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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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封鎖命令 ―「沈む城」

通信中枢――王城の神経網とも呼ばれるその部屋は、今や緊張の熱で満たされていた。

壁一面を走る魔力回路が、赤い脈動を繰り返し、まるで生き物のように光を放つ。


数十名の通信士が、魔導水晶盤を操作しながら矢継ぎ早に報告を上げていた。

水晶の光が交錯し、空気には微かな焦げた魔力の匂いが漂う。


中央に立つのは、王城警備隊長――銀髪を後ろで束ねた壮年の軍人。

その声が、室内のざわめきを一瞬で凍らせた。


「全城に通達――“最高警戒令・レベルゼロ”発令。

対象は内部、目的は拘束支援および封鎖維持だ。」


低く、だが決して揺るがぬ声。

その言葉が響くたび、通信士たちの手が止まり、次の瞬間には光の信号が一斉に走る。


魔導水晶盤に赤い波が走り、次々と接続先の紋章が点灯していく。

東塔、南門、主回廊――城の隅々へと命令が伝達されるたび、赤い光の脈動が連鎖的に広がる。


やがて城全体が、ゆっくりとひとつの“生体”のように息づき始めた。

それは守護の鼓動か、それとも包囲の開始か――誰も答えられなかった。



南門――巨大な鉄扉が、ゆっくりと軋みを上げながら閉じていく。

その音は、まるで城そのものが呻くように低く重かった。

朝靄の中、鎧に霜を帯びた衛兵たちが鎖を引き、最後の閂を打ち込む。


「南門、封鎖完了!」


報告の声が響くと同時に、通信士の水晶が淡く光る。


「確認。全門封鎖、第二波通信に移行!」


北塔へと視点が移る。

見張りの兵が高所から旗を振り下ろす。

直後、塔の周囲を走る魔導陣が淡く青く輝き、空気がわずかに震えた。


見えざる膜――魔力障壁が起動する。

風に舞う鳥の羽が膜に触れた瞬間、閃光を上げて弾かれ、白煙のように消えた。


城壁の上を、赤と青の光が交錯して走る。

魔導回線の光が青から赤へと切り替わった瞬間、

王城全体が低く唸るような共鳴音を発した。


それは鐘の音でも、風でもない。

まるで“意志を持つ城”が、自らの口を閉ざしたかのような――

静かで、決定的な音だった。


警備隊長の声が、石壁に反響して鋭く響いた。


「内部通路も全閉鎖。許可証の有無を問わず、通行を止めろ。

 誰であろうと例外はない。――これは殿下の直命だ。」


その言葉が放たれた瞬間、通信士たちの手が一斉に止まった。

沈黙。

わずかに魔導盤の脈動音だけが、室内の空気を震わせる。


数秒ののち、若い通信士が小さく息を呑み、再び水晶盤へと指を走らせた。

光の波紋が走り、各階層・各回廊へ新たな封鎖命令が伝達されていく。


その間にも、隊長の表情は一度も揺れなかった。

彼の目には、任務の重さと、言葉にできぬ苦味が宿っている。


通信士たちは互いに短く頷き合い、無言のまま作業を続けた。

誰もが理解していた――

この命令が、王弟ルークを追い詰めるためのものであることを。


しかし、それを口にした瞬間、この静寂が“忠誠ではなく恐怖”に変わることも知っていた。


赤い光が盤上を走り抜ける。

それは命令の伝達であると同時に、城を覆う呪縛のようにも見えた。


回廊の灯が、次々と赤へと切り替わっていく。

柔らかな朝光は閉ざされ、石壁の上を走る魔導回路が赤く脈打つたび、

まるで城そのものがゆっくりと“息を止めている”かのようだった。


ガチン――。


鉄扉が閉まる音が連鎖し、低い振動が床を伝う。

衛兵たちは無言のまま配置につき、鎧の金属音だけが廊下に残る。


階段を下るたび、光は薄れ、空気が重くなる。

外界の喧騒も、鳥の声も、すべてが遠ざかっていく。


窓越しに覗けば、霧が濃く、王城全体が白い海に沈みかけていた。

塔の尖端すら霞み、その輪郭が溶けていく。


――まるで、城そのものが巨大な棺となり、

中にいる者たちを静かに閉じ込めていくかのように。


赤い光が壁を這い、ひとつ、またひとつと消えていく。

残るのは、密やかな鼓動のような低音だけ。


王城は今、確かに“沈んで”いた。


城は、外敵を拒むために築かれた。


そのはずだった。だが今、その壁はゆっくりと内側へと閉じていく。

赤く染まった照明の下、鉄の門が一枚、また一枚と重く噛み合うたび、

王城は守りの象徴から、静かな牢獄へと姿を変えていった。


誰も声を上げない。命令に従う音だけが、冷たく響く。


――その壁が閉じ込めたのは、敵ではない。

ひとりの王子、その名をルーク・エルデン。


そしてその音を聞くたびに、兵たちの胸の内で、

“忠誠”はわずかに錆び、鎖のように重くなっていった。


鉄の門が鳴るたび、王城は少しずつ沈み、

朝の光は完全に、閉ざされた。




ルークの私室は、すでに夜の闇に沈んでいた。

昼間の騒動の痕跡もなく、整えられた机の上だけが淡く照らされている。


そこに――小さな赤光。


水晶片。

かつてルークの掌の中で脈打っていた制御装置の欠片が、

今も微かに明滅を繰り返していた。

呼吸するように、光は弱まり、また灯る。


誰もいない部屋で、静寂が音を持つ。

風がカーテンを揺らし、その影が光を横切るたび、

赤がわずかに強く――まるで主の帰還を感じ取るかのように、脈を打つ。


「捕らえるべき姿は、すでにどこにもいなかった。

 だが“その意志”だけが、城のどこかで――目を覚まそうとしていた。」


そして最後の光がひときわ強く瞬いたのち、

部屋は完全な闇に沈む。


その暗闇の中で、

王城全体がわずかに――呼吸をした。

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