焦土 ― その後
空はまだ、燃えていた。
灰と煙が幾重にも重なり、夕焼けのような赤を濁らせている。
太陽の輪郭は歪み、まるで曇った硝子越しに覗く火の玉のようだった。
かつて王都の中心にそびえていた王城の場所には、
巨大な黒い窪地がぽっかりと口を開けている。
そこは“焦土”という言葉ですら追いつかない。
石も鉄も、すべてが熱に呑まれて融け落ち、
地表はまだかすかに呼吸するように波打っていた。
歩けば、足裏の下で空気が鳴る。
焼けた地面が、今なお悲鳴をあげているのだ。
風がひとつ吹き抜ける。
そのたびに、焦げた匂いが喉を刺し、
空気の中に微かに混じる鉄の味が、血のように舌に広がる。
遠くの塔――形だけを残した瓦礫の柱――が、
まだ赤く燻りながら、空を見上げていた。
街並みはもはや形を留めず、
瓦礫の山と、崩れた影と、灰の海が続くだけだった。
壁も、人も、旗も、名のあったものはもうどこにもない。
そこにあるのは、ただ“焼けた世界”という沈黙。
風の音さえ、どこか遠くでくぐもって聞こえる。
――生きているのは、終わりそのものだけだった。
「……こちら、第七捜索班。」
無線の向こうで、砂を噛むような声がした。
空気の焦げた匂いの中で、隊員たちは耳を澄ます。
「王族お二人の遺体、発見できず。」
短い報告のあと、沈黙。
遠くで金属が崩れる音がして、それすらも風に飲まれていく。
「こちら管制。再確認を。遺留物は?」
「――ありません。爆心の温度が高すぎて、計測器が焼けています。」
雑音が混じる。
“ジリ……ジジッ”という音が、まるで世界の残響のように途切れ途切れに響く。
焦げた電線の臭いと、砂埃の味が空気に混じっていた。
「視認範囲に、何か構造物は?」
「いいえ。ただの……灰の海です。」
その報告の間、誰も息をしなかった。
灰の海――その言葉が、あまりにも現実を遠ざけた。
一瞬、無線が完全に途切れる。
そして、わずかに遅れて、震えるような声が返ってきた。
「……おそらく、蒸発したかと。」
その“おそらく”という言葉に、どれほどの祈りが込められていたのか。
風が吹き、通信音が淡く消えていく。
報告は終わった。
だが、誰も受信機のスイッチを切ろうとしなかった。
まるで――まだ、何かが応答してくれるのを、待っているかのように。
救助隊の男たちは、黒焦げの大地に並び立っていた。
焼けた空気がまだ地表の奥から湧き上がり、靴底を通して熱が伝わってくる。
立っているだけで、皮膚が痛んだ。
それでも、誰も動こうとはしなかった。
ヘルメットの内側で息がこもり、酸素の匂いが重く漂う。
言葉はもう、意味を持たない。
この光景の前で発せられるどんな声も、ただの雑音にしかならなかった。
若い兵士が一人、前へ出た。
遮熱バイザー越しに、焦げたクレーターの中心を凝視する。
そこには――かすかに、円を描くような黒い痕があった。
形でも、物でもない。
“存在の記憶”が、地面に焼き付いたかのように。
男はそれを見つめたまま、微かに唇を動かした。
「……結局、兄弟は最後まで一緒だったんだな。」
声は、熱気の中で溶けていった。
周囲の誰も、何も言わなかった。
否定する者も、慰める者もいない。
ただ、その沈黙だけが、彼の言葉を肯定していた。
風が吹き抜ける。
灰が舞い、ゆっくりと宙を漂う。
それはまるで――
消えた二人の影が、もう一度この地を歩き過ぎていくようだった。




