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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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爆発 ― 城の崩壊

光が、閾値を超えた。

その瞬間――音が死んだ。


風も止み、崩落の轟きも消えた。

世界から「振動」という概念が奪われ、

ただ、白だけがすべてを満たしていた。


アランは息をすることを忘れていた。

耳鳴りすらない。

まるで自分の存在すら、音を失った空間に吸い込まれていくようだった。


視界が揺らぎ、床がゆっくりと反転する。

下だったものが上に、上だったものが地に。

重力の向きが、世界の意思ごと書き換えられていく。


彼の眼に映るもの――それは、

形を失いかけた「現実」そのもの。


瞳孔が開き、

そこに白い虚無が映り込む。


アランは口を開く。

声を出そうとした。

けれど、その叫びはこの世界に届かない。

空気が音を伝えることを、もうやめてしまっていた。


ナレーションが、かすかな囁きのように流れる。


「音は、世界の輪郭だった。

 輪郭を失えば――存在もまた、溶けていく。」


彼の指先が震える。

それは、かつて“現実”と呼ばれたものの最後の残響。

次の瞬間、

世界は――完全に、裏返った。

閃光が、世界の中心から咲いた。


それは爆発というにはあまりにも美しかった。

破壊ではなく――まるで、何かが「生まれる」瞬間のように。


魔導核を軸に、王城の構造が内側から膨張する。

空気が裏返り、圧力が負へと反転し、

石壁は花弁のように外へと開いた。


塔の根元がねじ切られ、

赤熱した鉄骨が、ひとつの意思を持つ生き物のように宙を泳ぐ。

すべてが光に包まれ、

すべてが――無音。


風も、崩落の音も、悲鳴もない。

ただ、白の奔流が、静かに世界を塗り潰していく。


スローモーションの中で、瓦礫の一片が宙を舞った。

ゆっくりと回転しながら、

その表面に、二人の影が一瞬だけ映り込む。


アラン。

ルーク。


光に溶けていく二つの輪郭が、

破片の光沢の中で、まるでまだそこに“在る”かのように揺らめいた。


幻だったのか。

残光だったのか。

あるいは――この世界が見た、最後の記憶だったのかもしれない。



――静止。


白光に焼かれた世界が、わずか0.5秒だけ止まった。

すべての運動が凍りつき、

空中に散った瓦礫も、炎の欠片も、

まるで時間を忘れた彫刻のように浮かんでいる。


カメラはその上を、ゆっくりと俯瞰していく。

城はもはや形を成していない。

残骸が光に溶け、

空間の中に“記憶の影”だけを残している。


やがて――白光が波紋のように広がり始めた。

その外縁で、黒い影が滲むように生まれる。

光が世界を焼き尽くした反動で、

闇がその輪郭を求めて現れるのだ。


そして――


遅れて、“音”がやってきた。


爆発音ではない。

もっと鈍く、もっと深い。

空間そのものが裂け、

世界の皮膚が裏返るような音。


「ドォン……」


低周波が地平を震わせる。

光と影の境界が波打ち、

街の建物が一拍遅れて崩れ始める。


遠くの窓ガラスが一斉に砕け、

粉塵が光の残滓を反射して宙に舞う。


人々は、その“遅れて届く終わり”に息を呑んだ。

光の後にやってくる音。

――それは、世界が自らの死を思い出す音だった。


――外観。


王城は、音よりも先に光で壊れた。


最初に見えたのは、

塔の根元が膨張し、内側から咲くように割れる瞬間。

次に、壁面が花弁のように外へとめくれ上がり、

その中心から、白光が赤を呑み込んで噴き上がる。


それは破壊というよりも――

“誕生”のような光景だった。


空気が灼け、炎の代わりに光が降る。

重力が意味を失い、

瓦礫がゆっくりと浮かび、

やがて溶けた鉄と石の雨として舞い落ちる。


空そのものが赤熱し、

街を包む空気が、透明な灼熱の膜となって揺らいでいる。


その中央に、ひとつの影。

光の奔流の中、ルークの残像が静かに立っていた。

彼は何も語らず、何も抗わず――

まるで光と同化することを受け入れるかのように、

穏やかな横顔のまま、世界の中心に佇んでいる。


アランの視界には、

その姿が一瞬、神像のように映った。

祈りと破滅の境界に立つ者の、

あまりにも静かな背中として。


だが――次の瞬間。


光が、彼を奪った。

輪郭がほどけ、形が霧散し、

そこにはもう、何も残らなかった。


風すら吹かない空間で、

ただ、光だけが生きていた。


――時間が、遅れる。


世界の崩壊はもう止まらないのに、

その中でだけ、二人の間だけ、

わずかに“時”が残っていた。


アランの手が伸びる。

光に焼かれ、形を失いながらも、

それでも――その先に、ルークがいた。


白と赤が溶け合う奔流の中、

二人の手が、交わる。


触れたのか、それともすれ違ったのか。

その区別さえ、光が奪っていく。


――ただ一瞬。

二つの存在の間に、円が描かれた。

それは、爆心の中心に浮かぶ残光の輪。

まるで、兄弟が生まれた日の“原初の記憶”が

世界のどこかに焼き付いたかのようだった。


白光がそれを包み、円はゆっくりと滲み、

やがて形を失っていく。


すべてが無音。

すべてが無。


だが、その“無”の中に、

何かが確かに生まれた。

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