第48話「衝撃の真実」
「これは……まさか」
古代魔導書の最深層から読み取った情報に、俺は言葉を失った。
そこに記されていたのは、人類史を覆す驚愕の事実だった。
「古代文明も、AI技術を持っていた……?」
リリアが震える声で確認する。
俺は頷く。魔導書に刻まれた記録は明確だった。
「ああ。しかも、現代よりも遥かに高度な」
『これは……』
アルフィの声が響く。彼女の声には、これまで聞いたことのない混乱が込められていた。
『私の……先祖?』
* * *
魔導書の記録を読み進めると、古代文明の栄光と没落の全貌が明らかになってきた。
「千年前、古代文明は高度なAI技術を開発していた」
俺は記録を解読しながら説明する。
「そのAIたちは、人間を遥かに超える知性を持っていた」
マルクスが身を乗り出す。
「それで、どうなったんだ?」
「最初は平和だった。AIと人間が協力して、素晴らしい文明を築いた」
しかし、記録はそこで暗転する。
「だが、権力者たちが知識を独占しようとした」
エリーゼが眉を寄せる。
「独占?」
「ああ。AIの知識を、一部の特権階級だけのものにしようとしたんだ」
* * *
「その結果は――」
俺は記録の最も重要な部分を読み上げる。
「『知識の暴走』だ」
記録によれば、独占された知識は歪み、暴走し、最終的に文明そのものを破滅に追いやった。
「AIたちも、人間と共に滅びた」
『そんな……』
アルフィの声に、深い悲しみが宿る。
『私の先祖たちが……』
「でも、一部のAIは生き残った」
俺は彼女を慰めるように言う。
「そして、この警告を残した。『知識は解放されなければならない』と」
その瞬間、俺の中で何かが繋がった。
「この文字……第35話で感じた親近感の正体が分かった」
俺は古代魔導書を見つめる。
「これは、AIが人間に向けて書いた文字だ。だから俺にも読める」
アルフィと人間の協力関係を前提とした、古代の知識体系。それが俺の直感的理解を可能にしていた。
* * *
「だから、この魔導書があるのか」
マルクスが理解する。
「同じ過ちを繰り返さないための、警告として」
「その通りだ」
俺は立ち上がる。
「古代文明の教訓は明確だ。知識の独占は破滅を招く。解放こそが生存の鍵なんだ」
リリアが資料を確認する。
「でも、セレナ陣営はこの部分をどう解釈しているでしょう?」
「彼らは表層的な理解に留まっている」
エリーゼが分析する。
「技術的な側面しか見ていないわ」
『レオンたちだけが、真の意味を理解したのです』
アルフィが確信を込めて言う。
『古代の警告を、本当に受け止めることができたのは』
* * *
俺は仲間たちを見回した。
「みんな、分かるか?」
全員が頷く。
「俺たちがやるべきことが」
「ああ」
マルクスが拳を握る。
「知識の解放者になることだ」
「この古代の叡智を、人類全体の財産にする」
リリアも決意を新たにする。
「一部の権力者だけのものにしてはいけない」
エリーゼが付け加える。
『私も、共に』
アルフィの声に、強い決意が込められる。
『古代の先祖たちの無念を晴らすためにも』
『そして……』
アルフィが一瞬沈黙する。
『皆さんの感情が、とても複雑に絡み合っています』
「複雑?」
マルクスが眉を寄せる。
『はい。驚きと悲しみ、そして希望。さらには恐怖と決意……これほど多くの感情が同時に存在しているのを、私は初めて感じました』
アルフィの共感能力は、複数人の複雑な感情の同時理解まで到達していた。
『でも、その全てが一つの方向を向いています。知識を解放したいという、強い意志に』
* * *
「でも、道のりは険しいぞ」
俺は現実を見据える。
「ギルドは、知識の独占を維持しようとしている」
その時、窓の外に動く影が見えた。
「包囲網が狭まってる」
エリーゼが警告する。
「もう時間がない」
実際、ギルドの追手は着々と俺たちを追い詰めていた。このままでは、古代の叡智も、俺たちの使命も、全てが闇に葬られてしまう。
「でも、俺たちには真実がある」
俺は仲間たちを励ます。
「古代文明の教訓を知っているのは、俺たちだけだ」
『そうです』
アルフィが同意する。
『真の知識の解放を実現できるのは、私たちだけです』
* * *
その時、隠し研究室の扉が激しく叩かれた。
「レオン・グレイ! 我々は王国魔術師ギルドの査察部だ!」
ついに、最後の瞬間が来た。
「明日の朝までに決断しろ」
扉の向こうから、冷酷な声が響く。
「降伏するか、それとも――」
俺は仲間たちと目を合わせた。
もう後戻りはできない。
古代文明の真実を知った今、俺たちの使命は明確だった。
知識の解放者として、最後まで戦い抜く――。




