知らぬ地の話
三題噺もどき―ななひゃくななじゅういち。
朝食を終え、テレビを見ている。
外は気づかぬうちに暗くなっていた。
人々の声もあまり聞こえなくなってきていた。
「……」
テレビの前に置かれたローテーブルの上に、二人分のマグカップが並ぶ。
中身はブラックコーヒーと、砂糖とミルクのたっぷり入ったカフェオレ。
よくそんな甘いものが飲めるなと言うと、強制的に砂糖を入れられるので、口が裂けても言えない。
私も別に、飲めなくはないのだが、何事にも限度というモノがあるだろう。アイツが飲むそのカフェオレはその限度を優に超えている。コーヒーではなくて、砂糖の塊を飲んでいるのではないかと思うぐらいに甘いのだ。
「……」
そのアイツは、朝食の片づけをしていた。
キッチンからは、水の流れる音が聞こえてくる。その間に時折食器の当たる音も聞こえてくる。―過去に、それくらいは私がすると言ったのだけど、これも自分の仕事だからと言い聞かせられたのであきらめた。こんこんと、子供に言い聞かせる大人のように、言い聞かせられた。あれはまぁあの時のタイミングが悪かったのだろう。……そうでなくても、アイツは私より頑固なのだけど。
「……」
テレビの中では、どこかの公園のブランコが揺れていた。
そういえば最近全く行けていないが、元気にしているだろうか。
時折、ブランコの軋むような音が聞こえるけれど……まぁ、元気にはしているのだろう。あの犬もそろそろ還っただろうか。
「……」
しかしなぜ、わざわざ公園が映っているのだろうと思えば。
どうやらその公園で事件が起こったのだと言う。
私はてっきり、最近よく聞く熊でも出現したのだろうかと思ったが……それはそれで恐ろしいものだ。あの巨体が、幼い子供たちの遊ぶ場所である公園に出てしまってはパニックどころではない騒ぎだろう。
「……」
まぁ、この事件も、熊と変わりないか。
……まだ本能的に自己防衛として襲うような熊の方がましかもしれないな。
わざわざ公園に来て、幼い子供を狙った、人間とも思えないような人間のやったことなど。
想像もしたくないな。
「……」
その当時がどうゆう状況で、最悪の事態が起こってしまったのかは、検証中のようだが。
何ともまぁ……化物から見てもバケモノにしか見えない人間というのが居ること自体が恐ろしい。
「……」
そして、そういうやつらは、大抵どこにでもいるのだから、尚の事。
何食わぬ顔で生活をして、どこ知らぬ顔で食事をして、素知らぬ顔で家に帰っているのだ。
そちらの方がよほどバケモノじみている。
「……、」
一口、コーヒーを口に含む。
ジワリと広がる苦みがいつもより酷く感じた。
「……相変わらず物騒ですね」
片づけを終えた小柄な青年は、手を軽く拭きながらソファの横に立っていた。
チカチカと光るテレビをその瞳に写しながら、隣に座る。
どこか冷たく、淡々とした目で。
「……そうだな」
こういうニュースを見ている時、コイツはいつも以上に何を考えているのか分からなくなる。きっと、何も考えていないのかもしれない。普段からコイツはどこか冷たい目をすることがあるから。
そうかもしれないけれど、どうしても。何か思うところがあるように思えて仕方ない。
……コイツは、ホントに興味がなければ、コメントも何もしないのだから。
「……」
もう一口、コーヒーを飲む。
喉を通る熱が、ほんの少しだけざわついた体を落ち着かせていく。
鼻から抜けるコーヒーの香りに、頭がすっきりとしていく。
「……嫌な世の中だ」
「まったくです……」
この国の、どこか知らぬ場所での話でも。
どうにも、どこか知らぬ顔が出来ないのは。
なぜなのだろう。
「……」
隣に座るコイツは、何を考えているのだろう。
「……なんですか」
「……何でもない」
「……冷めますよ」
「あぁ、うん」
お題:コーヒー・ブランコ・テレビ




