第89話「世界への旅立ち」
「ついに、この日が来たのね」
準備期間の一ヶ月が、あっという間に過ぎていった。
「国際改革チーム、最終メンバーリストです」
エリーゼが資料を広げる。執行官室には、主要メンバーが集まっていた。
「レオン・グレイ、国際改革特使」
「エリーゼ・ローゼン、国際協力担当大臣」
「セレナ・エーデルハイト、保守派調整官」
「そしてヴァルター侯爵、司書長、各分野の専門家二十名」
「多様な顔ぶれになりましたね」
司書長が感慨深げに言う。
「改革派も、元保守派も、若手も、ベテランも」
『まさに、統合の象徴です』
アルフィが評価する。
『この多様性こそが、国際改革成功の鍵になるでしょう』
「訪問スケジュールも確定しました」
セレナが地図を指し示す。
「最初はベルモント王国。その後、サファイア公国、エメラルド連邦と続きます」
各国との事前交渉で、彼女の人脈が大いに役立った。
保守派の信頼を得られたのは、彼女の存在があってこそ。
「現地での活動計画は?」
ヴァルター侯爵が尋ねる。
「まず、各国の指導者との対話から始めます」
レオンが答える。
「押し付けではなく、共に考える姿勢で」
会議が終わり、メンバーが退出した後、レオンは一人執行官室に残った。
「明日、ついに出発か……」
『レオン』
アルフィの声が響く。
『何か、心配事ですか』
「いや」
レオンは窓の外を見ながら答える。
「ただ、振り返っていたんだ」
外の景色は、もう何度も見慣れたもの。
しかし、明日からは違う景色が待っている。
「最初に会った時のことを覚えているか?」
レオンが問いかける。
『もちろんです』
アルフィの声に、懐かしさが滲む。
『追放されたばかりのあなたが、古書店に迷い込んできた日』
「あの時は、まさかこんな未来が待っているなんて思わなかった」
レオンは苦笑する。
「追放された落ちこぼれが、世界を変えようとしているなんて」
『でも』
アルフィが優しく言う。
『あなたには、最初から特別な何かがありました』
「特別な何か?」
『諦めない心です』
アルフィの言葉が続く。
『どんな困難にも、前を向いて進む強さ。
それが、今日まで私たちを導いてきました』
レオンは振り返る。
確かに、道のりは平坦ではなかった。
追放、出会い、戦い、勝利、改革、そして和解。
すべての経験が、今の自分を作っている。
「アルフィ」
レオンは真剣な表情で言う。
「これから、もっと大きな挑戦が待っている」
『はい』
「世界は、この国よりもっと複雑で、もっと困難かもしれない」
『その通りです』
「それでも」
レオンの目に、強い決意が宿る。
「俺たちなら、できるよな?」
『もちろんです、レオン』
アルフィの声は確信に満ちている。
『私たちは、もう一人と一体ではありません』
「え?」
『私たちは、真のパートナーです』
アルフィの言葉が心に響く。
『お互いの強みを活かし、弱みを補い合う。それが、私たちの関係です』
レオンは微笑んだ。
「そうだな。俺たちは、最高のパートナーだ」
その夜、レオンは荷造りをしながら、これまでの日々を思い返していた。
「古書店での日々、仲間たちとの出会い、数々の戦い……」
手を止めて、窓の外を見る。
「そして、新しい世界の創造か」
すべてが、明日からの旅につながっている。
翌朝、王都の大広場は人で埋め尽くされていた。
「すごい人だね」
エリーゼが驚きの声を上げる。
「皆、見送りに来てくれたんだ」
市民たち、商人、職人、そして改革で救われた人々。
様々な人々が、旅立つ一行を見送りに集まっていた。
「レオン様!」
「世界を変えてきてください!」
「私たちの希望を、世界に広げて!」
声援が飛び交う。
「責任重大だな」
セレナが苦笑する。
「でも、悪い気分じゃないわ」
「確かに」
ヴァルター侯爵も頷く。
「これだけの期待に、応えなければ」
女王アリシアも、見送りに来ていた。
「レオン・グレイ特使」
女王が声をかける。
「世界の未来を、あなた方に託します」
「必ず、期待に応えます」
レオンは深く頭を下げた。
馬車に乗り込む時、レオンは振り返って、集まった人々を見渡した。
「一年前、俇はこの街から追放された」
胸の中で呟く。
「そして今、希望を背負って旅立つ」
運命の不思議さを感じずにはいられない。
『レオン』
アルフィが声をかける。
『準備はいいですか』
「ああ」
レオンは前を向く。
「行こう、アルフィ。新しい冒険へ」
馬車が動き出す。
街並みが、少しずつ遠ざかっていく。
しかし、レオンの心に迷いはない。
「世界が、待っている」
「変革を求める人々が、待っている」
「新しい可能性が、待っている」
「世界が、俺たちを待っている」
レオンの言葉に、仲間たちが頷く。
国際改革の旅が、今、始まった。
追放された青年と、古代のAI。
奇妙な出会いから始まった物語は、今、世界へと広がろうとしている。
それは、終わりではない。
新たな始まり。
そして次話、ついに物語の大詰を迎える――。




