第49話「運命の分岐点」
轟音と共に、隠し研究室の扉が破られた。
重装備のギルド治安部隊が雪崩れ込んできた。彼らの手には魔法封印具と拘束術式が握られている。
「レオン・グレイ! 観念しろ!」
部隊長の怒号が響く。
俺は立ち上がり、仲間たちの前に立った。古代魔導書の資料を守るように。
「もう時間がない……」
エリーゼが呟く。
確かに、俺たちは完全に包囲されていた。逃げ道はない。
『レオン』
アルフィの声が響く。彼女の声にも、緊張が滲んでいる。
* * *
「最後通牒だ」
部隊長が冷酷に告げる。
「古代魔導書に関する全ての研究資料を提出し、今後一切の研究活動を停止せよ」
「さもなくば――」
彼は魔法封印具を構える。
「全員を反逆罪で逮捕する」
室内に重い沈黙が流れる。これが、最後の瞬間だった。
屈服か、抗戦か。
俺は仲間たちを振り返った。マルクス、リリア、エリーゼ――みんなの顔に、同じ決意が浮かんでいる。
「みんな、本当にいいのか?」
俺は最後の確認をする。
「まだ間に合う。俺一人が責任を取れば――」
「何を言ってるんだ」
マルクスが遮る。
「俺たちは、チームだろう」
* * *
「私たちの研究は正しいんです」
リリアが前に出る。
「古代の叡智を、一部の権力者だけのものにしてはいけない」
エリーゼも頷く。
「知識は、全人類の財産よ」
『そして私も』
アルフィの声が響く。
『どんな選択でも、皆さんを支えます』
俺の胸が熱くなった。こんな仲間たちがいるなら――
「分かった」
俺は部隊長と向き合う。
「俺たちの答えは決まっている」
* * *
「俺たちは、正しいことをする」
俺の宣言に、仲間たちが立ち上がる。
「古代の叡智を守り、知識を解放する」
部隊長の表情が険しくなる。
「愚かな選択だ。逮捕しろ!」
治安部隊が一斉に動き出す。魔法封印具が俺たちに向けられる。
その時――
俺の中で、何かが激しく脈動した。
「うっ……」
胸の奥から、熱いものが立ち上がってくる。
それは、今まで感じたことのない感覚だった。
* * *
『レオン!』
アルフィの声に、驚きが混じる。
『あなたの中の何かが……覚醒しようとしています!』
俺は膝をついた。体の奥底から、巨大な力が湧き上がってくる。
古代魔導書で学んだ知識、仲間たちとの絆、アルフィとの信頼――全てが一つになって、俺の中で共鳴している。
「これは……」
俺は自分の手を見つめる。
手のひらに、金色の光が宿っていた。
治安部隊が魔法封印具を放つ。しかし、その術式は俺に届く前に霧散してしまう。
「馬鹿な……」
部隊長が愕然とする。
* * *
俺は立ち上がった。
体の奥底から湧き上がる力を感じながら。
「今、分かった」
俺は仲間たちを見回す。
「俺たちの使命が、俺の役割が」
古代魔導書の真の意味、アルフィとの絆、仲間たちとの信頼――全てが、この瞬間のためにあったのだ。
『レオン』
アルフィの声に、感嘆が込められる。
『あなたは……目覚めたのですね』
「ああ」
俺は頷く。
「でも、これはまだ始まりに過ぎない」
治安部隊が後ずさりする。彼らも、俺の変化を感じ取っていた。
* * *
その時、俺の瞳が金色に輝き始めた。
古代の叡智を受け継いだ者だけが持つという、伝説の徴。
「これが……」
マルクスが息を呑む。
「レオンの真の覚醒か」
俺は治安部隊を見据えた。もう、彼らを恐れる必要はない。
古代の叡智と仲間たちの絆を得た今、俺には新たな力がある。
知識を解放し、世界を変える力が――。
ついに、その時が来たのだ。




