6.同窓会
家に帰ってきて、しばらくは田舎に行くこともないだろうと思っていたのだが、意外にもその機会はすぐに訪れた。
「よう古賀。久しぶり」
「久しぶり」
中学の時の同窓会に誘われた巽は、再び子どもの頃に過ごしたこの町にやって来ていた。
「古賀君! 良かった〜。今日来ないんじゃないかと思ったよ」
「橋本じゃん。久しぶり。元気?」
「元気元気。古賀君こそ大丈夫?」
「まあ⋯」
小学校から一緒だった橋本香菜に大丈夫かと声をかけられ、巽は苦笑する。
「もしかして、聞いた?」
「弓弦にね。もともと一周忌で帰るって聞いてただけなんだけど、旅館の事件も噂になってたから」
「そうか⋯」
香菜は、一時期弓弦と付き合っていた。今でも友人として連絡をとることがあるらしい。この町に住んでいるので、かるかんが殺された事件は知っているだろうし、弓弦から話を聞いていてもおかしくない。
香菜が心配していた通り、巽はもともと同窓会に参加するつもりはなかったのだけれど、弓弦も含め周りから散々、気分転換にもなるだろうから行けと言われて来たのだ。
「もしかして、弓弦に同窓会のこと話したのって橋本か?」
「そうだよ。返事来ないって幹事の子から聞いて、弓弦にどうしてるか聞いたの」
「⋯⋯」
巽は渋い顔をするが、昔からの友人というのはその程度でめげるものではなかった。
「どうせ今回も来る気なかったんでしょ。まあ気持ちはわかるけど。⋯まだたった1年しかたってないんだもんね」
「そう、だな。けど、弓弦にも、その屍みたいな生活なんとかしろって言われたし」
「弓弦きびしー。ウチらじゃそんなこと言えないけど、あの子は身内だもんね。そう言われたら頑張るしかないかぁ」
香菜はそう言いながらビールを煽った。
「あのさ」
「んー?」
「なんで、弓弦と別れたんだ?」
「え、なに今更」
確かに今更だ。2人が付き合っていたのはもう十年も前の話。しかしふいに気になってしまったのだ。今でも何かあれば連絡をとるほどには仲が良いようだし。
「弓弦に聞いてないの?」
「昔聞いたけど、なんか、合わなかった、とか要領を得ない感じの答えだった」
振られたと言っていた割にはそれほどショックを受けているようにも見えず、自分が歳下だから子どもっぽくて合わないんじゃないか、そんなことを言っていた。
「うん、まあそんな感じ」
「適当だな」
「高校生の時の恋愛なんてさぁ、みんながみんな真面目にやってるわけないじゃん?」
確かにそれはそうなのだが。ただ、もしかしたら弓弦はまだ未練があるのでは、なんてことを思ってしまっただけで。さすがに10年も経っていてそれはないか。しかしあれ以降、弓弦に彼女がいるというのは聞いたことがない。
「お二人さん、飲んでる〜?」
橋本と2人で静かに飲んでいると、幹事をやっている元委員長がやって来た。
「橋本さん、ありがとな。古賀に連絡してくれて」
「いや別に。私が連絡したわけじゃないし」
「悪いな。俺がメッセスルーしてたから」
「いやまあいいんだけどさ。みんな色々事情はあるし」
色々。多くは大卒で就職して社会人5年目だ。仕事で忙しくて来られない人も多い。
「そう言えば、橋本さん結婚するんだって?」
「うん」
「え? マジで? おめでとう。言ってよ、変な話しちゃったじゃん」
結婚するとわかっていれば、元彼の話なんて振らなかったのに。
「ありがと。別にいいよ〜。弓弦の方がイケメンだしね」
「お? いいのか、言っちゃうぞ婚約者に」
「委員長知らないでしょうが」
「どんな人?」
「ふふん。最高よ、顔以外は。写真見る?」
香菜はそう言って、スマホにある写真を見せてくれた。幸せそうで何よりだ。
「結構交友関係も広いの。古賀君にも紹介したげよっか?」
