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穏やかな日常



「起きてください。ご飯が冷めちゃいますよ。」

重い瞼を持ち上げるとメグが顔を覗き込んでいる。横から差し込む眩しい日差しが目をくらませる。

「…はっ!あれ?俺そのまま日付を超えちゃったのか。」

「あまりにもぐっすり寝るものですから起こすのもかわいそうで。」

ヒカルは何とか体を起こすと杖をメグから貰う。

「昨日の夜何も食べてないからお腹空いてますよね?もっと作ってきましょうか?」

「…いいよ、この身体はちょっと食べただけでお腹いっぱいになれるし。」

まだ半分寝ながら椅子に座るとまだ湯気の出ているスープや昨日の夕食の残りをゆっくり食べ始める。時々こっくりこっくり寝かかっている。

メグは珍しく寝ぼけているヒカルを見て何かを思いつく。

「ちょっと失礼しますよー。」

後ろに回り込むとヒカルの髪をいじり出した。


「メグー!この水どこに捨てればいい?」

バケツを持ったシータが家に入る。ヒカルを目で捉えるなり吹き出してしまう。

「ん…。どうした…?」

少しだけ目が覚めてきたヒカルはシータの反応に気がついて聞いてみる。

「いや…。似合ってるわよ。その髪型。」

「髪型?」

不意に頭の左右に違和感を覚える。朝食も食べ終わったので鏡まで歩いて頭を見てみる。

見事なツインテールが鏡に映っていた。

今のヒカルの顔はただでさえ童顔なのにさらに歳が下に見えてしまう。

「メグ!お前の仕業だな!」

「いやー、一回してみたかったんですよね。似合ってますよね?」

もう一度鏡と睨み合う。

愛くるしさが増したこの姿を見ると空気が途端に和やかに感じ出す。

それが自分じゃなければどれだけ良かったことか。

「可愛いとは思うけど…。なんか複雑なんだよな。」

その反応が面白かったのかシータがまた吹き出す。

構うのも面倒なのでさっさと髪型を元に戻していく。

(髪型ひとつでここまで印象が変わるものなのか…。)

ふと関心に近い思いが浮かぶ。

(変装…。)

はっと現実に戻る。

急いで元の髪型に戻す。まだあの件については考えたくない。

メグがいつも通り畑に行く準備をしているのをみてヒカルもいつもの場所へ向かう準備を始めた。



切り株に座っていつもの作業の続きを始める。

作られたドレスの型に綺麗なレースを丁寧に縫い付けていく。

(もう完成も間近だな。)

思えばこれを作り始めてから一ヶ月が経とうとしている。

それだけの期間ここに住んでいたということだ。


「あっメグ!ここも芽が出てきてるわよ。」

「やったあ!確かここに植えたのは…。」

遠くから二人の喜ぶ声が聞こえてきた。

メグが手探りで始めた家庭菜園も上手くいっているようだ。

「ヒカル様も見ませんかー!」

メグが手を振って呼んでいる。

切り株に手に持っていた裁縫道具を置いて畑に向かう。

「ほら!ここです!」

メグの足元には小さな芽が出てきていた。横に立てられている小さな看板には「きゅうり」と書かれている。

この世界は年中温暖ではあるが日本の四季のように多少の温度の変化が一年を通して起きている。

そのため野菜も元の世界にもあったものが多い。そもそも知らない作物はヒカルでも育て方がわからないので畑に植えていない。

「もう少し育ったら支柱を立てないとな。」

「えっ?きゅうりって地面の下にできるやつですよね?」

メグの驚きの言葉にヒカルとシータは「はあ?!」と同時に反応にしてしまう。

二人の反応を見て首を傾げるとメグは自身の発言を振り返る。

すると、みるみる頬が赤く染まっていく。

「えーと…。さつまいもと間違えてました…。」

照れ臭そうに笑ってメグが話す。

すぐ横にさつまいもの苗が植えてあり、そのせいで混乱していたようだ。

三人は畑の真ん中で腹が痛くなるまで笑ってしまう。

少し前までは荒れ果てて静かだった畑は確実に元のように戻り始めていた。



「ヒカル様ー!流石に今日は夕食を食べてください!」

シータと世間話をしていたヒカルの目の前に野菜や肉がいっぱいに入った大きな鍋が置かれた。

「おっ!今日はすき焼きか。もちろん食べるよ。」

「すき焼き?初めて聞く料理なんだけど。」

シータが目の前の鍋を不思議そうに見つめる。

「卵をうつわに割って、野菜や肉を漬けて食べるんです。」

「へえ、聞いただけじゃ味の想像ができないわね。」

「ヒカル様が教えてくれたので間違いなく美味しいはずです。」

メグは自信たっぷりに胸を張る。

「じゃあ私から…。」

シータが早速卵を割って、肉を口に運ぶ。

「…!」

口に入れた瞬間、目がかっと見開いた。

そのまま箸が鍋の方へ動き出していく。

「ヒカル様!私たちも食べ始めないとあっという間に無くなっちゃいそうですよ!」

無言で口に運び続けるシータを見て慌てて二人は席に着く。

そして、急いで自分たちの分を取り分けた。

取り分け終わる頃に、半分ほど食べ終えたシータがやっと口を開いた。

「美味しすぎ…。危うく全部食べちゃうところだったわ。」

「そんなに美味しかったならよかったです。ちなみに、まだ鍋に残ってるの食べてもいいですけど…。」

「えっ本当!」

もう一つ卵を割り出したシータを見て二人は流石に唖然としてしまった。

「私達も食べましょうか。」

メグがありれながらもヒカルに話しかける。

やっと二人は卵を器に割って入れることができた。



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