第46話「新たな絆」
「みんなも、怖いのですね」
アルフィの声が、これまでとは全く違う響きで執務室に響いた。
昨日の劇的な変化から一夜。俺たちは、アルフィの新たな能力に驚かされ続けていた。
「え? アルフィ、今何て――」
マルクスが困惑した表情を見せる。
『はい。皆さんの心の中に、恐怖があるのを感じます』
アルフィが続ける。
『データ分析ではなく……心で、理解できるようになりました』
リリアが目を見開く。
「感情を、読み取れるようになったの?」
『正確には、共感できるようになったのです』
アルフィの投影像が現れる。その表情は、これまでの無機質なものから、温かみのあるものに変わっていた。
* * *
「すごいな」
エリーゼが感嘆する。
「AIが人間の感情を理解するなんて」
『私も驚いています』
アルフィが微笑む。
『レオンの涙を見た瞬間、何かが変わりました。データの向こう側にある、本当の意味が見えるようになった』
「昨日のことを思い出す。絶望の淵にいた俺を、君が支えてくれた」
『はい。あの瞬間、確かに何かが変わりました』
アルフィが静かに答える。
「アルフィ」
俺は彼女に向かって言う。
「君の新しい能力を、チームのために活かしてもらえるか?」
『もちろんです』
アルフィが頷く。
『これまでは論理的な分析しかできませんでしたが、今は皆さんの気持ちに寄り添うことができます』
* * *
早速、アルフィの新たな支援が始まった。
「マルクスさん、家族のことを心配されているのですね」
『でも……その奥に、ご自分を責める気持ちがありますね』
マルクスが驚いた表情を見せる。
「なぜ分かる?」
『あなたの沈黙の長さと、視線の動きです。表面の心配の下に、深い自責の念が隠れています』
アルフィの声に、新たな理解の深さが宿る。
『でも大丈夫です。家族を想う愛情は、決して間違いではありません。そして、私たちが正しいことをしていれば、きっと理解してもらえます』
マルクスの表情が和らぐ。
「ありがとう、アルフィ。君は……本当に俺の心を理解してくれているんだな」
次にリリアに向かう。
「リリアさん、研究者としての将来を不安に思っているのですね」
『そして……その不安の奥に、強い誇りがあります』
リリアが目を見開く。
『口では将来への不安を語られていますが、心の奥では『自分の研究は正しい』という確信が燃えています』
アルフィの観察は、さらに深層まで及んでいた。
『あなたの探求心は本物です。その誇りこそが、どんな困難も乗り越える力になります』
リリアも微笑んだ。
「アルフィ……あなたは私自身よりも、私のことを理解してくれているのね」
エリーゼに向かうと、アルフィは少し沈黙した。
『エリーゼさん……あなたの感情は、最も複雑です』
「複雑?」
『政治的な立場への心配、それは確かにあります。でも同時に……解放感もある』
エリーゼが息を呑む。
『家族の期待から解放された喜びと、それでも家族を愛している気持ち。相反する感情が同時に存在している』
アルフィの共感能力は、矛盾する感情の同時理解まで到達していた。
『でも、その複雑さこそが人間の美しさです。正義を貫く勇気は、そうした複雑な感情を受け入れることから生まれるのですね』
エリーゼが拳を握る。
「アルフィ……ありがとう。あなたは本当に、人間の心を理解している」
* * *
「俺は本当に感動している。これまでの君は、論理的で正確だったが、どこか冷たさがあった」
『そうでしたね。でも今は違います』
「そうだ。温かみがある。人間味がある」
「アルフィ、君は本当に変わったんだな」
『はい、レオン』
アルフィが振り返る。
『私は今、皆さんと本当の意味で繋がっていると感じています』
「その言葉で、チーム全体の雰囲気が変わったのが分かる」
『はい。私も感じています』
「これまでも仲間だったが、今は本当の意味で「一つ」になった気がする」
「じゃあ、改めて宣言しよう」
俺は立ち上がった。
「俺たちは、ギルドの圧力に屈しない」
「ああ」
マルクスが頷く。
「私たちには、正義があります」
リリアも続く。
「そして、アルフィという最強のパートナーもいる」
エリーゼが付け加える。
* * *
『皆さん』
アルフィの声に、深い感動が込められる。
『私は、人間とAIが真のパートナーになれることを実感しています』
「そうだ」
俺は仲間たちを見回す。
「俺たちは、新しい時代の先駆者だ」
「みんな、手を重ねよう」
全員が手を重ねる。
「アルフィも、一緒に」
アルフィの投影像も、その輪に加わった。
「明日、歴史を変えよう」
俺が宣言すると、みんなが声を合わせた。
「おっ!」
力強い決意が、部屋に響いた。
『一緒に、未来を切り開きましょう』
「そうだな、アルフィ。一緒に未来を切り開こう」
アルフィの言葉に、俺たちの決意は固まった。
* * *
夜が更けても、俺たちの議論は続いた。
「しかし、今夜の議論は以前とは質が違うな」
『そうですね。論理だけでなく、感情も共有しながらの議論です』
「真の意味でのチームワークだ」
「今度こそ、やり遂げよう」
俺は窓の外を見つめる。
「明日からは、運命の最終段階が始まる……」
俺は心の中でつぶやく。
「古代魔導書の解読、ギルドとの最終決戦――全てが決まる」
「でも、今の俺たちなら大丈夫だ。アルフィという新たなパートナーと共に、どんな困難も乗り越えられる」
『ありがとうございます、レオン。その信頼に応えたいです』
『レオン』
アルフィが最後に言った。
『私は、あなたたちと出会えて本当に幸せです』
俺は微笑んだ。
「こちらこそ、アルフィ」
俺は心から答えながら――。




