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届かない祝福

突然、窓の外から歓声が聞こえ出した。窓を開けると楽器が鳴る音や人々の笑い声まで聞こえてくる。今いる部屋からは外壁に遮られて街の様子がうまく見えない。

「外で何をしているんだ?まだ朝だぞ?」

メグに聞くと、待っていたかのように輝かせた目でヒカルを凝視した。

「よくぞ気がつきました!さあ、何をしているかは上の階なら分かります!一緒に見に行きませんか?」

あまりに大きな声に、流石に後ずさる。反応からなんとなく外で起きていることが予想できた。

「まあ、じゃあ行こうか…。」

言い終わらないうちにメグが手を引っ張る。「行きますよ勇者様!」と子供のようにはしゃいでいる。力はメグの方が強いのもありヒカルは引きずられるように部屋の外に出される。周りを見渡すと、見慣れた王宮の廊下のランプ、絵画、扉…全てが自分よりも高い位置にある。周りの物の圧に背筋がひやっとする。

 メグが引っ張ってくれなかったら立ちすくんでいたかもしれない。

メグのパッションの強さに少し感謝をする。そしてメグの成長を知り、少し感慨深くなっていた。


メグは三年前、戦争孤児だった頃にヒカルが引き取り、従者となっていた。メグは獣人という人間の中でも希少な種族だ。そのため頭の上には目立たないがクマのような耳が生えている。引き取った頃は身長も低く、失敗するたびに泣いていたものだが、三年間の家事スキルゼロのヒカルと付き合ううちに、獣人である影響か身長は一気に伸び、どんなことでもめげない強かさを身につけていった。家事もあまり家にいないヒカルのために磨いた。しかし、最近のヒカルは「美人の従者が欲しい」「俺の言うことを聞け」とメグへの扱いが雑になってきていた。魔王の討伐が近づき、もっと贅沢な暮らしを求めていたからだ。それでもメグはヒカルを信じ、今この瞬間までついてきていた。


力強いメグの足取りに必死について行くヒカル。二人は広い宮殿の二階までたどり着いた。まだ貴族は寝ているのかここまでは誰も廊下には出ていない。すると二階では一人の男が分厚い本を読んで立っていた。ぼさぼさの髪と正装ではあるものの汚れた服、貴族ではなさそうだった。メグも特に面識があるわけではないようで横を素通りする。

「ンー?君たち?いや特にそこのお嬢ちゃん。チョーッと止まってくれないか?」

不意に声がかかり驚きから二人は足を止める。言葉には独特のアクセントが付いている。もうこの時点でかなり怪しいおじさん状態だが、その次に出た言葉はさらに不審者感を強めた。

「お嬢ちゃん、ちょっと私についてきてくれないかネ!」

メグの警戒心が最高潮に達したようで、

「はっ速く逃げますよ勇者様!」

とヒカルを引っ張る。一瞬だけその男の目が見開いた気がしたがメグに連れられて走り出したためにその表情の裏を読み取ることはできなかった。その男は追う気はないようでその場から動かなかった。角を曲がり、二人の姿が見えなくなると、顎に手を置き考え事を始める。

少女から感じた異様な気配、メグが少女に向けて放った「勇者」という言葉。この二つが意味することを男は頭の中で組み立てる。そして、出された結論を消し、もう一度結論を組み立てる。何回もそれを行う。しかし、同じ結論しか出てこない。にわかには信じがたい、それでも確信した結論に口角を釣り上げ声を上げて笑う。

「そうか!そうか!これはおもしろい!ついに私の()()が日の目を浴びるネ!」

興奮した声で叫ぶと、二人とは逆の方向へ走り出す。

その男の名は"王国の狂気"ローゼン

気でも狂ったかのような言動と行動を繰り返す姿とは裏腹に類い稀なる頭脳を駆使し、地方を発展させてきた。その才が貴族の目につき、今では貴族に雇われ笑い者にされていた。また、街ではその給料を使って何かを企んでいるのではという悪い噂が絶えなかった。

その後、この研究は世界の根本から揺るがす発見をすることとなるのだが、それはまた別のお話。今回の出来事はヒカルの中の関わりたくないリストにあの不審者を入れたぐらいの変化でしかなかった。

二人は二階に広がる庭園に来ていた。宮殿の外壁よりも高い位置にあるため、街が一望できる。ヒカルの目には道いっぱいに埋め尽くす人々の姿が飛び込んできた。ある者は勇者を讃える歌を歌い、ある者は大声を上げて勝利を噛み締めている。道の真ん中には巨大な勇者の銅像が建てらている。銅像の勇者は剣を天に掲げた勇ましい姿をしていた。

「戦争に勝利した記念にってほとんどの人がこうやって騒いでるの。これでも三日前よりは減ったんですよ。」

メグが簡単に教えてくれる。

ヒカルは一際大きな歓声が上がっている場所があることに気がつく。

「あそこには何がある?」

メグはヒカルが指を刺した方向を見る。

「多分、勇者様のお仲間たちがあそこにいるんだと思います。あっほら今見えましたよ!」

ちょうど上から見える位置に人だかりが移動してきた。その真ん中には祝福を受ける三人の仲間の姿があった。三人を見た瞬間、ヒカルの心の中に嫉妬という名の感情が溢れ出す。

もしあの場に俺がいたら…

自分が夢見た光景を仲間が横取りしているように思えた。いや、仲間であるということすら形だけだと思っているのかもしれない。

一番強い俺が讃えられるべきだ。

そんな思いをか弱い少女は宮殿の上で抱いていた。

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