断罪まで待ってはおりません~悪役令嬢は誇り高く
彼女の愛国心は行き過ぎていたのか?
何故か?
何故かと問うのですか?
それは当然、私が王太子殿下の婚約者であり、カストリア公爵家のエレンティアですからですわ。
私はやるべきことをやった。それだけのことです。
嫉妬に駆られて?
あなたもそのようなことを仰るのですか。
彼の男爵令嬢と王太子殿下の昨今の風聞は聞くに堪えないものでありました。そのことで気分を害さなかったと言えば嘘になるでしょう。
ええ、大いに気分を害しましたとも。
けれど、だからなんだというのです?
私の行いは全て我が家の名に係わります。
当然ですとも。貴族であるなら行いも言動も家の名を背負うものでしょう。
婚約者たる殿下が他の女性に興味を抱いたからと言って嫉妬に狂って喚き散らすとでも?
そんな町娘のような真似、この私がするはずがありません。
ええ、ええ、彼の男爵令嬢には物を申しました。
愛人であろうと愛妾、側室であろうと、殿下のお側にいるのならそれなりの品格、礼儀というものが求められます。品位無い者を側においては殿下の質まで問われてしまいます。
王太子殿下は次代の王。
国を牽引すべき重責を担うお方です。
その方の名に傷が付くようなことがあってはなりません。
ですから、礼儀作法に関していくらか忠告は致しました。殿下の品位を保つために側に控える者に眼を配るのも将来の伴侶たる私の役目ですから。
教科書が破られた? 水を掛けられた? そんなことは知りません。そんな意味の無いことをしてなんになります?
彼のご令嬢は多くの殿方に声を掛けておられたようですから、これもまた再三注意致しました。改める素振りもありませんでしたが。
そのようなことをなさっていたのですから心穏やかでない方も多くおられたのでしょう。
何故私が止めなかったか、ですか?
なにを勘違いなさっているか知りませんが、私は男爵令嬢の専任護衛でもなんでもありません。無論、目の前で愚かな行為をなさる方がいたり、そういうお話をされている方がいたのなら注意したでしょう。その振る舞いは貴族として胸を張って言えることですの、と。
ですがそうでないのなら、私の与り知らぬことです。責任を求められても困ります。男爵令嬢に付ききりで見守る必要も義務もありません。
私の取り巻き? どなたのことを仰っているか知りませんが私が親しくしている方々にそのような行いをさせたと?
余りにも愚かしい話です。
私の親しい方々にそのような下劣な行為をなさる方はいないと信じております。
皆、貴族のなんたるかを心得た方々。もし男爵令嬢になにか言いたいことがあるのなら、そのような卑しく無意味なことではなく、当人にはっきりと物申す方々です。
それに、もし私が判断を誤り、愚かな行いをしようとしたなら諫めて下さるでしょう。良き友とはそういうものではありませんの? 唯々諾々と従うだけの者を側に置いた覚えはありません。
確かに、彼女の行動が目に余ると私に相談なさる方もありました。
彼女は殿下のお側におりましたから直接の諫言は殿下にご遠慮なさってる方もいました。
そういう方々はご自分ではなにもできないから私に相談して来たのであって、彼女にそのような嫌がらせなど致しておりません。
何度も申しますが、教科書を破損させたり彼女に水を浴びせたり、一体なんの意味があります?
自分の名と家の名誉を傷付けるリスクしかないではありませんか。まして殿下のご威光を恐れて直接ものが言えないような方々なら、そのような犯罪紛いのことをなさるはずがないではありませんか。
そのような行いをしたことが明るみに出たら、いえ、そのようなことをしたと噂になっただけで取り返しの付かない傷になりましょう。プライドある貴族の令嬢ともあろう者がそんな真似するわけがありません。
悪口や嫌味を言われたと仰いますが貴族同士であればそんなものは社交辞令のようなもの。軽く躱すか応酬できなくてどうします。学園はまだ正式な社交の場ではないとは言え本番前の予行演習のようなもの。小さな子供ではないのです。その程度のことを学べないのなら貴族社会で生きて行くことなどできません。
我々貴族は王の臣下。
王の下にあって国の繁栄に務めるのが役目です。
国に害成す者があるのならそれを排除せねばなりません。
それは義務です。
その義務を果たすのが嫌だと思うのなら、すぐに貴族籍から抜けるべきです。貴族の権利だけ受け、義務は嫌だ? それではただの駄々っ子ではありませんか。
下々の者に分かり易く言うのなら、店に入って食事をしたなら代価を支払うのは当然でしょう。食事はしたいが代価は払いたくない、そんな無法が通るとでも?
我々の持つ大きな権利は無償ではないのです。そんなことも分からないのでは貴族たる資格すら無いと言えましょう。
残念ながら、稀にそういう不心得者が貴族家当主になってしまうこともあります。領地、領民を省みない、私腹を肥やし貧者への施しをしない。国の有事にあってなにもしない。そんな不心得な者が当主となった貴族家は遠からず没落して来ました。
そうでなくてはなりません。そうでなければ国は保てません。
国政を考えない、考える能力のない者が王族に入り込もうとしているのなら、これをなんとしても止めるのが臣下の責務ではありませんか。
次期国王となられる王太子殿下、我が国の至宝の眼を曇らせる毒婦があるなら、これを討つは王太子殿下の婚約者たる私の為すべきことでしょう。
剰え、無学無教養でありながら自分が王太子妃になれるなどと思い違いをしている者があるなら、これを放置することこそが罪ではありませんか。
国に害となる下位貴族令嬢を上位貴族令嬢である私が討つことになんの問題がありましょう?
場を騒がせたことの責任というのならば、そのことに関しては甘んじて罰を受けましょう。
王太子殿下の婚約者の座を退けと言わるるのなら退きましょう。やむを得ない仕儀とは言え血の穢れを受けた身、栄光ある地位に就くべきではないでしょう。
けれど、彼の男爵令嬢を害した罪に対しての罰と言うのならば断じてお受けしかねます。私は、私の役目、王太子の婚約者としての役目を果たしただけのこと。それをまるで無法者扱いされるのは納得できかねます。
もっと早くに別の手段を講じなかったことを責められるのは仕方のないことでしょうが、国家を揺るがしかねない悪女を駆除したことを以て罪人となるつもりはございません。
ええ、そうですとも、あの毒婦の首を刎ねたこと、なんら後悔はございません。
我が手が血に塗れようと、我が身が穢れようと、そんなことは一向に構いません。国のため、王家のためとあらば髪の一本、血の一滴まで喜んで捧げましょう。
王太子殿下がご正道に立ち戻って下さるのなら、この身1つの犠牲、なんと安いことでしょうか。
御前を騒がせ、血で穢したことは命で贖いましょう。毒杯も喜んで飲みましょう。斬首というならどうぞお切り下さい。すべては貴族としての責務でございます。
違いますか?
エレンティア、恐ろしい子!
以上、「ヒロイン惨殺事件・悪役令嬢独白編」でした(嘘)




