005 【挿絵】 オルアさんと、わたしの新しい名前
オルアさんが専属メイド(実は、将来のパートナー)になることを引き受けられた。
◇
待合室となった別室で息が詰まる思いをして、わたしは結果を待っていた。
短くて、はかない夢だったな。ベーシックインカムを導入した国に招待されるなんて、あまい夢を見なきゃよかった。目から涙があふれだす。
ノックノックとドアを叩かずに声で言う人がドアの前にいた。
「開けるぞ」と、司会は言った。
泣いているワタシを見て、医師が優しく声を掛けてくれた。
「どうしました、どこか痛いですか?」と、医師は尋ねた。「それとも、お腹がすきましたか?」
「ご希望が有れば、言ってね。」と、オルアは優しく言った。
「結果が不安になって、考えたら悲しくなって・・・」と、わたしは答えた。
司会と医師はオルアを見て、『良いなあ。代わって欲しい。』と心の中で思った。優しく慰めて寄り添えば簡単に落とせそうだ。
「大丈夫ですよ。」と、オルアは言った。「これからは私がフォローしますから。私のことは、オルア様と呼びなさい。」
わたしは、『なんか怖い、わたしを弱らせてコントロールしたいひとかな?』と不安になった。
「ざぶとん、全部とりなさい。」と、司会は指示した。
「はい。」と、医師は返事をした。
「オルアさんと呼べばいい。適切な距離感は大事だからな。」と、司会は言った。
「オルアさん、よろしくお願いします。」と、わたしは言った。
「わたしといるときは、常に敬語を使って常にへりくだった態度でいれば、それ以上気を遣うことは無いから。」と、オルアは言った。
「ゴマをすらなくて良いなら助かります。」と、わたしは答えた。
「オルア、いい加減にしろ?ああ?(怒り)」と、司会は怒鳴った。
「ゴマをすることは苦手ですか?」と、医師は尋ねた。
「たとえば、和菓子が大好きだ!と宣言してもらえたら、和菓子を贈ります。」と、わたしは答えた。「しかし、言わなくても分かるだろう?と言われても分かりません。」
「言わなくても分かるだろ?って、あかちゃんを相手にしてきたのか?」と、司会は呆れたように言った。
「いいえ、成人した方々でした。」と、わたしは答えた。
「苦労してきたのですね。」と、医師は同情した。
「これからは、わたしがサポートしますので、泥舟に乗ったつもりで安心してください。」と、オルアは言った。
「せめて、木の小舟でお願いします。」と、わたしは返した。
『相性は悪くないのかもしれないな。』と、司会と医師はそう判断した。そして、疲れた。
◇
「あなたが会場で不便を感じたことの原因が分かりましたので、カセイダード本国到着までに治療します。」と、医師は言った。
「なにの治療ですか?」と、わたしは尋ねた。
「主に、赤緑色盲(red-green color blindness)と聴覚情報処理障害(APD, auditory processing disorder)ですね。」と、医師は説明した。
「光元国では治療方法が見つかっていません。」と、わたしは言った。「それを治すとなると、とても高額になるのでは?わたしには払えません。」
「あなたが、カセイダード本国の国益に尽力してくれれば大丈夫です。」と、司会は言った。
「過度の期待をされても困ります。」と、わたしは不安を口にした。「期待外れだと、がっかりされて、嫌われたり、罵倒されたり、いじめられたり、怒鳴られたりしたくありません。」
「その場合は、わたしのサポートがダメだったということで、私の責任になります。」と、オルアは言った。
「そんな成績保証の学習塾のようなことをして良いのですか?」と、わたしは尋ねた。「責任を押し付ける先が確保されていれば、なまけて努力しなくなりますよ。」
「馬鹿正直ですね。」と、オルアは言った。「そのときは早めに見捨てますから気にしないでください。」
「オルアさんは逃げられるなら良いことですね。」と、わたしは言った。「でも、わたしは「出来そうにないことは出来ない、無理です。」とお断りしたいです。傷が小さいうちに。」
「おはようからおやすみまで、いっしょにいますから大丈夫です。」と、オルアは言った。「それとも、わたしが一緒にいることで、あなたのやる気というか活力になりませんか?わたしには魅力を感じませんか?」
オルアさんが右手を当てた胸元は、大きく開いていて、素晴らしい胸の谷間が見えた。胸元からは微かな甘い香りが漂い、その谷間が視線を引きつけた。
わたしは、理性の全力で自分の視線を胸元から移動させて、オルアさんの目を見た。
先ほどまで、強い言葉をはなっていた人物とおなじとは思えないほど、目が潤っていた。
瞬き1つでもすれば、涙があふれだすかもしれない。
「でも、わたしが、オルアさんにお返しできるものが有りません。」と、わたしは言った。「オルアさんになんのメリットが有るのですか?」
「もういい、だいたい分かった。」と、司会は遮った。
わたし(こころの声):『良かった。あとは、荷造りするだけだな。短い夢でも楽しかった。オルアさんに余計な苦労をさせて、恨まれなくて済む。』
「過去の経験が、あなたをそうしたのですね。」と、医師は言った。「でも、カセイダード王国に移住するのですから、過去を清算しろとまでは言えませんが、つらい過去を無かったことにして【箱に片づけて忘れても良い】のではないですか。」
「そうだな。」と、司会は言った。「光元国のことを忘れるためにも、気分を変えるためにも、改名することを勧める。これからの貴方は夢をもてるようになって欲しい。そして、『私には、夢が有る!』と胸を張って、自信を持って生きて欲しい。そう願って、この名を贈る。アリム・・・『夢が有る』という意味だ。」
「アリムさん、これからは新しい人生を歩んでください。」と、医師は言った。「それが治療できない部分を癒してくれます。」
わたしは、感動して、うつむいて泣いてしまった。これまでの苦しい過去、悲しい経験から解放された気がして、大声を出して泣いてしまった。
◇
10分間ほど泣いただろうか?私が泣きやむまで、3人はそばにいてくれた。
オルアさんの声が聞こえる。
ずっと、わたしが泣きやむのを待って、わたしの新しい名を呼んでくれた。
「アリムさん、あごあげて、天を見て、元気出して。」と、オルアは言った。「こんな素敵な人がそばにいるんだから!ねっ!」
やさしい視線と、包むような笑顔に、こころが暖かくなった。
「はい。」と、アリムは答えた。
わたしの新しい人生が始まろうとしていた。
◇
「行くよ!アリムさん。」と、オルアは手を引いてくれた。
「はい。」と、アリムは答えた。手から伝わるオルアさんの体温に幸せを感じました。
お読みいただき、ありがとうございます。 作者のサアロフィアです。
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