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新天地での一日目

暖かい木漏れ日がヒカルの顔を照らす。その横では横になっているメグが暇そうにあくびをしている。

山の上へ延びている道はほとんど手入れされていないのか草や小石が転がっている。それが車輪に当たるたびに体が浮き上がる。もうずいぶんと標高の高いところに来ているように感じる。

突然馬の足が止まり、その場で足踏みを始めた。何事かと前を見ると木々の生えていない小さな広場のような場所がある。そこには一軒のログハウスが建っていた。

「着いたぞ。」

御者が馬車から降りてヒカルに伝える。

「着いたよ、メグ。起きて。」

気持ちよさそうに寝息を立てているメグのお腹をさする。

「ふあっ?!えっ?着いたの?」

眼をこすりながら起き上がると周りを見渡す。

「やっと着いた…。何日ぐらいかかりました?!もう覚えてないんですけど!」

「だいたい出発してから七日ぐらいだよ。大したことない。」

「七日?!大したことあるじゃないですか!」

メグの時間感覚に首を傾げるヒカル。

魔族と戦争していた頃、最前線に向かうのにもっと時間がかかったこともある。同じ姿勢で長時間馬車に乗り続けるのは慣れていた。

「うーん…。体の節々からぼきぼきと音が聞こえます。」

馬車から飛び降りたメグは体を伸ばし始める。ヒカルも降りようとするが、杖が座席に引っかかってしまい、足を踏み外す。

「きゃっ!」

「あっ危ない!ヒカル様!」

スライディングしたメグが間一髪で受け止める。

「大丈夫ですか?!怪我は?!」

「…何ともないよ。助けてくれてありがとう。」

「いえ、ヒカル様のことを見てなかった私の責任です。申し訳ございません。」

「…きっ気にしなくていいよ。あはは…。」

ヒカルはさっき自分の口から出た悲鳴があまりにも高音すぎて恥ずかしく、メグに顔を向けられない。

(いっ今の俺の声?こんな高音、元の世界ですら出したことないんだけど?!)

ため息を吐きながらメグの手を取って立ち上がる。

気を取り直してこれから二人が暮らす新居の前まで歩いていく。目の前で見上げると思っていたよりも大きい。二階までありそうな見事なログハウスだ。

「ずいぶん前にここから退去した人が最後で、今は誰もロズウェードに住んでいないみたい。」

馬車に乗っている最中に御者と話した内容をメグに伝える。

扉を開けようとすると引っかかっているのか動かない。メグが力を入れるとようやく開く。開いた瞬間、中から埃が出てきて二人とも思わず咳き込む。

「うへぇ。これ全部掃除するのは骨が折れますよ。」

天井には蜘蛛の巣が貼られ、窓も汚れているためか全体的に薄暗い。確認したところ、前に住んでいた人が使っていたであろうダイニングテーブルと椅子が一階に、ベッドが一階と二階にあった。外には壊れかけの農具が散乱している。

次に、馬車の方に戻って荷物を運び込む。

持ってきた荷物は衣服や食器、証明用のキャンドル、しばらくの間の食料などだ。食料は馬車で定期的に届けてもらえるように王国が手配していた。

メグが荷物を運んでいる間に御者と次の食料の輸送について相談する。念入りに話し込んでいると、話している間にすっかり夕方になってしまっていることに気がついた。慌ててログハウスに戻るとメグは掃除をある程度終わらせて休憩していた。

「あっ、ヒカル様も帰ってきましたしそろそろ夕食を作りますね。」

荷物から食料を取り出すと外の炊事場に出ていこうとする。

その姿を見ると、突然心がざわつく。

「あっ!」

「ん?どうかしましたか?」

反射的にメグの服の裾を掴んでしまった。慌てて手を離す。

「なっ何でもないよ!」

メグはヒカルの様子を見て明るく声を掛ける。

「すぐに戻ってきますので!」

その言葉になぜかざわつきが治る。

外へ行くメグの背中を見送ると今のうちに床板や壁の点検を始める。目視では丸太が腐っているところは見当たらない。よほどのことがない限り床が抜けたり壁に穴が空いたりすることはないだろう。予想していたよりも住みやすそうな家だ。

「今日からよろしくな。」

壁に手をつけながら小声で新居への挨拶をした。


和やかに夕食と風呂を終え、一日の終わりが近づく。

「私は残ってる家事を終えたら寝ますね。ベッドは下のを使ってください。」

「分かった。おやすみ、メグ。」

ぼろぼろの布団をかぶって横になる。その様子を確認したメグは炊事場で食器を片付けていく。

食器を洗おうとすると、手にかかった水が夜風に吹かれる。あまりの寒さに身体中の鳥肌が立つ。

「ふう、終わった…。」

何とか洗い終えると急いで家に入ろうとする。扉を開けると、微かにヒカルの話し声が聞こえる。鼻水を啜る音も聞こえてきた。

「痛い…。いやだ…やめて…。ううっ…。」

足を抑えている。なにか悪夢を見ているようだ。ゆっくりとヒカルに近づいて、寝ている隣に座る。シーツはすっかり涙で汚れてしまっている。

「ヒカル様…。大丈夫ですよ。今は私がついています。だから安心して…。」

頭を撫でながらあの日のことを思い出す。

医務室に運ばれてきたヒカルの姿を見た日のことを。


ヒカルの足には乱雑に包帯が巻かれ、医者が慌てて指示を飛ばしている。

息絶え絶えなヒカルが自分に向かって手を伸ばす。どうしていいのかわからず、ただ立って見ていることしかできない。


(ヒカル様…。もうこれ以上あなたの笑顔を奪わせない。あなたが私を笑顔にさせたように、あなたの笑顔は私が守る。)

メグは強く、震える小さな手を握る。安心したのか、やがて泣き声は安らかな寝息へと変わっていった。

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