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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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18/75

“見えぬ敵”

 夜は、王都を包み込んでいた。

 雨上がりの石畳はまだ濡れ、霧が地を這うように街を覆っている。

 街灯の光はその中に溶け、ぼんやりと滲む橙色の輪を描いていた。


 遠くで鐘が一度だけ鳴り、すぐに静まる。

 風も止み、音という音が吸い込まれるような静寂――

 まるで王都そのものが、呼吸を潜めているかのようだった。


 見張り塔の上では、魔導灯が淡く明滅を繰り返している。

 規則的な光が霧を照らし、幻のような影をいくつも生み出す。

 その光の奥――屋根の上を、ひとつの影が静かに動いていた。


 黒衣の人物。

 足音ひとつ立てず、瓦の上を滑るように歩く。

 王宮の尖塔が霧の向こうにぼんやりと浮かぶと、影は一度だけ立ち止まった。


 フードの奥、わずかに光る瞳。

 その視線は、遠くの塔――王家の象徴たる白い尖塔を真っすぐに見据えていた。

 次の瞬間、霧が濃く流れ込み、影はその中へと消える。


 ――何者も、彼の存在を知らない。

 だが確かに、その夜、王都の上を“何か”が歩いていた。


 それはまだ、誰の命令にも属さぬ動き。

 そして、誰も制御できぬ“意図”の始まりだった。

 夜は、王都を包み込んでいた。

 通りの灯はすでに落ち、残るのはわずかな魔導灯の淡い輝きだけ。

 霧が石畳を這い、湿った空気が肌を撫でる。


 風は止まり、鐘楼の音も沈黙していた。

 まるで都市そのものが、息を潜めているかのように。


 高くそびえる見張り塔の上では、ひとつの魔導灯が断続的に点滅を繰り返している。

 その光が濃霧を透かし、街並みの輪郭をぼやかした。

 流れる光が霧の中を走り、まるで血流のように王都の静脈を描いていく。


 ――すべてが、嵐の前の静けさだった。


霧の向こう、王城の尖塔をかすめるように――黒い影が動いた。

 屋根瓦を踏みしめる足音は、湿った夜気に溶けて消える。


 影はゆっくりと立ち止まり、沈黙の王宮を見下ろした。

 その姿は人のようでありながら、どこか“形”を持たぬ闇そのもののようでもあった。


 風が吹き、衣の裾が音もなく揺れる。

 霧の中でその輪郭が一瞬だけ浮かび上がり――次の瞬間、ふっと掻き消える。


 まるで、存在そのものが最初からそこになかったかのように。


「それは、誰の命令も受けていない動きだった。

 ――“設計”の線が、再び描かれ始めていた。」

映像がふっと切り替わる。

 まるで時間が止まったかのように、静止した空気の中――蝋燭の炎だけが、かすかに揺れていた。


 アランの工房。机の上には散乱した資料と、焦げ跡の残る封筒。

 中央には、一枚の地図が広げられている。


 赤い印が二つ。

 一つは《グレイス峠》――ルーク殿下の馬車転落地点。

 一つは《アステリア飛行場》――ユリウス殿下爆発現場。


 その二点を結ぶように、細い線が一本、鉛筆で引かれていた。

 まるで無意識の走り書きのように。

 だが、その線の延長上に――王城の中心が、ぴたりと重なっている。


「二つの死を結ぶ線。

 その線が、王国の心臓を貫いていた。」


 次の瞬間、光の反射で地図の上に、かすかな三角形が浮かび上がる。

 偶然か、それとも“誰か”の意図か。

 その形はまるで、見えざる設計図の基点を示していた。


「それは、まだ誰も知らない“設計された死”の座標図。

 王国の心臓に向かう線は、すでに描かれていた。」


 蝋燭の火がふっと揺れ、大きく跳ねる。

 光が地図の上を走り、三角の線をなぞるように滲んで消える。


 そして――暗転。


 遠くで、雷鳴が低く響いた。

 静寂の中で、物語は次なる闇へと沈んでいく。



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