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王宮に訪れる衝撃

事件から一日後、王宮の医務室にベッドに横たわるヒカルとその横で座り込むメグの姿があった。部屋は貸切の状態のようだ。

どちらも言葉を発さない。扉の向こうからうっすらと聞こえる貴族の笑い声だけが部屋を支配する。

「勇者様…。その…。今は痛くないですか?」

ついにメグの方が重い口を開ける。小さな主人の右足は包帯でぐるぐる巻きにされ、板で固定されている。

「痛いよ…。」

か細く、掠れる声で答えるヒカル。

「なっ何か私にできることは?お医者さんに聞いてきましょうか?」

慌てて立ちあがろうとするとヒカルの言葉がそれを遮る。

「ずっと…。痛い…。足も…頭も…。」

「頭…?まさか戦ってる時にぶつけたとか!」

「違う…。どうすればいいのか…。どうすればよかったのか…。ずっと考えてたから…。」

顔をメグから背ける。

「あの時…逃げればよかったって…。そうすれば俺が勇者だって気付かれなかったのに…。でもあの時の俺には…逃げるなんて頭になかった…。」

少しずつ小さくなる声を一言も聞き逃さないようにメグはヒカルに近づく。

「今…気がついた…。俺はみんなからの祝福が欲しかった…。王からの褒美が欲しかっただけなんだ…。ただ…自分を満たしたかったんだ…。」

メグはぶんぶんと首を振り、何かを言おうとするが言葉にならない。それが今のヒカルに必要な言葉だと分かっていても、身も心もボロボロになった主人を前に自分が言うべきなのか躊躇ってしまう。

「悪いけど…。一人になりたいんだ…。部屋から出ていってくれ…。」

ヒカルの命令に、メグは込み上がるものをグッと堪える。

「…っ!分かり…ました…。」

よろよろと立ち上がると廊下へ歩いていく。扉の前で一度立ち止まり、ヒカルの方を向く。

しゃっくりをし、鼻水を啜る音が聞こえる。従者の前だからと涙を抑える小さな主人の姿がそこにはある。目を瞑り、再び前を向くメグ。

「失礼します。」

扉を閉め、立ち去ろうとする。すると、扉の向こうから微かに声が聞こえことに気が付く。

獣人の鋭い聴覚でなければ聞こえないような声に耳を傾ける。

「なんで…?なんで俺は…?間違えたのか…?俺のせいなのか…?」

すすり泣く小さな女の子の声。全てを失い、体の自由さえも制限された主人が今、扉の向こう側にいる。

爪を扉に突き立て、ガリガリと音を立てながら扉の前で泣き崩れる。かつて自分がされたように、目の前の女の子に手を差し伸べる。そんなことさえできない自分の無力さを呪う。

(なんで!どうして声が出ないの!どうして前に行けないの!あなたを助けたい!抱きしめてあげたいのに!)

扉を痛いほど叩き、自分の胸を引っ掻く。

泣きじゃくる主人と従者。無情にもそんな二人の間を遮るように存在する扉。結局一日中メグはその場にいたが、その扉を開くことはなかった。



勇者の敗北と今の姿は小さい子どもであること。

この情報はすぐに王国中を駆け巡った。誰もが自分たちの信じた勇者の現在の状態を受け入れることに時間を要した。事件から七日が経過してしまっていた今、

「これは我が王国最大の危機である。」

ドリベルト王国国王ドルダムは貴族を緊急で集めた。

「今までは勇者という名を使って国民の士気を高め、団結させてきた。しかし、その本人の信頼が薄れるとなると、国民の信じる対象がいなくなる。最悪、国家が分裂してしまう可能性も秘めている。何か良い手段はないか?」

少し前に歳を理由に宰相は隠居しており、ドルダム本人は貴族たちに任せっきりの状態が続いていた。

すると、一人が前に出る

「陛下。私に策がございます。」

この場の全ての視線が言葉の主に集まる。言葉の主はバルトだった。

「勇者はもはや士気を下げるだけの不要な存在です。そこで、勇者の代わりとなる者を今空いている宰相の座に据えるのです。この時、国民の信頼を得るために勇者に直筆の就任祝いを書かせ、勇者自身は隠居していただきます。こうすることで勇者から正式にこの者はその者の代わりとなるとアピールすることができます。」

「して、その宰相の座に着く者は?」

ドルダムはこの計画において最も重要な部分に踏み込む。

「この私にございます。」

声高らかに宣言するバルト。

「無礼者!」

すぐさま反対の声を上げた者がいる。ドルダムの第一子ヘンリー皇太子だ。

「それは王の決めることである!また、あなたはこのような政治の経験が乏しいはず。いきなり宰相に就かせるわけにはいかない!この計画自体、あなたがこの国の実権を握るためだけに考えられたものなのだろう?」

「とんでもない。私はこの国の平和を誰よりも願っている。それに、今この危機的な状況において、私以外にこの国をまとめられる力を持った者はいるだろうか。」

ヘンリーは黙り込む。そもそもこの国は魔族と戦争することで存続してきたようなものだ。力さえあればどんな無茶も通せてしまうのが現状だ。勇者が力を失った今、バルトの力に対抗できる者はいない。

「バルトの計画は素晴らしい!」「宰相はバルトこそが就くべきだ」

貴族もバルトの計画に賛成している者が多い。

「我々はバルト様を支持いたします。」

貴族の代表が王に自分たちの意思を伝える。

もはやこの場において、バルトの反対をしている者はヘンリーのみとなった。

「では、バルト殿よ。その計画を実行に移そう。」

王はこの場にいる全員に確認を取る。

「皆の者、良いな?」

「はっ。」

渋々頭を下げるヘンリー。

(貴様の魂胆は見え抜いている、バルト。しかし、今の私には止める手段がない…。)

ヘンリーはこの国の未来を想い、一筋の涙を流した。

貴族が解散する中、隣にいた部下に何か指示をする。全てが計画通りに進むバルトは悠々と王の御前から去っていった。

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