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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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32/75

「残る二つの座」

月光の落ちる階段を、アランは一段ずつ確かめるように登っていた。

石の手すりはひどく冷たく、触れた指先がそのまま現実を確かめるための境界のように思えた。

塔の上へ行くたびに、音が消えていく。

自分の足音さえ、世界から切り離されていくように。


扉の前で一瞬、呼吸を整える。

錆びた蝶番が軋み、扉を押し開けると――夜風が音もなく彼を包んだ。


展望の間。

王都の全てを見下ろす高さ。

ここから見える灯は、いくつもの小さな呼吸のように、夜の底で瞬いていた。

だが、その明滅には生の気配がなかった。

まるで、誰かの意志によって律動する巨大な機構の心臓――。


アランは無言で、その光景を見つめた。


「この国の夜は静かだった。

だが、その静けさの底では、確かに何かが動いている。」


風がゆるやかに流れ、マントの裾が翻る。

彼の影が月光の中でわずかに揺れ、

その背に映る王都の灯が、脈を打つように淡く滲んだ。


アランの瞳は冷たいが、その奥にはわずかな光がある。

それは希望ではなく、確信の色。

――この沈黙の下で、何かが確かに“形”を取り始めているという確信だった。


彼は塔の縁に歩み寄り、両手を欄干に置く。

月光が白く手の甲を照らす。

その光の向こうで、王国のすべてが眠りについているように見えた。


しかし、アランは知っている。

この静寂は、終焉の前触れだと。


「夜は静かだ。けれど沈黙の底で、

“設計”が息をしている。」


彼は目を閉じた。

そして、風の中でただひとつ――かすかな心音のような鼓動を聞く。

それが、まだ目に見えぬ“王冠”の呼吸であることを、

アランは理解していた。

アランは塔の縁に立ち、

冷たい風を受けながら王都の光を見下ろしていた。


街は深い眠りの底にあり、

その灯りはまるで、誰かが描いた図面の線のように整然と並んでいる。

静寂の街――それは今や“生きた設計図”だった。


アランの視線は遠く、塔の影の向こうへ。

そこにはきっと、もう一人の王――ルークが同じ夜を見上げているはずだ。

互いに触れぬ距離で、同じ光を見つめ、同じ沈黙の中に立っている。


胸の奥で、何かがかすかに軋む。

それは迷いではなく、問いの形をした痛みだった。


「王家の“理性”と“狂気”、

どちらが王座に辿り着くか……。」


その言葉は、風の中で形を失っていく。

夜気に溶け、塔の石壁を滑り、どこにも届かないまま消えた。


だが、アランにはわかっていた。

この問いを飲み込んだのは夜ではない――

塔そのものが、答えを持たぬまま沈黙を選んだのだ。


風が止む。

時間が凍りついたような静寂の中、

アランはただ立ち尽くす。


そして、

遠くの王都の灯が――まるで心臓の鼓動のように、一度だけ脈打った。


遠くで、王都の鐘が鳴った。

一度。――低く。

二度。――重く。

そして三度目に、わずかな間を置いて響く。


その音は、時を告げるよりもむしろ、

何かの“始まり”を静かに宣告しているようだった。


アランはゆっくりと視線を落とす。

足元、塔の縁から落ちる影が、月光に照らされて地上へと長く伸びていた。

夜風が吹くたびに揺れ、その黒が石畳の上で微かに震える。


ふと――その影が、二つに分かれた。

一本は王都の中心、玉座の方角へ。

もう一本は、外縁の暗い区画、誰も知らぬ闇の中へ。


アランは息を止める。

光が変わったわけではない。

塔が動いたわけでもない。


「塔の影が裂けたのではない。

運命の線が、静かに分岐したのだ。」


風が一層冷たくなる。

鐘の余韻が、遠くで溶けていく。


アランはその影を見届けるように、ただ目を細めた。

その瞳に宿る光は、決意ではなく“覚悟の観測者”のもの。


やがて、塔の上に再び沈黙が戻る。

それは夜の静寂ではなく――

王冠が次に誰を選ぶのかを見届ける、“設計の呼吸”そのものだった。


夜の王都は、深い呼吸を忘れたように静まり返っていた。

高塔の上、アランはただ一人、闇に沈む街を見下ろしている。


月光は薄く、風は音もなく。

遠くで、最後の鐘が――ゆっくりと、確かに鳴った。


「残る王は、二人。

どちらかが立てば、どちらかが消える。

“設計”が描いた最終の座標――

それは、玉座に他ならなかった。」


その言葉は声ではなかった。

胸の奥で、確信として形を持った思考。

理性の終着点であり、狂気の起点でもある“真の中心”。


風が塔を抜け、アランのマントを揺らす。

その黒い影が地へと落ち、

やがて――二つに裂けた塔の影と重なった。


まるで、運命がその一致を待っていたかのように。


月が雲に隠れ、世界がわずかに暗くなる。

光の消えた瞬間、王都の灯がひとつ、またひとつと瞬きを止めた。


そして最後に、完全な沈黙。


「設計の終幕は、いよいよ“玉座”に到達しようとしていた。」


風も止まり、夜そのものが息を潜める。

まるで――この国が、次の“王”の名を待っているかのように。




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