表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/90

第5話「今後への布石」

 「レオン・グレイ、お前を殺すつもりだった」


 突然の告白に、俺は手にしていた新しいギルドカードを落としそうになった。目の前に立つ男――茶色の髪と人懐っこい笑顔の青年は、今は苦い表情を浮かべている。


 「一週間前、お前が実技試験で圧倒的な力を見せた時、俺は本気でお前を消そうと考えた。男のくせに、俺より優秀だなんて許せなかった」


 王立魔術師ギルドの地下執務室。俺の復帰初日に、いきなり殺意の告白とは。


 「でも、今は違う」


 男が続ける。


 「俺はマルクス・ヴァイス。お前と同じように、今の腐ったシステムに苦しんでいる男だ」


 『警戒は必要ですが、敵意は感じません』


 アルフィの分析が頭に響く。俺は慎重に口を開いた。


 「なぜ、考えを変えた?」


 「お前の実技を見て理解したんだ」


 マルクスが拳を握る。


 「問題は男とか女とかじゃない。実力が正当に評価されないシステムそのものが狂ってる」

 

 「証明してみせてくれ」 


 マルクスが突然、魔法陣を展開した。青い魔力が部屋に充満する。


 「俺の術式の欠陥を見抜けるか? お前が本当に優秀なら、できるはずだ」


 挑戦的な笑み。しかし、その裏には切実な期待が隠れている。


 俺は集中した。マルクスの魔力の流れを観察する。第一層、第二層……そして第三層で、俺は違和感を感じた。


 「第三層で無駄な循環が起きている」


 俺は指摘した。


 「右手を3センチ下げて、魔力供給を0.8倍に」


 マルクスが半信半疑で調整する。その瞬間――


 「すげぇ!」


 魔法陣が劇的に変化した。効率が40%も向上している。マルクスの目が輝いた。


 「本物だ……お前は本物の天才だ」


 「いや、ただ観察しただけで――」


 「謙遜はいらない」


 マルクスが俺の肩を掴む。


 「俺は一般出身だから、どんなに頑張っても上層部には上がれない。でも、お前となら……」


 彼の声が震えている。長年の悔しさと、新たな希望が入り混じっていた。

 

 その時、執務室の扉が勢いよく開いた。エリーゼが血相を変えて飛び込んでくる。


 「レオン! マルクス! 大変なことが――」


 彼女の顔は真っ青だった。いつもの冷静さが完全に失われている。


 「落ち着いて」


 俺が声をかける。


 「何があった?」


 「リ、リリアが……」


 エリーゼが震える声で言った。


 「リリア・シュタインが襲われた」


 「なんだって!?」


 マルクスが立ち上がる。


 エリーゼが息を整えながら説明する。


 「さっき、研究棟の廊下で血まみれで倒れているのが発見されました……まだ意識がありません」


 『緊急事態です』


 アルフィが警告する。


 『組織的な攻撃の可能性があります』


 「誰がやった?」


 俺は拳を握りしめた。


 「分からない。でも……」


 エリーゼが震える手で紙片を差し出した。


 「リリアの側にこれが」


 血文字で書かれたメッセージ。


 『男と組む裏切り者に死を』


 マルクスの顔が青ざめる。


 「俺たちを狙ってるのか……?」


 「私の家族が激怒している」


 エリーゼが苦しそうに言った。


 「『ローゼン家の娘が追放された男と手を組むなど言語道断』だって。でも、まさかここまでするなんて……」

 

 彼女は一瞬言葉を切った。

 

 「でも、父は知らないのです。300年前の『魔導女王エリザベスの大改革』の真実を」

 

 「真実?」

 

 「表向きは男性貴族の横暴に対する正義の革命とされていますが……実際は、女性貴族たちが権力を奪うために仕組んだクーデターだったという説があります。私は古い文献を調べて、その証拠を見つけました」

 

 俺は、エリーゼの立場の難しさを改めて実感した。

 

 「もし、ご家族との関係に支障が出るなら……」

 

 「いえ」


 エリーゼが振り返る。


 「私は自分の信念を曲げるつもりはありません。たとえ家族と対立することになっても」

 

 彼女の瞳に、強い決意の光が宿っている。

 

 「ただ、このことで皆さんにご迷惑をおかけするかもしれません。父は政治的影響力を使って、私たちの活動を妨害しようとするでしょう」

 

 彼女は苦笑いを浮かべた。

 

 「皮肉なものです。300年前の女性たちが権力を得るために作り上げたシステムが、今では真の改革を阻む最大の障壁になっている」

 

 『興味深い歴史的視点です。権力構造は時代とともに硬直化し、本来の目的を見失うものです』

 

 アルフィの分析が頭に響く。

 

 「それでも、やるしかない」


 俺は断言した。


 「俺たちが諦めたら、何も変わらない。困難があっても、前に進み続けるしかないんです」

 

 エリーゼが微笑む。


 「ありがとうございます。心強いです」

 

 執務室に戻った俺たちは、重い沈黙に包まれていた。


 「奴らは本気だ」


 マルクスが拳を握る。

 

「見せしめにリリアを……」


 「でも、ここで退いたら彼らの思う壺です」


 エリーゼが唇を噛む。


 『警戒レベルを最大に引き上げます』


 アルフィが警告する。


 『次は確実に殺しに来るでしょう』


 俺は窓の外を見た。平和に見える王都の風景。しかし、その裏では既に血なまぐさい戦いが始まっている。

 

 力を手に入れる代償……それは仲間を危険に晒すことなのか?

 

 いや、違う。俺が力を持たなければ、彼らはもっと虐げられていた。問題は、この力をどう使うかだ。


 「明日から、護衛をつけます」


 俺は決断した。


 「全員に」


 「でも、それでは活動に支障が……」


 マルクスが心配そうに言う。


 「命あっての物種です」


 俺は断言した。


 「まずは身を守りながら、奴らの正体を暴く」


 その時、執務室の扉が再び開いた。


 「緊急報告!」


 飛び込んできた伝令の顔は青ざめていた。


 「ギルド上層部で緊急会議が召集されました。議題は……『レオン・グレイの即時追放について』」


 俺は拳を握りしめた。

 

 改革どころか、再び追放の危機――いや、今度は命の危険まで。

 

 しかし、もう後戻りはできない。

 

 「受けて立つ」

 

 俺の声が執務室に響いた瞬間、外の廊下で重い足音が響いた。

 

 扉が勢いよく開かれる――

次から第1章のはじまりですー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