012-1 ベーシックインカム制度が必要な理由
オルアがアリムさんのところに戻ったころには、研修動画の視聴が終わっていた。
アリムは手持ち資料を読み返していた。
例えて言えば、映画を見終わってから、パンフレットを読み返しているような状況が近い。
オルアがノックをしてドアを開けると、アリムさんが駆け寄ってきた。
「オルアさん、お帰りなさい」と、アリムが駆け寄ってきた。
玄関を開けるとペットが駆け寄ってきて、可愛くて仕方ないという話を聞いたことがあるが、うれしさは比べ物にならないだろう。
「ただいま、アリムさん」と、オルア・サーパスは言った。
オルアは力強くアリムさんを抱きしめた。
「うー、うー、ぷはあー、オルアさん、どうしたの?」と、アリムは尋ねた。
オルアはアリムさんを胸元に押し付けすぎたことに気付いて、ほほを赤らめてしまった。
それをごまかそうとした。
「ううん、何でもない」と、オルア・サーパスは言った。
「研修動画はどうだった?
予習になったかな。」
「字幕とスライド資料のおかげで分かりやすかったよ」と、アリムは答えた。
「それにしても、このひとはすごい早口で、聞き取りにくいよ。
でも、0.5倍速で再生したら、とても聞きやすかった。
ホワイトボードに書いてある文字が草書体に見えて読めなかったけれど、スライド資料の文字は見やすくて綺麗な文字だと思った。
だから、分かりやすかったよ。 ありがとうございます。」
「そう、字幕とスライド資料を渡して良かったわ」と、オルア・サーパスは言った。
オルアはチクっと良心が痛んで、罪の意識を感じた。
司会(中路真々美)は、逆バリアフリーで研修を進めていた。
色覚や聴覚についての不便を申し出るかどうか見るために、わざと見にくいようにしていた。
緑に塗りつぶしたところに赤い文字を書いたり、赤く塗りつぶしたところに緑の文字を書いたり、わざと黒白比を下げて、濃い灰色とうすい灰色を組み合わせたりしていた。
つまり、見にくくて当然だった。
また、聞き取りにくいように空調のエアコンの騒音を大きくしたり、わざと2倍速相当で話したりしていた。
つまり、聞き取りにくくて当然だった。
多くの参加者から苦情が来るだろうと予想して、別室に色覚と聴覚のバリアフリーを考慮した会場と資料を用意していた。
しかし、アリムさんしか手を上げなかったから、別会場での研修ではなく、医師(白石冬香)の診察に切り替えた。
司会(中路真々美)がアリムさんと10秒間見つめあった理由は、その短い時間で、色覚と聴覚に異常があるかないか見抜くためだった。
異常ありと判定していた。
もちろん、アリムさんの資質全部をざっと見て調べていた。
☆ 司会:
☆ 「こちらの方を、別室に案内して。」
☆
☆ 引用元 003 研修1日目 予定表の説明
のセリフはあらかじめ打ち合わせていた暗号だった。
『人数が少ないから、別室での研修ではなく、診察をして!』
という意味だった。
しかし、その舞台裏をアリムさんに知られるわけには行かなかった。
◇
第4日目の朝が来た。
「では、研修1日目の課題 ベーシックインカム導入について講義をします。
よろしくお願いします」と、オルア・サーパスは言った。
「よろしくお願いします」と、アリムは答えた。
「これから話す話は、カセイダード王国の歴史です」と、オルア・サーパスは話を始めた。
「アリムさんが居た光元国の話と似ている部分もあるかもしれないけれど、混同したり誤解したりしないでね。
それでは、途中途中で質問タイムを入れます。
それまでは、止めずに聞いてくださいね。
質問したい点をノートにメモしながら聞いてくださいね。」
「はい」と、アリムは返事をした。
◇
オルア・サーパスは、ベーシックインカム導入までの歴史について語った。
1.社会保障を過不足なく平等に与えることは、無理。
