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ヒカルを求めて

「バルト様!そう言っていただけて私は幸せものでございます!」

「そうか、もっと昇進するといい。」

バルトと会話していた貴族が嬉しそうに王宮の廊下を歩いていく。手を振って見送るバルトは小さな箱を抱えていた。

部屋に戻り、箱を開ける。すると、黄金の輝きが中から漏れ出す。バルトはニヤニヤとした口元をを隠すために手で口を覆う。

(ああ、なんていい気分なんだ!誰も俺に逆らうことができずに媚びへつらうことしかできない!)

邪魔だったヒカルも消え、国王ドルダムはもう力を持っていない。貴族は今の地位を守るのに必死で賄賂を山のように送ってくる。まさにバルトの天下だった。


箱に詰まった金塊を数えていると、誰かが扉を叩いた。

「入れ。」

急いで引き出しにしまうと、扉越しに声を掛ける。

「失礼するわよ、バルト。」

静かに開いた扉の先にはシータが立っていた。目の前にいるのは王国の中で一番の権力者なはずだが全く臆せずにまっすぐバルトの前へ歩いていく。

「バルト、この前頼んだことなんだけど…。」

「今は忙しいんだ。後にしてくれ。」

面倒そうに頭をかきながら言葉を遮る。しかし、その程度でシータは止まらない。

「兵士への待遇改善、質の向上、何一つ進んでないみたいだけど、どういうつもりなの?」

「その件よりも先にするべきことがあるんだ。今日のところはこれ以上言うことはできない。」

「ふーん。そんなに貴族に媚を売りたいんだ。」

シータの容赦のない言葉にバルトは少し苛立を覚える。腰の剣にはいつでも手をかけられるように構えをとる。

「知ってるんだからね、バルトが国民の税率を上げて得たお金はほとんど貴族の懐に入ってるってこと。どうせ貴族の待遇を良くしてあげるから宰相にしてってお願いしたってところかしら。でも一人一人の貴族の力が強くなったから権力争いはさらに激化。結局バルトは賄賂かなんかで利益を得ることができるってわけね。」

「くだらん。ただの妄想に過ぎん。」

「ねえ、バルト。なんでそんなに変わってしまったの?三年前はあんなに…。」

瞬きする間もなくシータの首に剣が押し当てられる。ひんやりとした鉄の感触がバルトの殺意を表していた。

唇を噛み、後ろへ引き下がる。

「帰れ。兵士のことはまた考えておこう。」

「…わかったわ。」

断ればどうなるかは目に見えている。シータからはもう言えることは何もない。

扉を開けて廊下へ出ようとする。すると、一度後ろを振り返って悲しげな顔でバルトに話しかける。

「バルト…あんたは本当にそれでいいの?」

バルトが言い返す間もなく扉は閉まった。ちっ!と舌打ちをすると、椅子に勢いよく腰掛ける。

「これでいいに決まってるだろ。俺の望んだものが全て手に入る!これ以上何が…。」

一瞬脳裏に元のヒカルの顔が思い浮かぶ。

誰よりも強く、誰よりも優しかった三年前のヒカル。

(俺はただ…。)

バシン!と頬を叩きそれより先の言葉をかき消す。

イライラが消えないバルトは戸棚から度数の高い酒を取り出すと、勢いよく飲み干した。


シータは一人寂しく王宮の外へ来ていた。そこには兵士たちの訓練場がある。

「今夜飲みに行こうぜ!」「だめだ。金がねえ。」「最近は何もかも値段が上がりやがって。」

おおよそ訓練中とは思えない雑談が耳に入る。シータはバルトに合う前に兵士たちに帰ってくるまで訓練をしておけと話しておいたはずだ。

覗いてみると、誰一人として訓練用の広場にいない。どうやら塀の影で涼んでいるようだ。

「…やっぱりダメね。私。」

一度変わってしまったものはなかなか変わらないことを痛感する。その現実はシータの努力は全て無駄だと言われているように錯覚してしまう。

「もう…疲れたよぉ。」

助けが欲しい。でも…もう頼れる人は…。

「ヒカル…。あなたしか…。」


一週間分の食料と消耗品を乗せた馬車が王宮から出発する。行き先はロズウェードだ。

「はぁ…。給料はいいが…いかんせん時間がかかる。」

ヒカルとメグを送った御者はぼやきながら馬に鞭を振るう。

「その馬車ちょっと待ったぁ!」

突然後方から大声で呼ぶ声がした。

(女の声?!何事だ?)

振り返えると走って馬車を追いかけてきたシータの姿があった。あっという間に御者の隣にまで追いついてしまう。

「な…なんだいお前さんは?」

「私はシータ。階級は軍曹。悪いけど乗せてもらうわよ。」

「はあ?!何を言って…。」

「緊急事態なの。理由は聞かないでちょうだい。」

止める間もなく乗り込んでしまう。一応軍曹である証拠として自身の身分証を提示している。

(なんなんだ一体?!)

これ以上は何も言わないシータに腹を立てる。だが今戻るのも面倒だ。諦めて再び馬を前へ走らせる。

深く詮索してこなかった御者に感謝しながらシータはまっすぐ伸びる道を見据える。

(きっとヒカルならなんとかしてくれる。)

強い期待を胸に抱くと、七日間の長旅に備えて体を横にした。


シータが王都を出たこの日、ヒカルとメグを魔族が襲う。魔族による被害はすでに甚大なものとなっていた。しかし、王宮の貴族とバルトは魔族による被害も、シータのこともまったく気づくことはなかった。

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