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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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対面:静かなる中心

 地下の空洞は、呼吸するように脈打っていた。

 低くうねる音が石壁を伝い、空気の層そのものが揺らぐ。

 赤い光の海。その中心、制御盤の前にひとりの男が立っていた。


 ルーク。

 その背中は静謐で、だが、どこかこの世のものではない均衡を湛えている。


 彼の指先が水晶盤の表面をゆっくりと滑るたび、光が波紋のように広がった。

 それに応じて、装置の奥の魔導管が低く唸る。

 まるで――この城そのものが、彼の命令を聞き取っているかのようだった。


 階段を下りきったアランは、しばらく言葉を失ったままその光景を見つめた。

 次の瞬間、彼の手が自然に剣の柄を掴んでいた。


「ここで、何をしている……ルーク。」


 その声に、ルークの肩がわずかに動く。

 だが振り返らない。


「兄上。やっと来ましたか。」


 その声には、安堵も焦燥もなかった。

 ただ淡々と――まるで、長く仕組んだ計画がひとつの節目を迎えただけのような、

 “予定通り”という静けさだけがあった。


 赤光の波が、ゆっくりと広がった。

 地下の空気が揺れ、石壁がかすかに軋む。


 ルークが制御盤から手を離し、ゆっくりと振り返る。

 白衣の裾が、光に照らされて血のような色に染まった。

 彼の瞳の奥でも、同じ脈動が灯っている。

 まるで心臓の鼓動を模倣するように――規則的に、静かに。


 その顔には、怒りも悲しみもなかった。

 穏やかで、透明で、しかしどこか“生きている”という温度が欠けていた。

 声を発さずとも、アランにはわかった。

 弟はすでに、肉体という枠から半歩外に立っている。


 カメラはアランの背越しに、ふたりを映す。

 奥に広がる魔導陣の赤光が、ふたりの影を重ね合わせる。

 ――兄弟。

 その立ち位置はまるで、城の心臓を挟んで向かい合う“二つの脈”のようだった。


 音もなく、空気だけが震えていた。



 アランは一歩、足を踏み出した。

 その足元に、何かが小さく転がっていた。

 拾い上げると、それは割れた指輪――王家の紋章が半分だけ残っている。

 視線を上げると、周囲には同じような“遺されたもの”が散乱していた。


 王冠の欠片。

 封蝋の破れた書簡。

 焦げた護符。

 血の染みた手袋。


 どれも、かつて宮廷で見たことのある品々だった。

 葬儀のたび、棺の上に置かれていた“王族の遺品”たち。

 だが――今、ここで見るそれらは、祈りの象徴ではなかった。


ナレーション:

「それは遺品ではなく、材料だった。

 血統の記憶を魔力に変換する――禁じられた“系譜の触媒”。」


 アランの喉が乾く。

 問いを口にするより先に、ルークが静かに答えた。


 彼は足元の机から一つのペンダントを取り上げた。

 くすんだ銀の鎖。中央の宝石は、淡く赤く脈打っている。

 ルークはそれを親指でなぞりながら、穏やかに言った。


ルーク:「兄上も気づいていたでしょう。

 この城の“血”が、どこまで濃く、どこまで腐っているかを。」


 ペンダントの光が、彼の指先に移り、微かに震えた。

 それはまるで――血脈そのものが、なお生きているかのように。

アランは一歩、前へと踏み出した。

 その足音が、広大な地下空洞に乾いた反響を返す。

 剣先が赤光を拾い、床の魔導陣に波紋のような反射を落とした。

 ――まるで、城の心臓に刃を突き立てる予兆のように。


アラン:「貴様……この城を、滅ぼす気か。」


 静寂。

 ルークはその言葉に、ただゆっくりと息を吐いた。

 そして、振り返ったまま穏やかに笑う。

 その微笑は、兄に向けられた懐かしさではなく――

 “実験が成功した瞬間”の安堵に近かった。


ルーク:「いいえ。**“正しい形に戻す”**だけです。」


 その言葉が発せられた瞬間、空気が震えた。

 周囲の水晶盤が同時に淡く光を帯び、

 制御陣の赤光が脈動を早めていく。


 低い音。

 地の底から響く、鼓動のような震え。

 それはまるで、ルークの意志に呼応して城そのものが目を覚ましたかのようだった。


 アランの額に冷たい汗が流れる。

 剣を握る手が、知らず強張る。

 ――兄としての痛みと、王としての恐怖が交錯する沈黙の中。


 ただ、赤光だけが。

 兄弟の間に、心臓の鼓動のように明滅していた。


 天井の高みに、赤光が這う。

 蜘蛛の巣のように張り巡らされた導管の内部を、

 魔力の波が脈打ちながら走り抜けていく。


 その光は、まるで血潮のように。

 地上の城壁へ、塔の根へ、王都の地脈へと――

 静かに、しかし確実に拡散していった。


 地下に立つ二人の兄弟。

 その間には、もはや言葉は要らなかった。

 アランの瞳に宿る警戒と、ルークの眼差しにある確信。

 互いに理解している。

 どちらの選択も、もはや引き返せないことを。


ナレーション:

「兄弟の対話は、すでに言葉の段階を超えていた。

 それは――思想と信仰、正義と構造の衝突だった。」


 赤光がさらに強まり、天井全体が淡く震える。

 地上の城が息づくように、ひとつの“巨大な心臓”として拍動を始める。

 その脈動の音が、まるで未来を刻む鼓動のように――

 静かに、しかし確かに、世界の終わりを告げていた。






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