生活保護や医療、心身の不自由さ、子育て、教育などに過不足なく平等に与えることを実行するためには、それぞれの対象者の状況を正確に把握することが必要となる。
しかし、正確に把握するためには専門家による判断が必要となる、下準備を専門家ではない補助者が手伝ったとしても、それほど負担が減るわけでもない。
その結果、
「下ごしらえを手伝ったから早く料理を出せるよね!」
と納期短縮を迫られるだけで、専門家からすれば助けにならなかった。
専門家の人数も増やされたとはいえ、社会保障を受けたい人数と比べると圧倒的に少なかった。
1人で100人の状況を正確に把握できるものではない。
野球グラウンドの整備に例えれば、
バッターボックスの周りだけ整備して、
外野(レフト、センター、ライト)はもちろんのこと、
内野(一塁ベース、二塁ベース、ショート、三塁ベース)と
ピッチャーマウンドは手つかずで放置するようなものだった。
社会保障をズルして受けようとする者の判定まで含めれば、当然であった。
そんな状況を知ればお分かり頂けるだろうが、社会保障を受け付けるべき窓口は、社会保障を求める者を水際で押し返すための防波堤と化していた。
なぜなら、可否の判定処理が進まない状況で、処理件数をこれ以上増やす訳に行かないから仕方ないかもしれない。
また、社会保障の支給により利益が増えるわけではないから、関係者の給料も上がらない。
ただただ正義感に燃えて頑張る者たちが疲弊して倒れてゆくだけで悪循環だった。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「部屋全体を綺麗にするぞ!と決心したは良いけれど、目標が高すぎて、部屋のほんの一カ所でさえ、きれいにできませんでした。
という感じですか?」と、アリムは問い返した。
「身も蓋も無い表現だけれど、そのとおりね」と、オルア・サーパスは答えた。
2.労働関係(労働基準法、安全衛生、労災、雇用保険)の問題
法律の抜け穴と補助金申請により、正しく機能することが難しくなっていました。
雇用を増やすための補助金が、労働関係法律の抜け穴を探す動機付けになっていました。
違反を訴えるひとがいても、雇用元である企業と裁判沙汰になることを恐れて、味方できないだけでなく、調査さえできませんでした。
確実な証拠を抑えることが出来る賃金未払いを指導することがやっとでした。
法律を守るだろうという性善説でスタートしましたが、生か死かという厳しい状況のなかでは、生き残るためには法律を守っている余裕がありませんでした。
信号機を守らずに赤信号で飛び出す人は見分けがついても、法律を守っているかどうかを判断できるひとは少なかったです。
また、そのような判断ができるひとは企業から煙たがられて、解雇に追い込まれました。
会社主導による集団いじめと言えるでしょう。
どんなに素晴らしい法律があっても、守られないならば、もっと簡単なルールを守らせた方がよいでしょう。
その結果、企業によって都合が良いひとたちが雇用され続けて、専門家になれない中程度の賢いひとが職を失っていきました。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「安くないと売れないから・・・と、どんどん落ちていった結果ですか?」と、アリムは問い返した。
「誰かの犠牲のもとで成り立つ経済ですね」と、オルア・サーパスは言った。
3.社会保険関係(健康保険、年金)
国民全員が一定以上の衛生レベルと老後の安心を!という目的でしたが、医療の発達により、状況が大きく変わりました。
人間の寿命は50年くらいだよね!
と踊った昔に対して、
人間の寿命が100年になったぜ! 万歳!
とはならないよね。
51年目から100年目までのことなんて考えてなかったよ!
