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友の陰謀

王宮では貴族達による昼食が始まろうとしていた。金に輝くシャンデリアの下、長机には豪華な料理がところせましに並んでいる。貴族達が笑いながら部屋に入って椅子に座り、それぞれが好きな料理を好きなだけよそっていく。

その中、ただ一人、この場には似つかわしくない者がいた。青のマントに体の急所を覆うように付けられた鎧、そして腰にある鞘には見事な剣が収められている。この場では一人だけの黒髪には赤のメッシュがはいっている。料理には手を出さず、じっと入り口の方を見つめるその目には燃え上がる嫉妬の炎が見える。

その男の名はバルト。

勇者パーティーの一人であり、ヒカルとは前世からの付き合いである。


前世のヒカルとは高校のテストの点は毎回拮抗、身長も追い抜かれ、抜き返され、といった互いにとっての超えたい相手、つまりは良きライバルであり、競い合ううちに二人の間には何物にも変え難い友情の芽生えた親友でもあった。高校を卒業する日、二人は同じ交通事故で命を落としてしまう。しかし、二人は同じ時間、同じ場所で第二の人生を迎えることができたのだ。二人は生まれ変わったとき、奇跡だと泣いて喜んだ。だが、そんな関係は長くは続かなかった。

ヒカルは生まれたときから強靭な肉体を持っており、初めて剣を持った次の日には大人を上回る実力を手に入れる程の才能を持って生まれていた。バルトも同年代と比べれば力も強く、才能もあったが、ヒカルは遥かに上回っていた。バルトは悔しがりながらもいつかは追いつけると信じ、自身の鍛錬を怠らなかった。

やがて、二人は住んでいた村から兵士として選ばれ、王国の中心で、貴族直属の兵士となった。その間にもヒカルとバルトの実力の差は埋まらないばかりかさらに離れていた。王国中の誰もがヒカルの力を知ったとき、彼は勇者に選ばれたのだ。さらに差の開いたバルトはヒカルの才を妬むようになっていった。勇者になったばかりの頃はバルトのことを頼れる相棒のように思っていたヒカルも徐々にバルトのことを鬱陶しく思うことが増えていった。

そして今、魔王討伐という業を成し遂げたヒカルの名声は頂点に達している。それが、バルトの押さえ込んでいた最後の自制心を破壊した。ヒカルの持つものを全て自分のものにしたい。そんな欲望がバルトを覆い尽くした。


入り口が音を立てて開き、一人の兵士が礼をして会場に入る。兵士は驚き、どよめく貴族には目もくれず、真っ直ぐにバルトの方へと歩いていく。隣に立つと正面を向いたままのバルトに耳打ちした。

カッと目を見開く。口角を上げ、声を堪えてはいるが、今にも笑い出しそうだ。

兵士は少し青ざめる。

「バルト様…一体何のためにこんなことをする必要があるのですか…?それもあなたのようなお方がわざわざ…。」

「お前が知る必要はない。ただ命令に従っていればいい。そして分かってはいるだろうが今回の件とこれから起こることについてはお前の責任となる。いいな。」

「はっ…。ですが…。」

「どうした?俺への恩を返したいんじゃなかったのか?それとも…、今更逆らうつもりか?」

「とっとんでもありませんバルト様!」

すっかり血の気の引いた顔となった兵士は慌てて礼をすると、足早に会場を去っていった。

改めてバルトは貴族の方に顔を向ける。困惑している貴族院に軽く礼をすると、はっきりとした威厳のある声で話し始めた。

「皆様、今から起こる、とあるサプライズを受けて大きく王国が動きます。しかし、約束しましょう。この私、バルトが祭り事を執り行う際には必ずあなた方をに不利なことが起こらないようにすると。そこで、あなた方にも約束をしていただきたい。この私が"宰相"になれるように援助を惜しまないということを。」

言い終わると同時に深く礼をするバルト。宰相は王の補佐を務める役職である。それになるということは政治の実権をにぎるということでもあった。貴族達はよく分からないが自分達を贔屓してくれるのなら素晴らしいことだと一斉に拍手をする。一人の貴族が笑いながら、

「よろしい、貴殿の願いを聞き入れよう。」

と一同が出した結論をバルトに伝える。

「このバルト。必ず成し遂げて見せます。」

もう一度深く礼をするバルトに大歓声が巻き起こる。

貴族達は空のバルトの皿を見て、自分達のよそった好物を分けていく。

「このご恩に応えられる成果を上げてみせます。」

バルトが再び礼を言うとさらに大きな歓声が起こる。

すっかり信頼した貴族を見て、バルトはほくそ笑む。

(このドリベルト王国の全てのものが俺のものとなる時が来た。)

か弱くなったヒカルの姿を思い浮かべながら、ついにヒカルを超える名声が手に入る喜びを噛み締める。

そして、手に持ったフォークで貴族達から貰った料理を突き刺し、口の中に運んでいった。

一体何が始まるのか。それは悠々と食事をするバルトだけが知っている。

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