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第57話「魔獣の進化」

 警報音が王都全体に響き渡った。


 古代魔獣が再び地上に現れたのだ。しかし、今度は前回とは全く異なる姿だった。


 「これは……まさか」


 レオン・グレイは王都中央広場を見下ろしながら、戦慄していた。


 古代魔獣の身体構造が完全に変化している。以前の龍のような形状から、より複雑で適応的な形態に進化していた。


 「学習・進化能力が本格発現しています」


 アルフィの投影像が、緊迫した声で報告する。


 「魔獣の魔力出力パターンは前回の1.7倍、防御結界の密度は2.3倍に向上しています」


 ギルド本部の作戦司令室では、完全な混乱が支配していた。


 「第一隊、接触を試みろ! 」


 ベルナルド・カスケード部長の命令が飛ぶ。


 しかし――


 「だめです! 魔獣の周囲に近づくことすらできません! 」


 現場からの報告が、絶望的な状況を伝える。


 前回は物理的・魔法的攻撃の無効化だけだった魔獣が、今度は『接近阻止領域』まで展開していた。


 「第二隊も撤退! 」


 「第三隊、全滅です! 」


 次々と届く惨報に、司令室内の士気が急降下する。


 「どうして……前回の戦術が全く通用しない」


 カスケード部長が頭を抱える。


 その時、レオンたちが司令室に駆け込んできた。


 「状況を報告してください」セレナが息を切らしながら言う。


 「最悪だ」技術部の職員が答える。「魔獣は前回の戦闘データをすべて学習し、完全な対策を立てている」


 魔法スクリーンに映る魔獣の姿は、まさに『進化』そのものだった。


 人類の戦術を学習し、それに対する完璧な防御システムを構築している。


 「これが、真の学習型魔獣の能力か」マルクスが呟く。


 「前例のない進化速度です」アルフィが分析を続ける。「魔獣は単に強くなっただけではありません。『賢く』なっています」


 「どういうこと? 」リリアが尋ねる。


 「戦術的思考能力が飛躍的に向上しています。人類の行動パターンを予測し、先回りして対策を講じています」


 レオンは魔法スクリーンの映像を凝視する。


 魔獣の瞳に宿る知性の光が、前回よりも遥かに鋭い。まるで、人類の戦略を冷静に分析しているかのようだ。


 「ギルド正規軍の戦術では、もう太刀打ちできない」


 「撤退命令を出すべきです」エリーゼが進言する。


 「しかし……」カスケード部長が躊躇する。


 その時、魔獣が新たな行動を開始した。


 今度は破壊ではなく、『建設』だった。


 魔獣の触手が空中に複雑な魔法陣を描き始める。それは人類の魔法理論を遥かに超えた、高度な術式だった。


 「何をしているんだ? 」


 「分析中です……」アルフィが高速計算を行う。「これは……『空間改造魔法』です」


 「空間改造? 」


 「王都の地形そのものを変更しようとしています。より効率的な『試験場』を作るために」


 レオンの血が凍りつく。


 魔獣は単に進化しただけではない。試験の内容そのものを変更しようとしている。


 「つまり、ルールが変わったということか」


 「はい。もはや従来の戦闘ではありません。魔獣は人類に、より高度な『知恵』を要求しています」


 司令室に重い沈黙が落ちる。


 既存の戦術、既存の思考、既存のシステム――すべてが無力化された状況で、人類は新たな答えを見つけなければならない。


 「セレナ、君の理論的アプローチでも……? 」カイル・ウィンザーが尋ねる。


 「限界があります」セレナが率直に認める。「魔獣の進化速度に、理論構築が追いつきません」


 「では、どうすれば……」


 レオンが立ち上がる。


 「新しい道を見つけるしかない」


 彼の瞳に、決意の光が宿る。


 「前例のない状況には、前例のない解決法が必要だ」


 「具体的には? 」マルクスが問う。


 「まだ分からない」レオンが正直に答える。「でも、俺たちには『創造性』がある」


 第56話で確信した人間の直感の価値。それを、更に発展させる必要があった。


 「魔獣は学習と進化で対応してくる。なら、俺たちは『想像』で対抗する」


 「想像……? 」


 「データや経験に基づかない、純粋な創造的発想だ」


 アルフィの投影像が興味深そうに反応する。


 「レオン、それは論理的思考とは正反対のアプローチですね」


 「そうだ。だからこそ、魔獣には予測できない」


 レオンは仲間たちを見回す。


 「みんなの専門知識を、今までにない形で組み合わせる。常識を捨てて、新しい可能性を探る」


 セレナが眉を寄せる。


 「でも、そんな不確実な方法で……」


 「確実な方法は、もう存在しない」レオンが断言する。「魔獣がすべて学習してしまったから」


 その時、魔獣の空間改造魔法が完成した。


 王都中央広場が、まるで巨大な競技場のような構造に変化している。明らかに、何かの『試合』を想定した設計だった。


 「魔獣が俺たちを呼んでいる」レオンが直感で理解する。


 「新しいルールでの、新しい試験に」


 「危険すぎる」カスケード部長が反対する。「進化した魔獣に、どう立ち向かうというんだ」


 「立ち向かうんじゃない」レオンが微笑む。「理解するんだ」


 第55話で学んだ古代の教訓。知識の解放こそが、真の力となる。


 「魔獣は敵じゃない。教師だ。俺たちの創造性を試すための」


 アルフィが賛同する。


 「レオンの推論は興味深いです。魔獣の行動パターンを分析すると、確かに『教育的』な要素が強い」


 「では、どうやって応えるんだ? 」エリーゼが実用的な問題を提起する。


 「まず、チーム全体で創造的思考を実践する」レオンが計画を説明する。


 「既存の専門分野の境界を取り払い、全く新しいアプローチを開発する」


 「具体的には? 」


 「アルフィの計算能力、セレナの理論知識、マルクスの技術力、リリアの魔法感覚、エリーゼの交渉術――これらを、今までにない形で融合させる」


 レオンの提案に、全員が真剣に耳を傾ける。


 「前例がないからこそ、魔獣には予測できない」


 「でも、失敗のリスクも……」セレナが心配する。


 「失敗を恐れていては、創造性は生まれない」レオンが力強く答える。


 「俺たちは人間だ。完璧じゃないからこそ、無限の可能性を持っている」


 カイルが決断を下す。


 「レオン・グレイの提案を支持する。創造性に賭けてみよう」


 「ありがとうございます」


 レオンは深く息を吸う。


 進化し続ける魔獣に対して、人類が持つ唯一の優位性――それは『創造する力』だった。


 「行こう、みんな」


 「新しい道を創るために」


 既存の枠組みを超えて、人類の真の可能性を示す時が来た。


 進化する魔獣vs創造する人類。


 前例のない戦いが、今、始まろうとしていた。


                   ※


 王都の新しい競技場で、古代魔獣が待っている。


 学習と進化を続ける存在に対して、人類はどんな答えを示すのか。


 創造性の真価が問われる、最後の試験。


 その結果は、人類の未来を決定するだろう。

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