というキリギリス状態です。
そして、財源は? 企業からいただきます。
国-->企業-->国民 と負担を押し付けていきました。
つまり、48時間働くことを視野(48)に入れよう!とした残業が増えました。
残業手当を払わないズルをする企業が多く発生し、残業手当を払う企業においても、体力の限界を感じて、心身を壊して退職するひとが増えました。
結果、どんどんひとが減っていき残ったひとの負担が増えていきました。
年金は、ほとんど自転車操業で、受け取ったお金をそのまま払うような状況になりました。
健康保険は、本当に必要かどうか疑問と思える者まで支給していました。
財源は企業ですから、人件費を浮かせるために、人数を増やすよりも残業を増やすことを間接的に強いる結果となりました。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「想定外の事態になって、それを何とかするたびに、深みにはまっていった感じかな」と、アリムは問い返した。
「お金が無ければ、何も出来ないですからね」と、オルア・サーパスは答えた。
4.税金
富を再分配すること
と
市場に出回るお金の量を調整すること
が
本来の目的でしたが、どんどんと状況が悪化する中で、追い詰められていきました。
「富を再分配すること」に強くこだわった結果、割に合わないと感じた稼げるひとたちが他の星に移住して行きました。
そして、
「市場に出回るお金の量を調整すること」
を忘れ、
一般企業のような収支バランスを重視して行きました。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「他の星って、外国のことを指して言っていますか?」と、アリムは問い返した。
「この星にあるカセイダード王国は、カセイダード本星の支店のようなものです」と、オルア・サーパスは説明した。
「説明できていませんでしたね。
アリムさんの言葉では、宇宙とか大宇宙とか銀河系の外になります。
わたしたちは、アリムさんからすれば宇宙人ですね。
アリムさんの星のことを、チータマルム星と呼んでいます。
これは、ある有名作品で出てきた間違いと、名前で魔法?を使う動物のような住民たちの星の名前を足して作った、カセイダード王国の親しみを込めた呼び名です。
アリムさんたちが、どう感じるか分かりませんし、不快に思われたら、ご容赦ください。
カセイダード本星は、シクぺリアのほぼ中心にあるオリガストのほぼ中心にあります。なんと、カセイダード本星は、シクぺリアのほぼ中心にあります。
シクぺリアを平面地図に書いた場合、はるか東の端に、アリムさんの住むチータマルム星が小さく書いてあります。
わたしたちは、チータマルム星の広く空いた海の部分に陸地を盛り上げてカセイダード王国を設置しました。
軍事力的には、アリムさんがよく見ていたロボットアニメの主役ロボが多数装備されています。
また、それよりも強力な兵器もあります。
それらについて、くわしくは、研修の中で説明いたします。」
「トラブルが発生した原子力発電所の修理もできますか?」と、アリムは尋ねた。
「対価次第ですね」と、オルア・サーパスは答えた。
「アリムさんクラスの男の子の候補者の人生100人分
または
私や司会、医師クラスの人生が10人分くらいを
請求されるでしょうね。」
「つまり、支払い能力が無い」と、アリムは理解した。
「ということですね」と、オルア・サーパスは肯定した。
5.法律
弁護士を雇える経済的な余裕があるひとが少なく、法律が身近ではなかったです。
だまし打ちや知らないひとが損する分かりにくい法律ではなく、より分かりやすい法律に変えていきました。
その結果、気軽に裁判することができましたが、裁判量が増えて処理しきれなくなりました。
そして、法律が足枷でしかないと判断した資産家と企業が他の星へ去ってゆきました。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「法律が国民を守るものではなく、引っ越しを決断させる追い出し効果になった?」と、アリムは問い返した。
「誰のための法律でしょうね。 アップデートとシンプル化が望まれます」と、オルア・サーパスは言った。
「女性の同意なしに行為に及ぼうとした男性は失格処分にするとか」
「失格処分?」と、アリムは聞き返した。
「つぎに行きますね」と、オルア・サーパスは話を進めた。
にっこりと笑うオルアに凄みを感じたのでそれ以上は聞けなかった。
「はあい」と、アリムは答えた。
6.価値破壊と敬意の不足
大学の価値、真面目でいる価値、正直でいる価値などが、どんどん失われて行きました。
たとえば、大学卒業資格は親の年収2~3年分の学費と4年以上の年月を消費して得られるものですが、大卒資格を持たないものからの嫉妬により、実力を十分に発揮できる環境が失われていきました。
その結果、上を目指そうという者が減り、実力が有る人物も無用の長物化して、大学卒業資格のブランド力と競争力が無くなりました。その結果、他の星に比べて競争力が無くなって、星全体の価値レベルが下がって行きました。
さらには、その他大勢よりも高い税金を払ってくれるひとや、高いサービスや製品に支払ってくれるお金持ちに対する敬意がなく、ねたみと誹謗中傷だらけになり、優秀な人たちが静かに星を去っていきました。
7.要求容姿の高レベル化と成長限界を感じる年齢の低下
モデル雑誌、芸能雑誌、美形の写真集などにより、人々が求める外観要求が上がっていきました。AI生成による美しいひとを見慣れすぎて、現実の異性に対して、魅力を感じなくなりました。
さらには、トップ層のひとと自分を比べて自信を無くしてしまい、将来に希望が持てなくなったひとが増えて、遺伝子の「次世代に期待スイッチ」がONになる時期が過去世代よりも早くなりました。
その結果、性的な関心を持つ年齢が早くなり、努力することに労力と時間を費やすことなしに成人する割合が増えていきました。
「そういう性に目覚めた連中は、隔離するべきだよね」と、オルア・サーパスは述べた。
「オルアさん、質問していいかな?」と、アリムは尋ねた。
「どうぞ」と、オルア・サーパスは答えた。
「身体の調子が悪いなら、休憩しませんか?
