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王国爆死録 ヴァルハイト王国 暗殺連鎖〜爆破テロ  作者: 南蛇井


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13/75

軍部の反応 ― “怒りと疑念”

王都中心部――軍務省の作戦会議室。

夜の帳が落ちると同時に、再び雨が窓を叩き始めていた。

室内には、焼け焦げた飛行服と、回収された魔導記録装置。

机の上に置かれたそれらは、まだどこか熱を帯びているようで、

空気の奥に鉄と焦げの匂いを残していた。

壁際には軍旗が垂れ、濡れた外套を脱ぐ音だけが響く。

誰もが口を開こうとせず、ただ沈黙の中で、雨音と心臓の鼓動を聞いている。


まるで部屋そのものが、怒りと悲嘆の熱で息をしているようだった。


やがて、中央に座る総参謀レオン・ハーゲンが重々しく口を開く。

「……始めろ。」

その一言で、会議室の照明が落とされる。

暗闇の中、記録装置の魔導光が投影され、

白黒の映像が壁に浮かび上がった――

崩れた空と、落ちていく“王家の翼”を映すために。

軍務省・作戦会議室。

厚い帳が窓を覆い、外の雨音が鈍く壁を打っていた。

焦げた油と鉄の匂いが、まだ部屋の隅に残っている。

長い会議机の上には、回収された映像投影装置と、

黒く焼けた金属部品が並べられていた。

それらはまるで、先ほどまで空を飛んでいた“翼”の亡骸のようだった。

時計の針が、重く、湿った空気の中を進む。

「コッ、コッ」と響く音が、沈黙をさらに深くする。

そして――

「……始めろ。」

総参謀レオン・ハーゲンの低い声が、静寂を切り裂いた。

次の瞬間、部屋の灯が落ち、壁面に淡い光が走る。

魔導投影装置が起動し、白い幕に映し出されたのは、

灰色の滑走路、上昇する飛行艇、そして――崩壊の光。

(地の文)

「焦げた空気の中で、王国の“真実”が再生されようとしていた。」

白黒の映像が、無音のまま壁面に映し出されていた。

滑走路。並ぶ整備兵。

その列の背後に――ひとつ、他と違う影。

薄い霧を透かして見えるその姿は、

フードを深く被り、顔の輪郭さえ曖昧だった。

ユリウス王子が歩み寄り、

軽く笑みを浮かべながら何かを問う。

フードの人物がわずかに頷き、

――その手元で、何かが受け渡されるような動き。

次の瞬間、映像が微かに震え、

白いノイズが画面を覆った。

「……」

映像が止まる。

投影装置の光だけが、会議室の空気を照らしていた。

誰もが息を呑み、

その“影”の存在を、言葉にできずにいた。


そこに映っていたのは、偶然ではなく――意図の影だった。

「見ろ、この影を!」

グレイヴ少将の怒声が、重苦しい会議室を震わせた。

分厚い拳が机を叩き、散らばった書類が宙を舞う。

「奴ら議会派の手の者に違いない! 第二王子を落とし、今度は第三王子まで――!」

「どこまで腐っていやがる!」

怒気に濡れた言葉が壁を反響する。

雨音さえ、その刃のような声に押し負けていた。

モルテ博士は、焦げた部品を手に取ったまま、

その熱を確かめるように指先を動かす。

「……確証はありません。」

彼の声は低く、冷たい水のようだった。

「魔導炉の破壊波形には外部干渉の痕跡がある。だが――」

「それが“魔力装置”なのか“術式”なのか、まだ判別できません。」

「博士!」

グレイヴの顔が赤く染まる。

「貴殿の言葉はいつも悠長だ! 今この国に必要なのは理屈じゃない、報いだ!」

再び拳が鳴り、机上の杯が倒れ、水滴が図面に滲む。

怒声、足音、紙の音。

熱を帯びた空気が、密室の中で暴風のように渦を巻いていた。


理性よりも怒りが先に燃える――それが、戦を知る者たちの反応だった。


「――黙れ。」

その一言が、雷鳴のように会議室を貫いた。

レオン・ハーゲン。

彼が椅子を引く音すら、刃のように鋭く響く。

誰もが息を呑み、荒れ狂っていた空気が、一瞬にして凍りつく。

レオンはゆっくりと立ち上がり、

投影装置の前に歩み寄る。

白黒の停止映像――ユリウスと“影の人物”が交わった瞬間。

その画面を、無言のまま見据えた。

「……憶測で動くな。」

低い声が静寂の底に沈み込む。

「それこそ、奴らの望む“混乱”だ。」

将官たちの視線が揃って彼に向けられる。

レオンは背筋を伸ばしたまま、

冷ややかな瞳で命令を下した。

「全兵に通達を――王都への立ち入りを制限せよ。」

「外部との通信を、すべて遮断だ。」

誰も反論しない。

その言葉には、怒りではなく“秩序の刃”があった。


嵐を鎮めるために、彼はさらに重い闇を落とした。

 その夜、王都は静かに――封じられた。


カミラは、何も言わなかった。

映像投影機の光が、彼女の横顔を淡く照らしている。

停止した画面には、ユリウス王子と“影の人物”――

その二つの輪郭が、ざらついた白黒の粒子の中で固まっていた。

将官たちの怒号も、椅子の軋む音も、

彼女の耳にはもう遠くの出来事のようにしか聞こえない。

(……また、同じだ。)

「車軸に仕込まれた楔。今度は魔導炉。」

「――同じ“手”が、動いている。」

唇がわずかに動くだけ。

声にはならない。

だが、その思考の奥底では、

冷たい点と点が静かに線を結び始めていた。

雷鳴が遠くでうなる。

その光が、会議室の壁を一瞬だけ白く染め、

カミラの瞳に閃光を映す。

それはまるで、“真実の輪郭”が

ほんの一瞬だけ、暗闇の中に姿を現したかのようだった。

レオンは無言のまま、机の上の地図を手繰り寄せた。

分厚い紙の端が擦れ、空気を裂くような音を立てる。

王都を中心に描かれた戦略図。

その南東――《アステリア実験基地》の位置に、

彼は赤い印章を押した。

インクが地図の繊維に染み込み、ゆっくりと滲んでいく。

まるで血が静かに流れ出すかのように。

「……ここから全てが始まった。そう記録しておけ。」

低く響くその声に、誰も言葉を返せなかった。

ただ、雨音が窓を叩く。

カメラの視点がゆっくりと上昇する。

机上の地図が次第に遠ざかり、

赤い印だけが闇の中で鈍く光る。

その印が、フェードするように――

アランの工房の机上へと重なる。

夜の蝋燭の灯に照らされた地形模型。

そこに突き立つ一本の金属針が、

地図の赤い印とぴたりと重なり、同じ光を放った。


「事実は、図面に残る。」


誰の声でもない、王国の記録そのもののように。

雨音の余韻に溶け込むように重なる。

「軍は怒り、議会は沈黙した。」

映像の奥、燃える滑走路の残光が消えていく。

しかしその裏で、誰かの手が静かに動き始めていた。

「だが――ただ一人、理性の男は“形”に真実を求め続けた。」

場面がゆっくりと転じる。

夜更けの王宮北棟、ひとつだけ灯る明かり。

机の上に、木片と針、未乾の墨。

その中央に、新たな地形線が描かれていく。

「――アラン・フォルティス。その執念が、再び動き出す。」


窓の外では霧に包まれた王都が眠っている。

ただその工房だけが、まだ夜を拒んでいた。


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