アランの最後の試み
赤光が乱反射し、瓦礫の間を跳ね返っていた。
焼け焦げた床の上を、アランは滑るように駆け抜ける。息が喉の奥でちぎれ、肺が焼けるように痛い。
足元が崩れ、破裂した魔導管から蒸気が噴き上がる。
それが頬を焼き、皮膚の焦げる匂いが鼻を刺した。
それでも彼は止まらない。瓦礫に片足を取られても、倒れかけた体を壁に叩きつけるように支え、遮断盤へと向かう。
背後――遠く、魔導核が脈打っている。
“ドクン……ドクン……”
その周期的な光は、まるで巨大な心臓の鼓動のようだった。
一度ごとに白光が爆ぜ、視界が瞬間的に途切れる。
目を開けるたびに、世界の形がわずかに変わって見えた。
「間に合う……まだ……!」
声は震え、息と混じって言葉にならない。
アランは指先の震えを押さえ込み、瓦礫の山を越える。
遮断盤は、目の前――わずか十歩先だ。
赤く染まった空間の中で、あの冷たい金属の輝きだけが、唯一の“出口”のように見えた。
「あそこを切れば、循環が止まる! 世界がどうなろうと――ルークだけは……!」
その瞬間、耳の奥で何かが囁いた。
低く、どこか懐かしい声。
「……兄上……」
振り返っても誰もいない。
だが確かに聞こえた。
光の奥で、ルークの声が、赤い残響として空気を震わせている。
アランの心拍が、世界の鼓動と重なった。
彼の走る速度が上がるたびに、赤光の脈動も強くなる。
まるで、この空間そのものが意思を持ち――
彼の行動を「敵」として認識しているようだった。
空間が、息をしている。
壁が、脈を打っている。
――“止めようとする意思”に、世界が反発している。
アランはそれでも、走り続けた。
焦げた手で壁を掴み、痛みを無視して前へ。
遮断盤が目前に迫る――その金属光が、彼の瞳に焼きつく。
そして、光が一瞬すべてを奪う。
赤、白、赤――閃光が走るたびに、現実が途切れた。
それでも彼の意志だけが、揺らがずにそこへ向かっていた。
赤光が乱反射し、瓦礫の間を跳ね返っていた。
焼け焦げた床の上を、アランは滑るように駆け抜ける。息が喉の奥でちぎれ、肺が焼けるように痛い。
足元が崩れ、破裂した魔導管から蒸気が噴き上がる。
それが頬を焼き、皮膚の焦げる匂いが鼻を刺した。
それでも彼は止まらない。瓦礫に片足を取られても、倒れかけた体を壁に叩きつけるように支え、遮断盤へと向かう。
背後――遠く、魔導核が脈打っている。
“ドクン……ドクン……”
その周期的な光は、まるで巨大な心臓の鼓動のようだった。
一度ごとに白光が爆ぜ、視界が瞬間的に途切れる。
目を開けるたびに、世界の形がわずかに変わって見えた。
「間に合う……まだ……!」
声は震え、息と混じって言葉にならない。
アランは指先の震えを押さえ込み、瓦礫の山を越える。
遮断盤は、目の前――わずか十歩先だ。
赤く染まった空間の中で、あの冷たい金属の輝きだけが、唯一の“出口”のように見えた。
「あそこを切れば、循環が止まる! 世界がどうなろうと――ルークだけは……!」
その瞬間、耳の奥で何かが囁いた。
低く、どこか懐かしい声。
「……兄上……」
振り返っても誰もいない。
だが確かに聞こえた。
光の奥で、ルークの声が、赤い残響として空気を震わせている。
アランの心拍が、世界の鼓動と重なった。
彼の走る速度が上がるたびに、赤光の脈動も強くなる。
まるで、この空間そのものが意思を持ち――
彼の行動を「敵」として認識しているようだった。
空間が、息をしている。
壁が、脈を打っている。
――“止めようとする意思”に、世界が反発している。
アランはそれでも、走り続けた。
焦げた手で壁を掴み、痛みを無視して前へ。
遮断盤が目前に迫る――その金属光が、彼の瞳に焼きつく。
そして、光が一瞬すべてを奪う。
赤、白、赤――閃光が走るたびに、現実が途切れた。
それでも彼の意志だけが、揺らがずにそこへ向かっていた。
遮断盤が静かに音を立てた。
硬質で乾いた“カチリ”――それはまるで、運命そのものが最後の歯車を噛み合わせた音だった。
直後、空間全体が息を吹き返すように震えだす。
魔導陣が唸りを上げ、赤光が白へと変わる。
床の線が、壁の紋が、天井の柱が、すべて同じ方向――“上”へと伸びていく。
まるで世界そのものが、天へ昇ろうとするかのように。
カメラは城の外へ引く。
崩壊しつつある塔の上空に、直径数百メートルにも及ぶ巨大な魔法円が展開されていた。
その中心から放たれる光柱は、夜空を貫き、星をも焼くほどの輝きを放つ。
赤から白へ、白から金へ。
色が変わるたびに、大地の影が長く伸びていく。
音が変わる。
「ゴウン、ゴウン」と重く響いていた低周波が、
次第に「ドクン、ドクン」と、心臓の鼓動に似たリズムへと変わる。
やがてその音は――ルークの心拍と同調する。
アランの胸が苦しく締め付けられた。
息を吸うたび、肺の奥に鉄と血の味が広がる。
足元の魔導陣が震え、赤光が頬を照らす。
「止めれば……世界は救える。
けど――ルークは、もう戻らない。
どちらを救っても、どちらかを殺す……」
言葉の終わりに、声が震えた。
それでも、アランは拳を握りしめる。
涙ではない。
頬を伝うのは、赤い光の粒。
それは熱でも血でもなく――決意そのものだった。
「……わかってる。止めるよ、ルーク。
お前が“世界”になっても――兄として、俺は止める。」
その瞬間、カメラがルークの背中を映す。
彼はすでに人の形を保っていない。
皮膚の下を光が流れ、骨格が透明な回路のように浮かび上がっている。
それでも、わずかに振り返った横顔には、微笑の形が残っていた。
赤光が臨界を越え、空間が白転する。
音が消え、世界が一度――静止した。
次に響くのは、ただ一つの音。
それは鼓動か、破滅か。
――兄弟の選択が、ついに同じ時間で交差した。




