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封印した記憶を探して  作者: さくら優


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4.タロの墓

巽がこの町に住んでいたのは、中学を卒業するまでだった。


親の転勤を機に引っ越したが、それほど遠くへ行ったわけではない。高校生の行動範囲を鑑みても、麻里とも普通に付き合っていける距離だった。


しかし、巽は忙しさを理由にあまり麻里とは会っていなかった。


麻里に恋愛感情がなかったわけではないが、純粋な感情だったかと問われれば微妙なところだ。火傷を負わせてしまった責務のように感じることもあれば、逆にそれを理由に、彼女を自分のものにしているような背徳感を得ることもあった。


頻繁に揺れ動く感情が、思春期の自分にとって煩わしく感じていたのかもしれない。



巽たちがやって来た場所は、タロのお墓があったところだった。


「もう、なんにもないね」

「そうだな」


畑の隅に作られていたそれは、当時は木の棒が立てられ、いつも花やドッグフードなんかが供えられていたが、今はもう跡形もない。タロが死んでしまってすぐの頃は、よく麻里たちを誘ってここへ来たけれど、事件の後は近付かないようにきつく言われていて、巽も来るのはあの事件以来だ。


ここへ来れば、何か思い出すかと思ったのだが。


巽は周囲を見回した。畑の方も長らく手を付けられていた形跡がなく、荒れ地へと変化しつつあるようだ。


「こんにちは」

「!」


その時、ふいに背後から声をかけられた。


ビクッと震えて振り返ると、初老の男性が立っていた。


こんな寂れた場所にはあまり似つかわしくない、身なりの良い格好。杖を持っているが、必要にかられてというよりは、ファッションの一部のように見える。


「君、もしかして古賀さんのとこの巽君かい?」

「え⋯、なんで⋯」

「田渕だよ。よくタロに会いに来てくれただろう?」

「あ!」


男はタロの飼い主だった。つまりはこの土地の持ち主だ。


「あ、すみません、勝手に入って」

「いやいや、いいんだ。ごめんね〜、タロのお墓もこの有様でね」

「いえ⋯」


田渕は、今は雑草が生い茂るタロのお墓があった場所を、軽く杖で払う。


「今日は⋯あぁそうか、麻里ちゃんの⋯」

「⋯はい。昨日一周忌をやって」


うんうん、と田渕は静かに頷く。


「麻里ちゃんも、タロが大好きだったからねえ」

「そう、ですね」


田渕は、巽が麻里との思い出に浸ってこの場所を訪れたと思っているのだろうか。


一瞬、田渕にタロが殺された時の話を聞いてみようかとも思った。今朝の旅館の事件との繋がりが、何かわかるかもしれない。


しかし、 それはやめておこうとすぐに考えを改める。今更、可愛がっていたペットが殺された事件のことなど、思い出したくはないだろう。


巽はそう思ったのだが、


「田渕さん」

「なんだい?」

「タロが殺された時の話、聞かせてもらえませんか?」

「弓弦!」


弓弦の方が切り出してしまった。軽く睨むが弓弦は気にした様子はない。


「聞いたら、今朝の事件との繋がりが何かわかるかもしれないよ」

「そうだけど」

「今朝の事件?」

「今朝、旅館で犬が殺されたんです。20年前のタロみたいに」

「それは⋯、」


田渕は大きく目を瞠った後、辛そうに俯いて頭を振った。かわいそうに、一言そう呟く。


「タロは⋯。門の前で殺されていたんだ。頭と心臓を深く刺されていた。おそらく即死だっただろう」

「⋯⋯」

「その後で、身体のあちこちを傷つけられて⋯」

「ひどい⋯」


じわじわ痛めつけられたわけではなく、殺された後に傷を付けられたらしい。苦しんだ時間が短かったことはまだ救いだが、だからこそ鳴き声もほぼ聞こえず、家にいた田渕たちも気が付かなかったそうだ。


「犯人は、捕まったんでしたね⋯」

「そうだね。その後の⋯、誘拐犯でもあったから」


聞こえないくらいの、微かな声で田渕は言った。誘拐された巽のことを気遣っているのだろう。


「田渕さんは、その、犯人が今どうしてるかなんて、知らないですよね?」


正直知りたいことでもないだろう。巽だって本来なら考えたくもないことだった。


「どこにいるかは知らないが、最近刑務所から出て来たと聞いてるよ」

「最近?」

「捕まるまでに結構時間がかかったからね。余罪も割とあったようだし。確か、一度出て来た後、また事件を起こして刑務所に入っていたはずだ」

「そうだったんですね」


あの誘拐事件、心の傷は大きかったが、巽たちは直接的な怪我はほとんどなかった。寒い場所に放置されていたため、若干凍傷になったくらいだ。


なので、刑務所に入ったとしても数年で出てくるだろうと思っていたのだが。


しかしそうなると、ますます今朝の事件との繋がりがあるように思えてくる。


「そいつがまた、事件を起こしたのかもしれないってことだね?」

「⋯まだわかりません。その辺は警察が調べると思います」


話してくれた田渕に礼を言い、巽たちは車へ戻った。家に寄っていくかと田渕は聞いてきたが、それは辞退する。


「この後どうする?」

「もう1カ所、付き合ってもらってもいいか?」

「うん」


エンジンをかける弓弦に、巽は次の目的地を告げた。


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