007 治療と若返りの薬
「では、朝食も済んだから、わたしの部屋に来てください」と、オルアは言った。
アリムは「昨日、会ったばかりで早すぎない?」と尋ねた。
「水回りに対する考え方を確認することは早い目が良いでしょう」と、オルアは答えた。
「そうですね」と、アリムは言った。 『期待した自分がはずかしい』と、アリムは思った。
オルアはやさしく微笑んだあと、こう思った。 『よしよし、順調にわたしを意識しているな。 てつなぎ、見つめあい、ハグ、キス、ナイトバインド。 少しずつ進めていこう』
◇
オルアは、アリムを部屋に招き入れて、水回りを見せた。 トイレ、風呂場、洗濯機置き場、台所、洗面所、ベランダに案内して、排水溝のフタを外して、中の状態まで見せた。
オルアは「どうですか?」と尋ねた。
「とっても綺麗ですね。わたしは、ここまで掃除しません」と、アリムは答えた。
オルアは「ふむ、あとで貴方の部屋も見せてくださいね」と言った。
「はい。 お手柔らかにお願いします」と、アリムは返した。
(注) 部屋に入ってから1日も経っていないから汚れる訳がないのだが、家事能力を測るために、全部屋同じ程度に汚してあった。
オルアは、アリムに椅子に座るようにうながした。 そして、テーブルの上に、小さな皿を出して、1粒の薬を出した。
アリムは「これは?まさか、自決用の毒ですか?」と尋ねた。
オルアは「ブッブー、不正解です。 若返りの薬です」と答えた。
「まさか、子供から抽出した悪魔の薬」と、アリムは言った。
オルアは「そんな訳ないでしょう。 ひとり若返らせても、ひとり老けさせたら、差し引きゼロで無意味です。 カセイダード王国の科学力があればたいていのことは出来ます。 栄養食品、サプリメントの延長のようなものです。 クラスター限定使用です」と言った。
「わたしは、そのクラスターとかいう資格は知らないです」と、アリムは言った。
オルアは「心技体が一定以上に達した者に贈られる称号ですね。 わたしが指導すれば、2~3年後に合格するでしょう。 一気に進めたいので、質問は待ってくれますか?」と説明した。
「はい、お願いします」と、アリムは応じた。
オルアは「まず、あなたには、30歳若返っていただきます。 これは若返りの薬で、1粒で10年若返ります。 ただし、個人差があるので、ひとによっては、さらに若返る危険があります。 そして、老化する薬の需要は無いため、開発されていません。 だから、1粒ずつ飲んで、効果がでるまで1~3日間を待ちます。 ここまでで、質問は?」と続けた。
アリムは「その最初の1粒がこれで、30歳若返って、20歳代の身体に戻るまで飲むですね。 もし、効果が少ない場合は、3粒ではなく5粒飲むことになるかも知れないということですか?」と確認した。
「そうです。20歳代の身体に戻って若返っていだだきます。 医師の予想では、アリムさんは通常より多く若返る可能性が高いそうです」と、オルアは頷いた。
アリムは「それは、なぜですか?」と尋ねた。
オルアは「実年齢より、かなり若く見えるからです。 つぎに治療ですが、若返ったあとで行います。 色盲に関しての赤錐体と緑錐体の遺伝子は、私の遺伝子をコピペして上書きします。 脳内にインストールする処理プログラムは、わたしの処理プログラムを7段階くらいで、上書きされます。 その前に、現行のアリムさんの処理プログラムを万が一に備えてバックアップします。 インプットとアウトプットの仕様を確認してタイプが異なる場合は、同タイプの方の処理プログラムをインストールすることになります。 わたしのプログラムが適用できる場合は、経過観察をわたしの経験で確認できるから進行が楽になります」と説明した。
アリムは「わたしが気をつけることは?」と尋ねた。
オルアは「わたしを信じて、指示通りにすること。 疑問点や不安があれば聞くこと。 わたしが信じられなくなった場合は、医師に告げてくだされば、他の者が担当します。 つまり、サポートがわたしではなくなるので、お別れです」と続けた。
アリムは「成功しますよね。危険は無いですか?」と尋ねた。
