表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

親愛なる友人へ

メグと抱き抱えられたヒカルは医務室に戻るや否や一人の兵士に声をかけられる。

「勇者様。バルト様からのお届け物です。」

ヒカルは兵士が差し出した手紙を恐る恐る手に取る。勇者が今どこにいるのか、どんな姿なのかはごく一部の人間にしか知られていない。バルトから届けられた手紙というのは嘘ではなさそうだ。

(バルトから…?一体なんの要件で…?)

「私は部屋の外で待っていますので、返事が決まりましたら私にお伝えください。」

兵士は手紙が渡ったことを確認すると部屋を出る。


ベットに腰掛けたヒカルは手紙を開いた。内容を見る前から驚く。全ての文字がこの世界のものではなく、日本語…つまり元の世界のものだ。よほどヒカル以外にはこの手紙の内容を知られたくないのだろう。久しぶりの元の世界の文字を少しずつ読み解いていく。



親愛なる親友ヒカルへ

今回の襲撃で負った傷については心から一日も早い回復を祈る。

そして、君に一つの提案を持ちかけたいと思う。

傷が治るまで、静かな土地で療養しないか?王宮のような騒がしい場所では治るものも治らないだろう。

もう土地は手配してある。誰も領主のいない王国の端、ロズウェードというところだ。

ここは静かな山奥で、視察したところとても住みやすく、いい場所だ。

それと、君が王宮を離れるとなると、王国のことが不安だろう。安心してくれ。王国のことは俺に任せて欲しい。今まで付き合いもあるし、事件の時に君を助けた俺なら信頼できるだろう。

そこで、君には勇者として俺を宰相に推薦するという返事を書いて欲しいんだ。そうすれば俺が宰相になって君の代わりに王国を守っていける。

ぜひ前向きに検討して欲しい。

まあ、今の君に逆らうという選択肢はないと思うけどね。この手紙が意味することをわかってもらえたら幸いだ。

返事は手紙を渡してくれた兵士に渡してくれ。期限は今日までだ。

それでは、よろしく頼むよ。

君の味方バルトより



読み進めていくにつれて顔色が悪くなり、読み終わった時には肩で息をして冷や汗が滲んでいる。

「ゆっ勇者様…?どんなことが書かれているんですか?」

メグは未知の言語で書かれた手紙の内容が気になって聞く。

ヒカルはそれに答えない。この手紙はヒカルに対してさも利益があるように書かれている。だが、要約すれば()()()()()()()()()()である。


(バルト…。お前は俺の力を利用してこの国の頂点に立とうというのか?!そして、勇者である俺は邪魔だから遠くの地へ飛ばすということか?!)

力を入れたせいで手紙には何本もシワができている。

(後半に至っては隠す気すらない!俺にしかこの文字を読めないからって…そんな…。)

強気の態度のバルトに恐怖を感じる。

目の前に来て無理やり返事を書かせることも可能なはずだが、わざわざ手紙にしたのはヒカルへの温情なのだろうか。

それとも、そんなことしなくてもわかっているなという意味も含まれているのだろうか。

どちらにせよ、返事は「その通りにします。」しか選択肢にはない。手紙の通り、今のヒカルはバルトに逆らうことなどできない。

もし逆らってもこの足では逃げ切ることができない。捕まった後、ありとあらゆる方法を使ってヒカルの首を縦に振らせてくるだろう。


メグに頼んで廊下まで体を運んでもらうと、兵士から返事用の紙とペンをもらう。

そして、手紙の指示通り、宰相への推薦、バルトの提案に賛成するという返事をこの世界の文字で書いていく。ペンを持つ手は震えが止まらない。

書いている最中、わかっているなと言わんばかりに兵士が覗き込んできたが、メグがその度に睨みつけて追い返す。

書き終わった返事を渡すと、兵士は一度ヒカルを見る。思わず怯むヒカルと庇おうとするメグを置いて、兵士はそさくさと部屋を出ていった。



兵士はヒカルからの返事をバルトに手渡す。

「ご苦労。勇者の様子はどうだった?」

「はっ。前までの勇者の気迫は感じられませぬ。もはや弱々しい一人の少女にしか見えません。」

「ふっ。そうか。」

満足そうに返事の手紙を開く。

そこには自分の要求したものが全て書かれていた。恐怖からか、ところどころ字が歪んでいる。

「この返事をすぐに王の元へ渡すぞ。そして近いうちに俺の宰相の就任式を執り行うと伝える。お前はロズウェードへの馬車の手配を急げ。」

「はっ。」

兵士が離れていったことを確認し、バルトはついに抑えていた笑い声をあげる。

全てがうまくいった。


牢屋の兵士の中にいた自分に命を救われた経験のある者を見つけ、ヒカルが外へ出たタイミングを見計らって捕虜の魔族の鎖を剣で断ち切らせて檻から出す。

ヒカルが戦いで怪我を負ったところで自分が魔族の首を刎ねる。そして、勇者が敗北したという情報を王国中に流す。

後は、すでに自分の味方をするように指示をしておいた貴族の意見に王が流され自分の計画を承認してもらう。


魔王が討伐された時から考えていた計画は全て完遂しきった。後は、国民が自分を受け入れるかどうかだけだ。


ヒカルの良きライバルだったバルトの姿はどこにもない。ヒカルから全てを奪い取り、ヒカルを利用して権力を手に入れようとする歪んだ嫉妬心が生んだ"元"ライバルがそこにはいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