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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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起動 — 臨界点

魔導核の中心で、光が飽和した。

赤――その色はもはや警告の域を越え、白炎のように視界を侵食していく。

金属の外殻が熱に軋み、封印符の列が一枚ずつ剥がれては、空気の中で灰のように溶けた。


内部の魔力線が、音を立てて蠢いている。

規則は崩れ、流れはもはや回路ではなかった。

それは、形を保つことそのものを拒んでいる。

数千の魔術式が同時に反転し、瞬く間に再構築され、また崩壊する――その繰り返しの中で、秩序と混沌の境界が見えなくなる。


視界は、まるで顕微鏡のレンズ越しに内部へ吸い込まれていくようだった。

魔導核の内側、ルーンの層が無限の迷宮のように螺旋を描いている。

一つひとつの文字が、光脈を通って呼吸するように脈打ち、

次第にその線形は、文様ではなく血管のような、有機的な動きへと変わっていった。


――機械ではない。

――これは、生きている。


低い振動が床を伝い、空気が鼓動する。

どこかで、誰かの心臓が一斉に打ち始めたような錯覚。

光は呼吸し、魔力は脈を打ち、核そのものがまるで、

自らの存在を確かめるかのように震えていた。


魔導核はもう、装置ではなかった。

それは、創造主の手を離れた“生命体”――

自らを維持しようとする意志を宿した、ひとつの心臓になっていた。


光が、広がっていった。


魔導核から走り出た赤い脈が、まるで生き物の毛細血管のように柱を伝い、壁の内部を這い、天井の裏側へと伸びていく。

一瞬で石造の王城は、巨大な脈動する肉体と化した。


柱の亀裂の隙間から、脈の光が滲み出る。

石壁の裏で、何かが呼吸している。

床下では金属音が混じり合い、まるで鉄骨そのものが心臓の拍動に合わせてうねっているようだった。


照明が一つ、破裂。

次いで二つ、三つ――爆ぜるたびに闇が深まり、代わりに光の血流がその空間を満たしていく。

人工の光が死に、意志の光が城を支配していった。


赤い筋はやがて、脈を刻むように点滅を始める。

「ドクン……ドクン……」

それはまるで、世界そのものの心拍だった。


天井を走る光の線が、次第に有機的な模様を描いていく。

幾何学的な設計が崩壊し、建築物は“構造”としての意味を失った。

理性が設計した秩序が、今、存在の意志に喰われていく。


壁の輪郭が脈動に合わせて揺れ、

扉が歪み、梁が呼吸を始める。


――城が生きている。

それはもはや建築物ではなく、

意志の肉体として再構築された“生きた構造物”だった。

光が、二人を呑み込もうとしていた。


アランの外套が熱風に煽られ、裂け目から焦げた布片が舞い上がる。

皮膚を焼くような赤光が空間を満たし、空気の密度が狂っていく。

呼吸をするたび、胸の奥まで火が入ってくるようだった。


彼は手を伸ばした。遮断盤まで、あと数歩。

だが――足が止まる。

そこにあるのは、もはや機械でも装置でもなかった。

鼓動している。

わずかな振動が、床を通してアランの掌に伝わる。

まるで巨大な心臓が城全体の奥で脈打っているようだった。


「……これは、もう“生きている”……?」


かすれた声が、赤光に溶けて消える。


中央に立つルークは、まるで呼吸をしているかのように光を吸い込んでいた。

肩がゆっくりと上下し、吐息のたびに空気が震える。

表情は無。苦痛も喜びもない――ただ、空虚な静けさだけが宿っている。


その姿は、人でありながら“核”そのもの。

生きているのに、すでに死の向こう側に立っている。


アランは拳を握りしめた。

兄として、科学者として、どちらの手を伸ばすべきかが分からない。

ただ、目の前で光へと溶けていく弟を見つめることしかできなかった。


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