「いや、俺は別に」
「古賀君、研究職でしょ? あんまり出会いとかないんじゃない?」
確かに出会いはない。人と積極的に関わる仕事でもない。
社会に出ると、自分のような人間は、本当に人と出会う機会が減る。
「別にさ、まだ1年だし、恋愛とかそういうのを考える必要はないと思うけど、でもちゃんと人生楽しんでいいと思うよ」
「⋯そう、だな」
弓弦と似たようなことを言う。自分の周りは、結構過保護なようだ。
「まあ、新しい出会いがあればいいってもんでもないけどね。すでに出会った人の中に運命の相手がいる可能性もある」
「お、それが橋本さんの婚約者の話だな?」
委員長と香菜が結婚の話で盛り上がり始めると、少しずつ興味を持った何人かも集まってきた。巽はそれを、時々相槌を打ちながら、黙って聞いていた。
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お開きとなり、各々二次会へ行ったり帰宅したりする中、巽は再度香菜に声をかける。
「あのさ、この前の旅館の事件なんだけど」
「ああうん、犬が殺されちゃったっていう⋯」
「なんか、進展とか聞いてる? 犯人捕まったとか」
しかし香菜は首を横に振った。
この町に住んでいる香菜なら何か知っているかと思ったが、どうやら新しい情報は入っていないようだ。
「まだ捕まってないと思うよ。砂川君がやってる旅館でしょ? 聞いたげよっか?」
「いや、いい」
砂川のことも知っているようだ。まあ小さな町なので、年が近いと大抵が知り合いになる。
だがわざわざ香菜に頼むまでもない。砂川なら弓弦経由で聞けばいいだけだ。
「古賀〜。二次会行くだろ?」
「いや、帰る」
「マジで? もう電車ないぞ」
「え、嘘⋯」
巽は慌ててスマホで終電を調べた。まだそれほど遅い時間ではない。そんなまさかと思ったが、見ると終電は10分後だった。
「走ればギリいけるかも。走る?」
「⋯⋯」
どうりで、帰る面々はお開きになったらすぐに駅に向かっていったわけだ。田舎なので上り電車は早めに終電になってしまうことを失念していた。
素面ならまだしも、酒を飲んだ状態で10分も全力疾走出来るとは思えない。
「橋本はどうすんの?」
「私は迎えが来るから」
「そっか」
家も近いし、彼氏が迎えに来てくれるのだろう。
正直二次会まで参加するつもりは全くなかったのだが、電車がない以上、オールだという二次会に一緒に行くしかないかと諦めたところで、弓弦からスマホにメッセージが届いた。
『同窓会終わった?』
わざわざ何だろうと不思議に思いつつも、終わったと返信する。
『今近くにいるから、良かったら迎えに行くけど、もう電車乗ってる?』
「! 委員長、俺やっぱ帰る」
渡りに船とばかりに弓弦に迎えを頼み、誘ってくれた委員長に断りを入れた。
「え、なに、走んの?」
「いや、迎えが来るから」
「そっか。じゃあまたな」
二次会に行く面々に別れを告げ、巽は店の駐車場へ向かった。しばらくして、弓弦の車が駐車場に入って来る。
「ありがとな。助かった」
「どういたしまして」
今から家に帰るとなると、着くのはだいぶ遅くなる。弓弦はこの近くにいたと言っていたけれど、何か用事があったのだろうか。
「ちょっと実家に帰ってただけだよ」
「そうだったのか。終電終わったって聞いて焦ってたから、ほんと助かったよ」
「そんなことだろうと思ってた。同窓会楽しかった?」
「ああ」
最初気乗りしなかったが、行ってみると結構楽しかった。
改めて懐かしさを感じながら窓の外の夜景を眺めていると、酔いもあって瞼が重くなってくる。
「着いたら起こすから、寝てていいよ」
「ん⋯」
弓弦のその言葉を最後に、巽はすぐに眠りに落ちていった。




