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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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下降:沈む王の根

足を踏み入れた瞬間、湿った空気が肌を撫でた。

 狭く急な石段が、闇の底へと続いている。アランは灯りを掲げ、慎重に一段ずつ降りていった。足元から伝わる冷たさが、まるで長い眠りについた墓のように重く沈む。


 天井から、ぽたり――と水滴が落ちる音。

 音が反響して、無人の回廊がかすかに震える。壁面には、風化した紋章と古代語の刻印が散りばめられていた。封印を示す円環、かつての魔導文明の遺構。


 等間隔に並ぶ魔導ランプが、ひとつ、またひとつと淡く点灯していく。

 誰かがこの通路を通ったのだ――そう悟った瞬間、アランの胸がわずかに熱を帯びた。

 すでに彼はここを通っている。ルークが。


 低く掠れた声が、闇に吸い込まれるように零れた。


「……やはり、先に動いていたか。」


 アランは壁に手を伸ばし、古びた石の凹凸を指でなぞる。そこに浮かび上がった文様を、灯りがかすかに照らした。

 それは――王冠を囲む二匹の蛇。


 双蛇の紋。

 現在の王家の紋章と酷似しているが、装飾の細部が異なる。もっと荒々しく、牙を剥いた姿。まるで、王冠を守るのではなく“喰らおうとしている”かのようだった。


ナレーション:

「人が造った城の下には、いつも“もう一つの城”が眠っている。

それは過去の知恵ではなく、欲望の化石だった。」


 アランの指先が文様を離れる。

 彼はゆっくりと息を吐いた。――ここは、初代王よりも前の王国の痕跡。

 つまり、王家の根そのものが、今まさに彼の足元に眠っている。



降りれば降りるほど、空気の質が変わっていくのが分かった。

 冷たい――それだけではない。音が、ある。


 最初は気のせいかと思った。だが、次第にそれは耳の奥を震わせ始めた。

 低く、ゆっくりとした波。一定の間隔で鼓動のように鳴る。


 ドゥン……ドゥン……。


 足元の石段がわずかに震え、壁面の苔がそのたびに微かに舞い上がる。

 アランは立ち止まり、息を殺して耳を澄ませた。

 これは風ではない。空洞を抜ける気流の音でもない。――脈動だ。


 石壁に掌を当てると、かすかな震えが伝わってくる。

 まるで、この下に何か“生きているもの”がいるかのように。


アラン(囁く):「……呼吸している、のか……?」


 魔導陣の余波――そう直感した。

 しかし、それは単なる魔力の共鳴では説明しきれない。

 この“音”は、規則正しく、まるで意思を持つように周期を刻んでいる。


 ドゥン……ドゥン……。


 遠い地の底で、巨人が眠りながら胸を上下させているような、そんな響き。

 冷たい空気の中、灯りの炎が揺らぎ、壁の影が脈動に合わせて震える。


 アランは再び歩き出した。

 その一歩ごとに、“城”という建造物の下に潜む“何か”の息遣いが、少しずつ明確になっていく。



石段の最後を踏みしめた瞬間、足元の空気が変わった。

 湿り気の奥に、鉄のような匂い――そして、広がる無音。


 アランは手にしたランプを高く掲げる。

 その灯りが照らし出したのは、途方もない広さを持つ地下空洞だった。


 天井は遥か頭上、黒い闇に溶けるほど高い。

 太古の石柱が森のように並び、崩れかけた装飾が時代の重みを語っている。

 どこからともなく、低い唸り声のような魔力音が響いていた。


 そして――その中心に、それはあった。


 直径数十メートルにも及ぶ巨大な魔導陣。

 幾重にも重なり合う幾何学線、絡み合う回路、封印文字。

 赤い光が脈動するたび、空気がわずかに震え、熱を帯びる。

 その光は天井へと伸びる導管を通り、上層――すなわち王城そのものへと流れ込んでいた。


ナレーション:

「王城の礎石に埋め込まれた“魔導脈管”――

それは防衛装置ではなく、制御された爆薬構造だった。」


 アランは一歩、また一歩と陣の縁に近づく。

 赤い光が彼の頬を照らし、瞳の奥に反射して揺れた。

 魔力の波が鼓動のように上下し、彼の影を伸ばしたり縮めたりする。


 その姿は、まるで“城の心臓に立つ外科医”のようだった。

 病巣を見抜きながらも、切開すれば死に至ることを知る者の表情――。


 アランの喉が、乾いた音を立てた。

 この場所そのものが、城の秘密。

 そして――弟ルークの目的の“答え”だった。



赤光の波が脈打つたび、床の紋様が呼吸するように膨らみ、また沈む。

 アランはその縁を回り込み、中央手前――制御盤の前で立ち止まった。


 そこには、紙片が無造作に散らばっていた。

 羊皮紙に書き込まれた数式と符号、交差する線、複雑な術式構文。

 それらの筆跡は、見慣れたものだった。

 整然としていながら、激情の痕跡が滲む――ルークの手。


 アランは震える指で一枚を拾い上げる。

 そこに記された語句が、彼の目を釘付けにした。


 “波形制御理論”

 “終式:呼応する器”

 “臨界点=同調率98%”


 どの一文も、彼が理解したくなかった種類のものだった。

 それは魔力反応を利用した連鎖起爆――

 王城全体を導火線とする、構造的な“自爆装置”の理論に他ならない。


 周囲には古びた研究装置がいくつも並び、魔力結晶の欠片が床に散っていた。

 机上の水晶端末には未送信のデータが点滅しており、

 そこに刻まれた最後の時間は――三日前。


 アランは口を開きかけ、言葉が出ないまま息を呑んだ。

 胸の奥で何かが軋む。


アラン(低く):「……まさか。城そのものを、導火線に……?」


 答えは返らない。

 だが、赤い光が再び脈打つたびに、

 その推測が――現実であることを、城自体が肯定しているようだった。



ChatGPT:


 アランの足音が、硬い石床に吸い込まれていく。

 魔導陣の赤光がゆるやかに脈打ち、そのたびに空気が震えた。

 息を呑むような静寂の中――奥から、別の“音”が返ってきた。


 規則的な足音。

 軽く、迷いのない歩調。


 アランは反射的に顔を上げる。

 魔導陣の中央、赤光の中心で――人影がゆっくりと立ち上がっていた。


 淡い白衣が、揺らぐ光に照らされる。

 髪がわずかに乱れ、しかしその横顔は静謐で、どこか確信めいている。

 彼は、ずっとそこにいた。

 まるで、アランがこの場所に辿り着くことすら――“計算の一部”だったように。


 ルーク。


 アランの唇が、言葉よりも早くその名を形づくった。

 弟はゆっくりと振り返る。

 赤光が瞳に宿り、その中に一瞬、鋭い笑みが閃いた。


ルーク:「兄上。やっと来ましたか。」


 その声音は穏やかだった。

 しかし、そこに漂うのは再会の温かさではなく――

 目的を果たす者の、冷ややかな到達の響きだった。




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