「アリムさんがおひとりで周囲に誰もいないときが危険ですね。 なにかあったとき誰も発見できなくなります。 おはようからおやすみまで、わたしと一緒にいれば安全ですね」と、オルアは答えた。
アリムは「それは、お風呂やトイレの時もですか?」と尋ねた。
「わたしと一緒にお風呂に入りたいですか?」と、オルアは問い返した。
アリムは「あなたがそうしても良いと思うくらい、わたしを好きになってくれたら入りたいです」と答えた。
「今すぐは無理ですね。 前向きに考えておきますので、期待して待っていてくださいね」と、オルアは言った。 オルアは、こころの声で『アリムさんの言質を取りました。 最高のタイミングと演出を用意しよう』と思った。
「はい。待っています」と、アリムは答えた。 『少しでも長く、オルアさんのことを好きでいられますように』と、アリムは、天に祈った。
オルアは「では、若返り薬の最初の1粒をお飲みください」と促した。
アリムは「お水を頂けますか?」と尋ねた。
「あっ、ごめん、すぐに用意するね」と、オルアは言った。
◇
司会の部屋に、面接を担当した二人組と医師が来ている。
司会は「面接、ご苦労だった」と声をかけた。
二人組は「ありがとうございます」と答えた。
司会は「受けた印象は?」と尋ねた。
二人組は顔を見合わせる。 お互いに相手に言わせようとしている。 どちらも言いたくないようだ。 あきらめた責任者が答える。
面接責任者は「わたしとわたしの家族、親族、友人のパートナーにすることは拒否します」と答えた。
司会は「素晴らしい答えだな。 理由は言いにくいだろうから、感じたことを教えてください」と言った。
面接責任者は「会話履歴が汚すぎます。 ここまで裏表がある人間がいると知ると人間不信になります。 ライバルを蹴落とすために、仲間外れにする、嫌がらせをする、悪評を流す、悪いうわさ話を創作する。 いじめの的を決めて団結しようとする。 自分が被害者で無ければ、他人が犠牲になっても仕方ない。 他人を侮辱して弱らせて支配しようとする。 性欲に忠実で、【女性】を「性の対象か性の対象外か」でしか見ていない。 自己肯定感が低いわりに自尊心が高く傲慢で、運良く手に入れた社会的地位や合格した大学などのランクで他人を見下し、値踏みし、言うことを聞かせるために、暴言、暴力、風評被害など、関わりたくないです」と詳細を語った。
司会は「それでも、ひとりくらいは良さそうなのがいると思うが、いないのか?」と尋ねた。
「一晩なかよくして、さよならする習慣はないです。 非常食にさえなりませんね」と、面接責任者は言った。
司会は「イケメンや美男子、美少年は何人かいたと思うが?」と尋ねた。
「毒キノコを食べる方がまだマシですね」と、面接責任者は答えた。
医師は「健康そうな個体とか、鍛え上げられた個体はいませんか?」と口を挟んだ。
面接責任者は「関心無いので、面接動画をご覧になって、ご確認お願いします」と言った。
「いや、すまない。相当、嫌な思いをしたようだな。ゆっくり休んでくれ」と、司会はねぎらった。
面接責任者は「たまった皿洗いや洗濯物を片づける方が有意義でした。 有給休暇を1週間ください」と要求した。
司会は「面接が丸1日だから、その3倍の3日間の有給休暇を取ってくれ。結果発表などの事後処理は済ませておく。 急ぎの案件については、机の上に紙に書いて貼っておいてくれ」と伝えた。
面接責任者と面接準備者は「ありがとうございます。 休み明けは新しい気持ちで頑張れそうです。 3日間でたまった家事を終わらせるぞ」と声を揃えた。
司会と医師は「そんなに嫌だったのか?」と尋ねた。
二人は仕方なく、面接の様子を2倍速で手分けして確認した。
司会は「良し、オルアにも手伝わせよう。呼び出せ」と言った。
医師は「はい、よろこんで」と返した。
「アリムさんが捨てられる子犬のような目で見つめてきて、つらかったです。
若返り薬の経過観察があるので、となりの部屋に来てもらっています」と言って、オルアは見守り画面を手元に置いた。
3人は、面接の動画を見て気持ち悪くなった。
司会は「こいつらは、面接官の目ではなく、どこを見ているんだ?」と尋ねた。
