表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/17

親子と交わした約束

教会を飛び出したヒカルは街の大通りをふらふらと歩いていた。

(手がかりすら見つからないなんてことがあってたまるか!絶対に俺を元に戻したくないからに決まってる!だからさっきのはあいつが悪い!俺は悪くない!)

頭の中ではセルフィーや王国に対する怒りが煮えたぎっていた。

「あら?可愛らしい子だこと。」

「…?!だれだ!」

不意に後ろからかけられた声に身構えるヒカル。振り返ると一人の女性と今の自分と同じぐらいの歳の女の子が立っていた。ヒカルの声に驚いた女の子が女性の後ろに隠れる。どうやら親子のようだ。

「驚かせるつもりはなかったのよ。ごめんなさいね」

警戒するヒカルを安心させるように優しく声を掛ける母親。危害を加える気がないことが分かったヒカルは警戒を解く。

「一人だけどどうしたの?もしかして親とはぐれちゃった?」

「いや…ばかにして…けほん!」

いつもの調子で答えようとしてしまい、すぐに言い直す。

「わっ私、一人で服を買いに来たの!だから心配しないで!そっそれじゃあ!」

必死に今の見た目相応の対応をする。

今、メグは自室で昼食を作るためにヒカルについてきていない。付き添いなどいないため迷子の疑いを晴らし、すぐにこの場を立ち去りたい。

こんな歳の子どもが一人で?と不審に思う母親。

「でも危ないわよ。最近はこの大通り、人が多いし…。」

指を顎に当て少し考える動作をすると、何か思いついたように手を叩く。

「そうだわ。この子の服も買いたいと思ってたし、一緒に行きましょう!その方が安全だから。」

まさかの提案が飛び出す。

「だっ大丈夫ですよ!迷惑かけるわけにはいきませんし!」

第一に服など買いたくない。必死に断ろうとするヒカル。

「あら、迷惑だなんて思ってないわよ。さっきまで

あなたが困ってそうだった時からからそうしようと思ってたぐらいだし。」

母親は自分の子どもに「いいよね」と顔を近づけて声を掛けると、女の子はこくんと頷いた。

ヒカルはもう逃れるのは無理だと悟る。

「じゃあ、お願いします。」

観念したように母親に声を掛ける。

「服屋は大通りを真っ直ぐ行って右の道に曲がるとあるお店で大丈夫?」

「そっそれで大丈夫です。」

服屋など場所も覚えていないため、適当に返事をする。そして、案内してくれる母親に後ろからついていく。

ヒカルは歩いていく中で、自分がこの姿に変わっていると気がついた時のことを思い出していた。

その時軽くパニックになっていた自分に、セルフィーはこう言っていた。

「私が元の姿に戻る方法を見つけ出すわ。えっ?余計なお世話だって?人の善意には乗っかっておきなさい。私があなたにしたいことなんだから。」

母親の言葉がセルフィーの言葉に重なる。そして、教会での自分の言葉を振り返る。

(何言ってんだ俺。あのセルフィーが俺を陥れるわけがないだろ。それにわざわざ俺を安心させるためにあの時声を掛けてくれて、実行にまで移してくれたのに。それを突き放すように俺は…。)

セルフィーの表情を思い出す。いつもと変わらなさそうに見える顔には悲しみと哀れみが入っているように思えた。

自分の行動を反省していると、

「ねえ、あなた。」

女の子が声を掛けてきた。

「どっどうしたの?」

「どんな服が欲しいの?可愛いワンピース?それともかっこいいズボン?」

「えっ…えっと…」

ぱっと出てこないため、自分の知っている服を片っ端から思い出していると、

「私はおっきい帽子が欲しいの!リボンのついたおっきい帽子!」

女の子が話を先に持っていってしまう。

「もう。あなたに合うサイズにすればいいのに。」

母親が呆れたように言うと、

「だってー。貴族達はみんな持ってるじゃん。私も被ってみたい!」

「それは値段が高すぎるからダメよ。」

「えー?!」

頬を膨らませて怒る女の子。ヒカルはふと自分の部屋にそんな帽子が置いてあることを思い出す。当時、人見知りだったメグのために買ったものだ。獣人は珍しいため、注目を集めてしまう耳を隠すためのものなのだが、最近は平気なのか被っているところを見たことがない。必要ないことをメグに確認すれば、譲ってくれるかもしれない。

「あの…もしよければそのような帽子を持っているので、お譲りできるかもしれません。」

ヒカルが突然貴族じみたことを言ったため、母親は目を丸くする。

「えっ?!本当に!」

女の子は期待の眼差しでヒカルを見る。

「うん。従者の子に確認しないといけないけど、多分譲ってくれると思う。」

「やったー!ありがとう!」

小躍りして喜ぶ女の子とは対照的に、母親の方は心配そうにヒカルに聞く。

「本当にいいのかしら。そんな高いものを。」

「案内していただいたお礼だと思って受け取っていただけたら私も嬉しいです。」

実際には自分の頭を冷やしてくれたことへの感謝なのだが、それでも、この人たちにはお礼がしたいと思っていた。

「また後日、先ほど会った大通りで待ち合わせましょう。そこで返事をします。」

ようやく納得した母親と飛んで喜ぶ女の子に連れられて、ヒカルは服屋の前に着いた。

服屋に入ると、親子は簡単に見て回って一着服を買う。そして、何度もお礼を言って大通りへ戻っていった。

ヒカルは見て回ると意外にも種類が多く、メグのために買ってもいいと思う服を探していた。結局お金が足りず服屋を出て、王宮に戻る途中にある教会を目指して歩こうと決めた。

 セルフィーにはさっきのことを謝ろう。そして、王宮に戻ったらメグに帽子のことを聞いてみよう。

すっかり吹っ切れたヒカルは軽快な一歩を踏み出そうとした。

まさに、その時だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