エピローグ
爆発から、幾週間が過ぎていた。
空はまだ灰を含み、太陽は薄い布越しのように滲んでいた。
風が吹くたびに、地面の灰が舞い上がり、
世界の輪郭がぼやけて見えた。
その廃墟の一角で、救助隊が瓦礫を掘り返していた。
鈍い金属音と、土砂を掻き出すスコップの音だけが響く。
崩れた石壁の下から、やがて一人が声を上げた。
「……何かあるぞ。空間だ!」
瓦礫をどかすと、地下へ続く細い通路が姿を現した。
内部は煤で真っ黒だったが、空気はまだわずかに乾いている。
懐中灯の光を頼りに奥へ進むと、
そこには小さな部屋――
まるで“避難所”のような空間が残っていた。
崩れた天井の下、
焼け焦げた木の机が一つだけ、形を留めていた。
机の上には、小さな箱。
金属製の外装はところどころ溶け、表面には深い焦げ跡。
それでも、かろうじてラベルが読めた。
《王城模型 Ver.0.9》
そして、その下に――
かすかに残る手書きの文字。
“For my brother.”
救助隊の一人が、手袋越しに箱を撫でた。
指先でなぞるたび、煤が剥がれ、銀色の地金がのぞく。
誰かが息を呑み、もう誰も言葉を続けなかった。
部屋の奥で、崩れた壁の隙間から微かな風が流れ込む。
それは灰を舞い上げ、光の粒を散らす――
まるで、そこに“記憶”の残り香がまだ息づいているかのように。
やがて一人が静かに呟いた。
「……兄弟の、作ったものか。」
その声は、まるで祈りのように、
焼けた空間の中へ溶けていった。
カミラが現場に到着したとき、空はまだ灰を含んでいた。
風が吹くたび、瓦礫の隙間から白い粉塵が舞い上がり、
それがまるで、亡霊のように空を漂っていく。
救助隊員の一人が、無言で彼女に道を譲った。
崩れた通路を慎重に進み、薄暗い地下室へ入る。
懐中灯の光が、煤と影を交互に照らす中――
彼女の視線は、机の上に置かれた小さな箱で止まった。
金属の箱。
焦げ跡に覆われ、角はひしゃげ、けれども形だけは残っている。
そこに刻まれたラベルの文字が、彼女の瞳に映った。
《王城模型 Ver.0.9》
そして、その下に手書きの言葉。
“For my brother.”
カミラはゆっくりとヘルメットを外した。
赤茶けた髪から、灰がぱらぱらとこぼれる。
煤のついた手袋を外し、
両の手でそっと、その箱を抱き上げた。
熱はもうない。
けれども、その重さには“何かの続き”が宿っていた。
「……あの人は……」
声は低く、掠れていた。
誰に向けたわけでもない言葉が、焦げた空気の中に溶ける。
「あの人は、最後まで……この国を直そうとしていたのかもしれない。」
その表情には涙はなかった。
ただ、失われたものの中に残った“意思のかけら”を見つめていた。
周囲の隊員たちは誰も声をかけない。
ただ、遠くで風が吹き、灰をさらっていく。
それはまるで――
彼女の掌の中の小さな箱だけが、
世界に残された最後の“記憶”であるかのようだった。
風が、静寂を切り裂くように吹き抜けた。
机の上に散らばっていた灰の中から、一枚の紙が舞い上がる。
それは焼け焦げた設計図。
端が黒く縮れ、ところどころ文字は読めなくなっている。
けれど、中央にはまだ――
王城の輪郭が、かすかに残っていた。
紙はゆっくりと宙を漂い、
舞うように一度、カミラの肩をかすめて――
瓦礫の間へと消えていった。
その風が、机の上の箱の蓋を揺らす。
金属が小さく軋み、
ひとりでに“カチリ”と音を立てて、わずかに開いた。
中には、未塗装のプラモデルパーツ。
白く、無垢なままの素材。
どれも焦げていない。
焼け跡の中で、それだけが“時間”に触れずに残っていた。
カミラは息を飲む。
箱の中で、光を受けた小さな部品たちが、
まるで再び形を成そうとするかのように微かに震えていた。
そのとき――
遠くの空から、軍用魔導機のエンジン音が低く響いた。
鉄の羽音が、焦土の上をゆっくりと横切り、
やがて遠ざかっていく。
そして、静寂。
……その沈黙の中で。
“コトリ”と、かすかな音。
耳を澄ませば、それは――歯車の回転音。
小さく、確かに。
箱の中で、誰も知らない“始まり”が動き出していた。
カミラは顔を上げる。
灰の空の下、風が再び吹く。
それはまるで――
失われた世界が、もう一度息をしようとしているかのようだった。
ChatGPT:
カミラは、焼け野原と化した王都を見下ろす丘の上に立っていた。
焦げた瓦と崩れた石壁の海。
街の輪郭はほとんど失われ、空気は赤みを帯びていた。
それでも、太陽の光が煙を裂き、淡く柔らかい光が廃墟を照らす。
彼女の足元には、静かに置かれた模型の箱。
煤に覆われ、蓋はわずかに開き、中の未塗装パーツが光を受けて微かに輝く。
それは、焼け落ちた街と対照的に――生の予感を秘めていた。
カミラは深く息を吸い込み、呟いた。
「この国に王はいない。」
しかし、視線を模型箱に落とす。
そこには、まだ手付かずの設計図が残っている。
破壊されても、残った“意思の欠片”。
「だが――まだ、設計図は残っている。」
灰煙に光が差す中、カミラは箱を抱きしめ、静かに丘を下る。
瓦礫の向こうで、世界は破壊の余白に、新たな息吹を待っている。




