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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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17/75

“魔力波形の一致”

――時間:翌朝・王都中央研究局 魔力解析室


 朝の光は、雲の層に押し込められていた。

 窓の向こう、鈍い灰色の空がただ広がり、雨粒が一定のリズムでガラスを叩く。

 王都は静まり返っている。昨夜の混乱の余波は、街全体に重い沈黙を落としていた。


 研究局の魔力解析室。

 無機質な白壁に囲まれた広い室内には、規則正しく並ぶ測定装置の列。

 だが、ほとんどの端末は電源を落とされ、動いているのは中央の一台だけだった。

 小さな魔導ランプがかすかに点滅し、機械の息づかいのように青白い光を吐き出している。


 その前に立つのは、アラン・フォルティス。

 昨夜から続く疲労の影を宿した瞳で、机上の記録装置をじっと見つめていた。


 資料棚から取り出した封筒を開くと、黒い符号の印が押された魔力痕データの紙片が数枚、静かに滑り出る。

 彼は一枚を指で押さえ、投影装置に差し込んだ。

 瞬間、光のスクリーンが浮かび上がり、脈打つような波形が描かれる。


 ――昨夜、ユリウス王子の爆発現場から採取された魔力残留の解析結果。


 アランは眉をわずかに動かし、隣の端末からもう一つのデータを呼び出す。

 古い記録――三か月前。ルーク殿下の馬車転落事件。


 重ね合わせた瞬間、二つの波形が静かに同期した。

 まるで長く離れた拍動が再び同じリズムを刻み始めるように。


 青白い光がアランの頬を照らす。

 彼の瞳には、理性と不穏の狭間にある微かな戦慄が宿っていた。


 「……同じ、だ。」


 呟きは息のように零れた。

 魔力の周期、干渉域、残留値。

 どの数値を見ても一致している。偶然ではあり得ない。


 彼は手帳に短く数式を書き込み、思考を整理しようとした。

 だが、脳裏には昨夜の閃光と、崖下で拾った鉄片――“楔”の記憶がよぎる。

 あの光の波と、この波形。根は同じ“設計”を感じさせた。


 部屋の片隅で、若い補助官カミーユが息を呑んだ。

 「まさか……同一の術式、ですか?」


 アランは応えず、データを閉じる。

 冷たい金属音とともに、投影が暗転した。

 青の光が消え、再び静寂が戻る。


 「……まだ、断定はできない。」

 自分に言い聞かせるように言葉を落とす。

 「だが、もしこれが“偶然”でないなら――」


 彼は封筒を閉じ、鍵付きの引き出しにしまった。

 カチリ、と乾いた音が部屋に響く。


 外では雨脚が強まり、曇天の向こうで雷が一度だけ鳴った。


 アランは窓の外に目を向ける。

 雨粒が幾筋もの線を描きながら流れ落ち、ガラスの上でひとつの“線”を形づくっていく。

 まるで、二つの死を結ぶ“道筋”のように。


 > 「二つの死を結ぶ線がある。

 >  ならば、その線の先に――誰がいる?」


 その呟きは雨音にかき消され、誰の耳にも届くことはなかった。

 ただ、沈黙の中で、理性の男の心にひとつの確信が芽吹いていた。


 ――これは、設計された偶然だ。


夜の混乱を経て、王都は沈黙していた。

 研究局の魔力解析室にも、まだ“死の気配”が残っている。


 白い壁に囲まれた無機質な空間。

 雨音が遠くの窓を叩き、冷たい湿気が床を這う。

 照明は最小限に落とされ、ランプの淡い光だけが、机上の器具をぼんやりと照らしていた。


 アランはゆっくりと資料棚に歩み寄る。

 金属製の引き出しを開けると、封印符で閉ざされた一枚の封筒が現れる。

 ――昨夜の爆発現場から採取された、魔力痕の記録データ。


 彼は封を切り、慎重にその中身を取り出す。

 薄い結晶板がランプの光を受け、微かに青く輝いた。


