「対策本部」
王城戦略会議室。
分厚い扉が閉じられた瞬間、空気が一段と重くなる。
中央の長円卓には、魔導地図と立体模型が並び、淡い青光を放っていた。
通信記録の朗読が終わると、沈黙が一瞬だけ場を支配した。
次の瞬間、軍参謀が拳を叩きつけるように立ち上がる。
「城内防衛は我々軍が主導すべきだ! 市民避難などは後回しでも――」
すぐさま、議会代表が鋭く遮った。
「後回し? 爆破の危機を口実に戒厳令でも敷くつもりか!」
声が交錯する。
戦略卓の上に映る光が、怒声に合わせて不規則に脈打つ。
王宮警備局長が額の汗を拭い、低く制止を試みた。
「両者とも冷静に。防衛線の統一が先決だ。」
しかし、言葉は誰にも届かない。
議論は渦を巻き、やがて罵声の嵐へと変わっていく。
会議室の隅では、記録士が震える手で筆を走らせていた。
彼の背後の壁一面に映し出された魔導地図では、赤い“脅威領域”がじわりと広がっていく。
その点滅は、まるでこの混乱そのものを映すように――止まることを知らなかった。
会議室の喧騒の中で、アランだけが動かなかった。
彼は長卓の端に座り、淡い光を放つ王城の立体模型を見つめている。
軍参謀の怒声、議会代表の反論、警備局長のなだめ――
そのすべてが遠い水音のように耳を過ぎていった。
机上に広げられた避難経路図には、すでに何本もの赤い線が引かれている。
アランの筆跡。
それは、崩壊の連鎖を描くような線だった。
――もし爆薬がこの地点に置かれたら。
この塔が先に崩れ、この回廊が遮断される。
人々の逃げ道は、半分しか残らない。
まるでそれを予知していたかのように、アランの視線は模型の一点を見つめていた。
冷たく、正確に。
参謀たちの声が再び荒れる。
命令の奪い合い、責任の押し付け合い――
その中で、アランはひとつ息を吐き、低く呟いた。
「……命令系統が混乱することも、想定のうちか。」
誰もその言葉を聞かない。
ただ、背後に立つカミラだけがわずかに瞳を揺らし、静かに目を伏せた。
彼の沈黙が、誰よりも鋭い“判断”であることを、
彼女だけは知っていた。
会議室の空気は、熱と緊張に満ちていた。
怒声、机を叩く音、資料の紙擦れ――どの音も、焦りの色を帯びている。
その中で、カミラだけが沈黙の観察者だった。
彼女の視線は、議論に加わらぬアランへと向けられている。
――冷静すぎる。
そう感じた瞬間、背筋に薄い寒気が走った。
爆破予告、指揮系統の混乱、疑心の連鎖。
人が怯え、秩序が崩れるこの状況を、
アランは“想定していた”かのように見ている。
彼の瞳に映るのは、人ではなかった。
兵でも、議員でもない。
まるで、王城という構造そのものを俯瞰しているようだった。
どの塔が崩れれば、誰が沈黙するか。
どの通路を塞げば、どの勢力が動けなくなるか。
その冷徹な思考が、まるで“設計”そのものと同調しているように見える。
カミラの胸に、言葉にならない違和感が芽生えた。
「……この混乱こそが、“設計”の狙いなのでは?」
唇が小さく動く。
だが、声にはならなかった。
ただ、アランの横顔だけが淡い光に照らされ、
その瞳の奥に――**人ではない理**の影が揺らめいていた。
重々しい議論の只中――
会議室の照明が、ふと、かすかに揺れた。
天井に浮かぶ魔導灯が低く脈打ち、光が一瞬だけ呼吸するように明滅する。
そのたびに机上の魔導地図が微かに震え、影が波のように壁面を這った。
誰も言葉を発しない。
だが全員が感じていた。
――何かが“見ている”。
音もなく、空気の粒子までもが監視の視線を帯びたような錯覚。
議会代表が書類を握る手を強張らせ、軍参謀は無意識に腰の剣に触れる。
そして、その沈黙を破ったのは、廊下を駆け抜ける靴音だった。
「報告!」
通信士が扉を勢いよく開け、息を切らせて叫ぶ。
「信号、再び検出! 今度は――“内部指令回線”に流入しています!」
その瞬間、会議室の全員が凍りついた。
内部指令回線――それは、王城の心臓部。
軍、警備、議会、王族――あらゆる命令が集約される“中枢”だった。
机上の魔晶管が、淡い光を放つ。
脈打つように、まるで何かが応答しているかのように。
アランはただ、その光を見つめていた。
静かに、まるでそれが自らの呼吸であるかのように――。
ChatGPT:
混乱の声が、次第に渦を巻く。
議会代表が叫び、軍参謀が机を叩く。
警備局長が命令を飛ばそうとするが、通信はすでに応答を失っていた。
会議室は、言葉だけが反響する密閉された箱と化していた。
その中で――ただ一人、アランだけが静かだった。
彼はゆっくりと立ち上がり、机上の王城模型へと歩み寄る。
淡い魔導灯の光が、彼の横顔を照らす。
指先が、模型の上を滑る。
北棟、地下通路、中央塔――
そして止まったのは、王城の心臓部。
「動いているのは、人ではない。」
アランの声は低く、しかし確信に満ちていた。
「構造そのものが、自己防衛を始めたんだ。」
その瞬間、会議室の照明がすべて落ちた。
闇が一気に流れ込み、誰かの息を呑む音が響く。
漆黒の中で、ひとつだけ光が残る。
模型の中心――アランの指が示していた地点。
そこに、小さな赤光が瞬いていた。
まるで、心臓が鼓動を打つように。
まるで――爆心点が、静かに呼吸を始めたように。




