崩壊 ― 白光と終焉
白い閃光が、赤の底から滲み出すように広がっていった。
魔導核の中心に描かれたルーンは、もはや単なる記号ではない。
線は流体のように蠢き、形を保ちながらも脈動し、
生物の血管のように明滅を繰り返していた。
床を走る魔導管が赤く光り、その輝きは壁を這い、天井へと昇る。
やがて城全体がひとつの巨大な“心臓”のように鼓動を始めた。
呼吸をしている。
それは確かに、意思を持った存在の呼吸だった。
かつて研究施設だったこの場所は、
もはや人の理論の中には収まらない。
計算式も、理論式も、何の意味も持たない。
今ここにあるのは、“生きている世界”そのものだった。
アランは崩れかけた床の上で、その光景を見上げる。
眩しさで涙が出るのではない。
光が、意志を持って自らの瞳に侵入してくる――そんな錯覚に襲われた。
ルークの立つ場所にも、白い光が這い寄っていく。
彼の輪郭が、光と同化し始めていた。
もはや“彼”と“世界”の境界が曖昧になる。
「理性の設計は、ついに限界を超えた。
世界は論理を捨て、“存在”として生き始めた。」
その声が響くと同時に、
空間全体が静かに脈動した。
それはまるで、世界が初めて“心臓の音”を得た瞬間のようだった。
床が鳴動し、崩れる――その音が聞こえたのは最初だけだった。
次の瞬間、すべての方向が意味を失う。
上も下も、前も後ろも、重力という概念そのものが剥がれ落ちていった。
アランの足元だったはずの床は、液体のように波打ち、
やがてその波は天井を呑み込み、
壁と床と空気の境界が、ゆっくりと混ざり溶けていく。
世界が裏返る――そう感じた。
光が反転し、影が膨張し、
全ての線が、内側へと吸い込まれていく。
アランの身体は宙に放り出され、
空間の中心を漂うように回転しながら、
必死にルークのほうへ手を伸ばす。
「ルーク――!」
声が音にならなかった。
空気が消えている。音を伝える媒介がない。
唇の動きだけが、光に飲まれていく。
彼の視界の先で、ルークがこちらを見ていた。
微笑んでいた。
それは穏やかで、どこか安らぎに満ちた表情。
白い光が、彼の体を内側から照らす。
輪郭が揺らぎ、粒子のように崩れ始めた。
まるで人間という情報が、“世界”という系に還元されていくように。
アランの指先が、その光に届こうとする。
あと数センチ――
触れられるはずだった。
だが、
白の奔流がその間を断ち切った。
瞬間、世界が息を吸い込む。
真空――
あらゆる音が、存在そのものが、吸い取られる。
そして、次の瞬間。
低く、重い音が空間の底から鳴った。
“世界が呼吸する音”。
その呼気が、白光の爆発となって広がる。
アランは視界のすべてを光に奪われながら、
最後に、ただ一つの思いだけを抱く。
――届かなくてもいい。
せめて最後に、あの手を“人として”掴みたかった。
白光がすべてを呑み込む。
轟音すらも音ではなくなり、
世界そのものが一枚の白い膜へと溶けていく。
その中で――
二つの影が、浮かび上がった。
アランとルーク。
光に焦がされながらも、確かに“人”の形を保っている。
爆風が渦を巻くように二人の間を裂き、
その裂け目の中で、時間が緩やかに止まった。
動かない。
ただ、白の海の中で――
二つの影だけが、ゆっくりと交わるように近づいていく。
触れたのか。
それとも、すれ違ったのか。
誰にもわからない。
けれど、そのわずかな交差の軌跡が、
確かに“繋がり”の形を描いた。
カメラはゆっくりと引いていく。
視点が、空間の外側へ。
もはや人の目ではない――
“俯瞰する存在”の視座。
世界が崩壊していく全景の中で、
その微かな交差だけが、永遠の一瞬として刻まれる。
白光の中、
どこからともなく“歯車の回転音”が響いた。
――カチリ。
まるで、模型が再び動き出したかのように。
静寂の中、微かに脈打つ光。
それは滅びではなく、
何かが新たに呼吸を始めた証。
「崩壊は、終わりではない。
それは、形を変えた“始まり”の鼓動だった。」
光が完全に画面を覆い尽くす。
そして――




