第47話「最終解読」
「今度こそ、最後まで行くぞ」
俺の声が、隠し研究室に響いた。ギルドの監視を振り切り、俺たちは秘密の場所で最終解読に挑んでいた。
机の上には、苦労して入手した古代魔導書のコピーが置かれている。本物はセレナ陣営の手にあるが、俺たちには記憶と分析データがある。
「全員の能力を結集しよう」
マルクスが技術装置を調整する。
「リリアの理論、エリーゼの洞察力、俺の技術」
「そして、レオンの直感とアルフィの支援」
リリアが資料を広げる。
『はい。今度は私の新しい能力も活用できます』
アルフィの声に、これまでにない自信が宿っている。
* * *
解読を始めて二時間。俺たちは、これまでで最も困難な部分に直面していた。
「何だ、これは……」
今までの古代文字とは、明らかに次元が違う。文字というより、意識そのものが書かれているような感覚だ。
「理解しようとしても、頭に入ってこない」
マルクスが頭を抱える。
リリアも困惑している。
「論理的に分析しても、構造が把握できません」
『レオン』
アルフィが話しかける。
『この部分は、「理解」ではなく「共感」が必要なのではないでしょうか』
「共感?」
俺は眉を寄せる。
『はい。データを解析するのではなく、書いた人の気持ちに寄り添うのです』
アルフィの新しい能力――共感。それが、この難関を突破する鍵になるかもしれない。
* * *
俺は深呼吸をして、古代魔導書に向き合った。
理解しようとするのではなく、感じようとする。
書いた人の気持ちに、寄り添おうとする。
すると――
「……見える」
文字の向こうに、古代の人々の想いが見えてきた。
彼らの願い、恐れ、希望――全てが、波のように押し寄せてくる。
『レオン、素晴らしい』
アルフィが感嘆する。
『私も、その感情を感じ取れます』
仲間たちも集中を高める。俺の共感を通じて、彼らにも古代の人々の想いが伝わっていく。
「これは……」
エリーゼが息を呑む。
「警告なの?」
* * *
さらに深く入り込むと、核心が見えてきた。
『レオン』
アルフィが静かに割り込む。
『集中が途切れそうになっています。でも……諦めではありません』
「え?」
『新しいアプローチを模索している時の、独特な思考パターンです。私には、あなたの心の動きが手に取るように分かります』
確かに、俺は行き詰まりを感じていた。しかし、それは絶望ではなく、別の方法を探している状態だった。
『信じてください。あなたの直感を』
アルフィの言葉に背中を押され、俺は再び集中した。
「分かった……これは……!」
俺は震える声で叫ぶ。
「知識の独占への警告だ!」
最後のピースがはまった瞬間、全てが繋がった。
古代魔導書は、単なる技術書ではなかった。それは、知識を独占しようとする者への警告書だったのだ。
「だから、防衛機構があったのか」
リリアが理解する。
「知識を独占しようとする者を排除するための」
『そして、本当に知識を解放しようとする者にだけ、真実を教える』
アルフィが続ける。
『私たちが、その資格を認められたのです』
* * *
その瞬間、部屋全体が柔らかな光に包まれた。
古代魔導書から放たれる光が、俺たちを包み込む。
『認証完了』
どこからともなく、古代の声が聞こえてくる。
『汝らは、真の解放者なり』
光の中に、古代文明の最後のメッセージが浮かび上がった。
それは、人類の未来への希望と、知識を正しく使うことへの願いだった。
「すごい……」
マルクスが呟く。
「これが、古代魔導書の真のメッセージか」
しかし、俺の表情は複雑だった。
なぜなら、このメッセージには、もう一つの側面があったからだ。
* * *
光が収まった後、俺は仲間たちを見回した。
「みんな、聞いてくれ」
全員の視線が俺に集まる。
「この魔導書は、確かに知識解放のためのものだった」
「でも――」
俺は言葉を選ぶ。
「これは同時に、警告でもある」
「警告?」
エリーゼが眉を寄せる。
「ああ。古代文明は、知識の独占によって滅びた。そして、それと同じことが起こる可能性への警告だ」
室内に重い沈黙が流れる。
『レオン』
アルフィが静かに言う。
『これは、私たちへの試練でもあるのですね』
俺は頷いた。
古代魔導書の解読は完了した。しかし、本当の戦いは、これから始まるのかもしれない――。