医師は「胸の谷間と足と、顔をなめるように見ていますね」と答えた。
オルアは「胸を見るなとは言いませんが、アリムさんのように理性で目を合わせようとする努力が欲しいですね」と言った。
司会は「自慢話が多いな。 大学教授、公務員や一部上場企業の役付けだとか」と指摘した。
医師は「ベッドテクニックの技術自慢は最低ですね。 10から20程度の知識しか知らないくせに」と呆れたように言った。
オルアは「30までの知識が限度でしょうね。 男の人や美女のクラスターでさえ、200までの正性知識を覚えているのに。 無知って最大のしあわせかもしれませんね」と言った。
司会は「いっしょに暮らすメリットがないな」と言い、
医師は「ひとりで本を読む方がマシですね」と同意した。
オルアは「そう考えると、アリムさんは大当たりですね」と評した。
司会が「良さそうか?」と尋ねると、
医師は「こころの傷が深そうですが、どうですか?」とオルアに聞いた。
オルアは「アリムさんの部屋を見たところ、水回りの掃除と料理などは許容範囲ですね」と答えた。
司会が「不満は、なんだ」と問い、
医師が「見えないところの清掃に気を回す余裕が無い様子ですか?」と尋ねた。
オルアは「たとえば、おふろの排水溝の髪の毛トラップと浴槽は掃除するのですが、お風呂の壁や天井の汚れは気にしないそうです」と例を挙げた。
司会は「まあ、汚いところを掃除してくれれば、いいじゃないか?」と言い、
医師も「そうですよ。神経質なくらいに綺麗好きだと、大変ですよ」と続けた。
「だから、許容範囲内です」と、オルアは答えた。
司会と医師は心の中で叫んだ! 『贅沢を言うな。代わってくれーーーー』
◇
アリムは別室で、ひとり作業をしていた。
手伝えることが有れば良いけれど、有難迷惑だろうから静かに待っていよう。 幸い、パソコンとスマホを持ち込めたから、退屈はしない。
明日公開する Your TV 動画の原稿と次の問題を解いたり、スマホゲームのノルマや公開マンガのチェックをしたりしよう。
いままでひとりだったから、自分のところに帰ってくる人がいると考えただけで嬉しいと感じていた。
◇
司会の部屋では、面接動画の確認を終えていた。
司会は「MiniApp社のtalkGETを知っていれば、知識量が自慢にならないことに気付けないかな?」と問いかけた。
医師は「光元国では一流でも、カセイダードでは下の方ですからね」と言った。
オルアは「自分の価値レベルが高いと自信を持つことは良いことですが、相場を知って欲しいですね」と続けた。
司会は「実際のところ、カセイダード王国が移民を受け付けて審査する理由は、他国では無価値だが、こちらでは価値がある者を拾うためだ」と明かした。
(注) かっこいいひとは誰が見ても格好いいの。 かっこ悪いひとは誰が見ても格好悪いの。 あなただけに、格好いい人はいないの。 という格言があるが、カセイダード王国は価値観が独特なため可能性が有るはずでした。
医師は「募集要項には月14万 Versil支給と書いてあるのですが、見ていないのですかね」と首をかしげた。 (注) このお話までの時点では、1 Versil =1丸(光元国の通貨)で両替している
オルアは「それは最低基準で、優秀な者には別待遇があると思い込んでいるのでしょうね」と推測した。
司会は「全員不合格ということで、船を引き返して、お土産を持たせるとするか?」と提案した。
医師は「相手のプライドを傷つけないように、配慮しなければなりませんね」と助言した。
オルアは「ダメなものはダメということで、慎重に検討しましたが~という定型文で、全員同じ方が無難ですよ。理由を言うとかえって面倒になります」と述べた。
はあー、無駄な時間を過ごしてしまった。
3人は疲れ切っていた・・・
見守りテレビの警報音が鳴り響いた。 「ピーっ、ピーっ、ピーっ」
オルアは「アリムさん?倒れている!」と叫んだ。
◇
アリムは「オルアさん、苦しいよお、助けて」と訴えた。
とてもか細い声でマイクに届かなかった。
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