃわしゃと撫でる弓弦に、ケンも大人しくされるがままになっている。随分と人懐っこいようだ。


「今、林の中から出て来なかったかい? 何をしていたんだ?」

「それが、友達が行方不明になって」

「なんだって!?」

「あ、でももう見つかったんです。大丈夫です」


気色ばむ田渕に無事だったことを告げると、そうか、とほっとしたように溜息を吐いた。


「もしかして、あの倉庫を見に行ってたのかい?」

「あ⋯、はい」

「そうか。この前旅館の犬が殺されたと言っていたからね。20年前の誘拐事件と、何か関係があるかもしれないと」


田渕は巽の気持ちを察するように、小さく頷いた。

巽の、何の根拠もない憶測を否定することなく、真摯に聞いてくれる。


「けど、倉庫には何もなかったし、昔の事件とは、多分無関係なんです」


そう、巽が関連付けたい気持ちがあるだけで、きっと無関係。


「巽君は、事件のことは忘れていたんだろう? 何か思い出したのかい?」

「少しなら⋯。けどまだ断片的で」


見たはずの犯人の顔も覚えていない。きっと調べれば分かることで、見れば何か思い出すかもしれないが。


犯人が捕まった後、巽が嫌なことを思い出さないように、両親がそういった情報は全てシャットアウトしていた。大人になるにつれ、自然と事件の概要なんかは耳に入って来るようにはなったが、これまでは特段調べようとは思わなかった。


「忘れていたいなら、無理に思い出すことはないよ」

「そう、ですね⋯」


田渕はもう少し空き地でケンを遊ばせると言うので、巽たちは病院へ向かうことにした。



   ✦✦✦


病院に着くと、待合室に委員長の姿があった。


「古賀!」

「委員長、橋本は?」

「今念のため検査を受けてるけど、大丈夫だ」

「どこにいたんだ?」

「中学の近くの、今は使われてない倉庫に閉じ込められてたらしい」


凍死するような時期ではなかったことと、早く見つかったことで大事には至らなかったようだ。


「やっぱり、誘拐、なのか?」

「俺も詳しいことは聞いてないけど、多分」


これから警察が事情を聞いて色々調べるらしいが、昨夜、迎えに来ると言っていた恋人を待っていたところで、突然薬のようなものを嗅がされ気を失ってしまったらしい。


「古賀巽さんと羽多野弓弦さんですか?」

「? そうですけど」


改めて香菜の無事を確認したことでほっとしていたところに、スーツ姿の男2人が近付いてきた。


「県警の大木と言います。少しお話よろしいですか?」

「警察?」


大木と名乗った刑事は、警察手帳を開いて見せる。


なぜ自分たちが?と巽は眉を顰める。隣にやって来た弓弦と軽く目配せをして、目の前の2人を見据えた。


「先ほど、このような動画がネットにアップされまして」

「動画?」


もう1人の刑事がスマホの画面を見せてくる。動画投稿サイトの画面だが、再生はせず真ん中に三角のマークが見えた。


再生すらされない動画に、巽は眉を顰めた。香菜のことと何か関係があるのだろうか。


「ちょっとここでは再生は控えます。かなり、ショッキングな動画なので」

「何の動画ですか?」

「先日の、旅館の犬が殺された様子が映っています」

「え⋯」


背筋がスッと冷たくなる感覚がした。隣で弓弦が小さく震えたような気がして、宥めるように背中を撫でる。


「すぐに削除要請を出したので、元の画像は削除されると思いますが、すでに拡散されているので、全部は難しいでしょうね」

「その動画と、俺たちが何の関係があるんですか?」

「この動画と同時刻に、同じアカウントから別の動画もアップされました。こちらは、20年前に撮影されたものです」

「それって⋯」


吐き気が込み上げるような気がして、巽は口を押さえた。ずっと感じていた自分の根拠のない憶測は、やはり正しかったのだ。


「20年前、田渕さんのお宅の犬、タロが殺された時の動画です」



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