"Humility is the beginning of wisdom."
「これでもまだ、お気に召しませんか?」
まだ幼いと言って差し支え無い容姿の神父は、祭服を窮屈そうにベッドの外に放ると、緻密な装飾の為された薄く白い下着姿で吸血鬼の少年を誘った
吸血鬼は「いや」「僕には出来ない」と答え、絶望に両手で顔を覆う
彼は自らの強い美意識の為、神父の曇り無き美に牙を突き立てて穢す事を恐れて居た
「欲しいのでしょう」
「なにを」「恐れるのですか?」
神父は吸血鬼の耳に呼気を濃密に押し付けながら、挑発した
吸血鬼は頭を抱え、動揺を隠そうともせずに両耳を塞ぐ
その両手を少年神父の細い手指が、冷たくも優しく包み込んだ
「私は」「総てを赦します」
「無論、貴方の存在そのものも」
「悩む事など無いのですよ」
「さあ」「求めて下さい」
神父が下着の胸元を薄くはだける
彼の落ち着いた表情とは裏腹に、じっとりとした汗の匂いがきつい香水の様に吸血鬼の鼻腔を突いた
理性が喪われていく
神父はじれったそうに刃物を握ると、それで自らの腕を軽く裂き、傷口を吸血鬼へと突き付けた
「さあ」
「もう、私は傷付いてしまいました」
「この上は、何を恐れる意味が有りましょうや」
理性の留め金が弾け飛ぶ
年若い吸血鬼は大きな声で苦しげに幾度か喘ぐと、神父の両肩を爪が突き刺さる程に強く握り締めた
人ならざる腕の逞しさが、少年神父をベッドに押し付ける
その牙が、纏っているもの程に白い神父の肌に突き立てられるかに思えた時、吸血鬼は窓から飛来した弩の矢弾に貫かれ、壁に串刺しに射止められた
吸血鬼の眼が、『信じられない』といった表情で神父を視る
彼は切に純粋なる想いから、神父に心の底から恋をして居たのだ
神父の少年は行為の後のように艶めいた仕草で仕事着たる祭服を纏うと、煙草を取り出して部屋の燭台から火を借りてそれを吸い込んだ
「"Humility is the beginning of wisdom."(上には上が居るのさ)」
吸血鬼にしか生える筈の無い牙を隠しもせず、神父は死にかけた吸血鬼へと嗤う
吐き出された煙草の煙を顔に浴びながら、幼齢の吸血鬼は静かに瞼を降ろし、躰温を喪い始めて居た
その頬には涙が伝っていたが、気に掛ける者は無い
事後処理を行う為の騎士達が奏でる金属音が、幾つも部屋に向けて近付いて居る
「かくも穢れた生命でも、滅ぼした事の誉れが今夜の飲み代にはなると良いですが……」
神父は慣れた仕草で素早く煙草と牙を隠すと、ベッドに座って所在なげに自分の爪を眺めた




