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封印した記憶を探して  作者: さくら優


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10/12

10.真犯人

翌日、スマホにメッセージが届く音で目が覚めた。


チラッと画面を見ると、送り主は見覚えのない名前だったので、DM広告の類だろうと中身は見ずに放置した。


トイレに行って顔を洗って戻ってくると、弓弦も目を覚ましたようだ。


「弓弦、今日仕事は?」

「休み〜」


だからなのか、二度寝しようと再び布団に潜り込む。


それならもう少しのんびりしようと、巽もベッドに寄りかかってスマホを開いた。


さっきのメッセージはなんだったのだろうと開いてみると、何やら動画再生が始まった。


「なん、だ、これ⋯⋯」


みるみる顔が青褪める。止めようとして手が滑り、スマホが床に落ちた。


「たつ兄? どしたの?」


様子がおかしい巽に気付き、弓弦がベッドから起き上がる。落ちたスマホを拾い、再生されている動画を目にして息を呑んだ。


犬が、刺し殺されている動画だった。


「た、つ兄、何これ⋯」

「わからない。さっき、送られてきて」

「誰から?」

「知らない相手だ」


送り主の名前にはtrと書かれていた。イニシャルだろうか。


これが、昨日大木が言っていた、かるかんが殺された時の動画だろうか。いや、柴犬だからタロの方か。巽たちは結局、動画サイトにアップされたという件の動画は見ていない。


「これ⋯、ケンだ⋯」

「え?」


呆然と画面を見つめていた弓弦が呟いた。


「田渕さんちの⋯。耳の所の模様が同じ」

「模様?」


見ると、両耳にスペードのような形の模様があった。そういえば、昨日田渕に会った時、2人でケンの模様の話をしていたことを思い出す。


「そんな⋯。なんで⋯」


20年前に続いて2度目。狙われているのは田渕なのか。


しかし巽は、動画に映ったあるものを見て目を疑う。


「弓弦、この杖」

「なに?」


動かなくなったケンをどかすように映った杖。


似ている。田渕が持っていた杖に。


「え⋯、どういうこと⋯?」


犯人が田渕の杖を奪ったのか。それとも、田渕の方にも危険が⋯?


――いや。


「これ、合成じゃないか?」


よくよく見ると、動画は所々貼り付けたような違和感があった。合成を疑って見ると、ますますそんな風に見えてくる。


「田渕さんのところへ行く」

「え⋯?」

「ケンはまだ無事かもしれない」


動画が合成なら、生きている可能性が高い。


「待って! 警察に連絡した方が⋯」

「⋯いや」


映っている杖が田渕のもので、これが合成なら、この動画の送り主は田渕本人かもしれない。なぜこんなことをするのか。20年前の誘拐事件も、実は田渕が関わっていたのか。

それを、確かめなければいけない気がした。


これが合成で送り主が田渕だった場合、本来なら警察が動くような事件ではないだろう。

少々行き過ぎた趣味の悪い動画を知り合いに送っただけ。田渕の罪は現状これだけ。もっとも、昨日投稿された動画の件があるので、今回に限っては色々と調べられるんだろうが。


おびき寄せられている感はある。しかしだからこそ、行けば真相に近付ける気がした。


「だったら、俺も行く」

「弓弦⋯。ああ、行こう」


巽は、スマホを握り締め忌々しげに唇を噛んだ。



   ✦✦✦


田渕の家に到着すると、巽はすぐに門の横の呼び鈴を鳴らした。しかし、誰も出てくる気配はない。


「留守かな⋯」


耳を澄ますが、犬の鳴き声も聞こえなかった。嫌な予感がして、門を開けて中に入る。

しかし中庭へ回ると、そこには呑気に昼寝をするケンの姿があった。巽たちに気付くと、立ち上がり尻尾を振る。


「ケン! 良かった〜。無事だったんだね」


弓弦はケンに駆け寄ると、ギュッと抱き締めて頭を撫でた。


どこも怪我などはしていないようだ。やはりあの動画は合成だった。


相変わらず家の中からは誰も出て来ない。田渕は出かけているのだろうか。


「たつ兄、なに? あれ⋯」


ふと、弓弦が庭の奥の方を指差した。小さく震える指の先から視線を移すと、赤い、水たまりのようなものが見える。


「ワン!」

「っ!」


ケンが一声鳴いて、犬小屋へ走って入っていった。


巽は恐る恐る、その赤い水たまりに近づく。

まるで血溜まりのようなそれは、本物の血ではなく偽物だった。演劇なんかで使う血糊。送られてきた動画をここで撮影したのか、それとも、それっぽくするためにあえて血糊を撒いたのか。


そこを起点に、点々と血糊が更に奥へ続き、林の方へ向かっているようだった。


そばに来た弓弦がギュッと腕を掴んでくる。


巽は弓弦に小さく頷くと、林の中へと足を向けた。



   ✦✦✦


慎重に林の中を進んでいく。獣道のようなものが出来ているそこは、時々まるで目印のように、木の幹に赤い血糊が付けられていた。


明らかな誘い。罠。


それでも、巽は足を止めなかった。


「! あそこって⋯」


しばらく歩くと、見覚えのある建物が目に入る。つい最近もここへ来たから間違いない。巽たちが誘拐されて閉じ込められていた、あの倉庫だった。


田渕の家からだとこんなに近かったのだと衝撃を受ける。


「っ!?」


ふと、背後から視線を感じて振り返った。以前にも感じたことがある、纏わりつくような嫌な気配。


生い茂る木々の隙間に、一瞬チラッと覗いた背中を巽の意識が捉える。


「待てっ!」


逃げる背中を2人は追った。走り難い山道ではすぐに息が上がるが、それは相手も同じだった。

弓弦の手が、逃げる男の腕を掴む。


「くっ⋯」

「やっぱり、あなただったんですね。田渕さん」


弓弦に腕を掴まれた田渕は、はあはあと息を乱しながらも、ニヤリと笑みを浮かべた。


その表情は、今まで巽たちに向けられてきたものとは、全く別の異質な笑みだった。


薄ら寒いものを感じながらも、巽は真っ直ぐに相手の顔を見据える。


「なんで逃げるんですか? こんなものを送ってきて、ここへおびき寄せたのはあなたの方でしょう?」

「まあねぇ。特に意味はないが、こういう時は逃げるもんだろ?」

「⋯⋯」


何か、まともに相手をしてはいけない気がする。気を抜くと相手のペースに持っていかれそうだ。


「よく出来てただろう? その動画」

「なんでこんなもの⋯。まさか、旅館の犬が殺された動画も、あなたが⋯?」

「そうだよ」

「っ!」


田渕は掴んでいた弓弦の手を振り払った。もう逃げる気はなさそうだから問題はないだろう。むしろ田渕は、話したくてうずうずしているように見える。


「旅館の犬だけじゃない。タロが殺された時の動画も、僕が投稿したんだよ」

「え⋯⋯、」

「な、んで⋯、だってタロは、あなたの家族なのに⋯」

「ちがうよ?」

「――え?」


違う? 何が?


「タロは僕の家族じゃない。アレは、僕のモノだ」


スーッと血の気が引いていく感覚がした。本能的に距離を取ろうとして僅かに動いた拍子に、カサ、と落ち葉が音を立てる。



「僕のモノをどうしようが勝手だろう? だから知り合いに依頼して、殺させたんだよ」


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