 アランはそれを投影装置のスロットに差し込み、装置の起動符を押す。

 静かな唸りとともに、光のスクリーンが宙に浮かび上がった。

 そこに現れたのは、揺らめくように脈打つ魔力波形――まるで生き物の鼓動のような、残留魔力の軌跡。


 「……これが、昨夜の“閃光”の正体か。」


 アランは目を細め、光の曲線を見つめる。

 その瞳には、理性の静けさと、確信に近い不安が同居していた。


スクリーンに浮かぶ波形は、まるで心電図のように脈打っていた。

 光の線が揺れ、消え、再び強く瞬く――まるで、何かが今もなお呼吸しているかのように。


 アランは端末の操作盤に指を滑らせ、別の記録を呼び出す。

 淡い魔導印が机上を走り、次のファイル名が表示された。


 > 「ルーク殿下の馬車転落――事故処理記録。三か月前。」


 クリック音と共に、新たな波形が宙に浮かび上がる。

 彼は視線を鋭く細め、二つの波形を重ね合わせた。


 沈黙が落ちる。

 装置の低い駆動音だけが室内に響く。


 次の瞬間、二つの波形がぴたりと重なり合い――

 チリッと、微かな音が鳴った。

 まるで“真実”そのものが、小さく息を呑んだように。


 「……同じだ。」


 アランは呟いた。

 魔力の周期、残留値、干渉域。

 全てが――完全に一致していた。


 背後で控えていた助手のカミーユが、思わず声を上げる。


 > 「同じ……? でも、そんな偶然は――」


 アランは目を離さぬまま、低く応えた。


 > 「偶然ではない。これは“意図”だ。」


 その声音には、確信よりも冷たい“理解”があった。

 理性の底に沈む、ひと筋の怒り。

アランはしばし、光の消えたスクリーンを見つめていた。

 白い光がゆっくりと薄れ、波形が闇に溶けていく。

 投影装置の音も止まり、室内には再び沈黙が戻る。


 彼は深く息を吸い、端末の電源を落とした。

 ――まるで思考そのものに幕を引くように。


 「結論を出すには、まだ材料が足りない。」


 低く呟く声が、金属と紙の匂いに満ちた空間に滲んだ。

 だがその直後、唇の奥で別の言葉が零れる。


 > 「……だが、もしこの一致が“設計”によるものなら――」


 思考が静かに、確信へと形を変えていく。

 それは怒りでも、悲しみでもない。

 “理解した者だけが抱く冷たい恐怖”だった。


 アランは手元のファイルを閉じ、厚手の封筒へと滑り込ませる。

 封をした瞬間、紙の擦れる音がやけに大きく響いた。


 机の奥の引き出しにそれを収め、錠前をかける。

 金属が噛み合う音――その短い“閉じる音”が、

 まるで彼の理性が自らを封じ込める合図のように響いた。


 沈黙の中、アランはただ一人、曇天の向こうにある“線の先”を見据えていた。


アランは椅子の背にもたれ、閉じた瞼の裏に波形の残像を見ていた。

 脈打つ光。重なり合う二つの閃光。

 それはまるで、二つの死が互いに呼応しているかのようだった。


 > 「二つの死を結ぶ線がある。

 > ならば、その線の先に――誰がいる?」


 心の声が、雨の音に紛れて消えていく。


 彼はゆっくりと顔を上げ、窓の外に目を向けた。

 灰色の空から、細い雨の筋が静かに落ちている。

 その雫がガラスを叩き、枝分かれするように流れ落ちていく。

 ――まるで血管のように、無数の線が交わり、ひとつの形を探している。


 遠く、王都の尖塔がぼんやりと霞んでいた。

 世界が静止したようなその光景の中で、アランは確信する。

 理性だけでは、辿り着けない場所がある。

 そこにこそ、真実は潜んでいるのだと。


 > 「理性の世界に、ひとつの“設計”が混じっていた。

 > それはまだ、形を持たぬ“陰”だった。」


 雨脚が強まり、窓を叩く音が激しくなる。

 だがアランは動かない。

 彼の中で、ひとつの線が確かに繋がり始めていた。





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