アイスクリームとか甘いデザートを、オルアさんと一緒に食べたいな?」と、アリムは提案した。
「それよりも、研修を済ませた方が、後が楽ですよ」と、オルア・サーパスは返した。
「オルアさんと一緒に、あーんしてと食べさせあったり、ひとくち頂戴とか、お互いが注文したデザートを交換したりしたいけれど、ダメかなあ?
それとも、甘いものは嫌いですか?」と、アリムは尋ねた。
「糖分の取りすぎは良くありませんが、適度な糖分は気分を良くしてくれますね」と、オルア・サーパスは言った。
「さあ、行きましょう。」
◇
という訳で、二人で2種類のアイスを買って、半分こした。
「オルアさん、あーんして」と、アリムは言った。
「仕方ないですね」と、オルア・サーパスは応じた。
「あーん。 もぐもぐ。
はい、どうぞ、お返しです。」
そして、2種類のケーキを買って半分こした。
「最後は、普通の温度のものを食べないとお腹を壊すからね。
オルアさんは?」と、アリムは尋ねた。
「今のところ大丈夫ですが、冷たいものの次に、暖かいものを食べることは良い考えですね」と、オルア・サーパスは答えた。
「ありがとう。
では、あーんして」と、アリムは言った。
「照れますね」と、オルア・サーパスは言いながら。
「お返しです。食べてください。」
オルアさんと一緒だと、3倍くらい美味しく感じました。
◇
8.婚姻制度などの問題点
少子高齢化、晩婚化が問題になっていました。
男性が損をすることが多いため、結婚をしようとするものは減っていました。
また、いろいろな間違ったうわさが流れていました。
間違い例 その1
結婚してから離婚してシングルで子育てする方がお得になる。
間違い例 その2
1年間がまんして、元カセイダード星人配偶者という婚姻歴が付けば、カセイダード王国から生活補助が受けられる。
間違い例 その3
とにかく、カセイダード星に入って、カセイダード王国の民になれば、国に守ってもらえる。
自国民よりも他の星の人に優しい政治で、他の星との交易を盛んにしたいと考えている国だから、その足元を見て、社会福祉をタダ取りしよう。
「そのような行き止まりの状況を変えるために、悪役を引き受けてくださったのが、カセイダード国王です」と、オルア・サーパスは語った。
・ズルい存在
・他人を落とし入れる存在
・能力が低い存在
・存在するだけで邪魔な存在
・他人の可能性、時間、エネルギーを浪費させる存在
これらの存在を排除し、封じ込めることが急務だと判断されたのです。
カセイダード王国は、ベーシックインカムを導入したおかげで、上記のような人物に対し、
「生活に必要な物資と金は渡す。
協力しろとは言わないから、邪魔するな。」
と
自宅に封じ込めて、重要な決定審議から閉め出すことに成功した。
なお、他の星から来た者たちまで賄う(食わせる)ことはできないため、お帰りいただきました。
ベーシックインカムを導入する前は、
・人権無視だ!
・学歴差別だ!
・働く権利の侵害だ!
と、
世論がうるさかった。
しかし、カセイダード王国は王建制だから、つぎのひと言で、ベーシックインカムを導入できた。
「国王命令!逆らうものは反逆罪で死刑!」
その結果、3年過ぎたころから多くの成果が出た。
「勝てば官軍」という諺の正しさが証明された。
今では、ベーシックインカムに対する認識が大きく変わった。
・ベーシックインカムしか勝たん。
・ベーシックインカムこそ、重要な土台であり、基盤だ。
・ベーシックインカム無しで、発展と幸せは考えられない。
手のひら返しもここまで来ると、怒る気もなくなる。
過去の国民に聞かせてあげたい気持ちが、あふれてくる。
「ここまでで質問は?」と、オルア・サーパスは尋ねた。
「カセイダード国王って、正義の味方ですか?」と、アリムは問い返した。
「悪人の仮面をかぶった合理主義者です。
冷酷に見えますが、結果を見れば最高ですね」と、オルア・サーパスは答えた。
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